北朝鮮兵士、酔って民間人を暴行し全軍を揺るがす大問題に

娯楽の非常に少ない北朝鮮で、最も手軽な娯楽と言えるのが「酒盛り」だ。当局は酒に酔って騒いだりすることを、社会主義の美徳にそぐわない「スルプン」(酒風)と呼んで嫌い、取り締まりを行ったりするが、一向に収まる気配はない。

ましてや血気盛んな軍人ともなれば、トラブルを起こしがちだ。金正恩総書記が旗振り役となって進めている首都・平壌の5万世帯住宅建設に動員された軍人たちが、酔ってトラブルを起こした。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平安北道(ピョンアンブクト)の軍関連情報筋によると、事件が起きたのは今月初め。市内の平川(ピョンチョン)区域のビヤホールで、6人の兵士が、その日の仕事を終えても部隊に戻らずビールを飲んでいた。これは軍の規律違反だが、大目に見られている。

しかし、この兵士たちは度を越してしまった。

原因は不明ながら民間人と喧嘩になり、暴行したのだ。怪我の程度は明らかになっていないが、6人もの屈強な軍人から暴行されて、無事でいられるわけがないだろう。

ただ、無事ではなかったのは軍人の方も同じだ。6人は現場で逮捕された。朝鮮労働党平壌市委員会からの報告を受けた中央政府は、今回の事件を深刻な政治的事件とみなし、厳罰に処すことを指示した。6人は労働連隊(軍の刑務所)行きになるものと見られる。良好な軍民関係を重要視する当局は、軍人による民間人への加害を深刻な問題とみなす傾向にある。

気の毒なのは、まじめにやっているであろう他の兵士たちだ。中央政府は、全軍に対して規律違反の取り締まり強化を指示した。

それに伴い、平壌の住宅建設に動員された軍人の移動が禁止され、どうしても移動が必要な場合には、軍官(将校)の引率のもとで移動することとなった。帰り道に軽く一杯ひっかけることも、当然できなくなってしまった。

今回の事件の影響は、地方に駐屯する軍にも及んでいる。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の別の軍関連情報筋は、総参謀部から、今回の軍規紊乱行為をひっかけに、軍人への統制を強化せよとの指示が下されたと伝えた。

問題を起こした軍人本人はもちろん、所属部隊の指揮官(少佐)、政治指導員(大尉)にも連帯責任を負わせ、出党(労働党からの除名)、撤職(更迭)、不名誉除隊の処分を下し、事案が重大な場合は、部隊そのものを解散させると警告した。

これに対して軍内部からは「建設現場に動員された軍人は、任務の特性上、分散しているため、統制は難しい。それを知りながらなぜ、すべての責任を現場の幹部に押し付けるのか」という、批判の声が出ていると情報筋は伝えている。

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