「スーパーフォーミュラの経験がF1シミュレーターに役立っている」ローソンが語る英国での多忙な日常

 2023年から全日本スーパーフォーミュラ選手権に初参戦しているリアム・ローソン(TEAM MUGEN)。ここまで5戦を終えて2度の優勝を飾る活躍をみせ、第5戦SUGOを終えた時点でドライバーズランキング2位につけている。

 今季はスーパーフォーミュラのレースに参戦している一方で、F1ではオラクル・レッドブル・レーシングのリザーブドライバーも務めており、シーズンが開幕してからは日本とヨーロッパを常に行き来している多忙な日々を過ごしているものの、それぞれのシリーズに携わることで、自身のスキル向上にもつながっているという。

 ローソンは6月16〜17日のスーパーフォーミュラ第5戦SUGO終了後、続く6月23〜24日の富士公式テストに参加するため、そのまま日本に滞在し、蔵王や日光の湯滝を訪れるなど、わずかなインターバルを満喫していたという。ただ、富士公式テストが終わると翌朝の便でヨーロッパに戻り、すぐに“レッドブルF1リザーブドライバー”としての仕事が待っていることを明かした。

■多忙でも欠かせない“スーパーフォーミュラでの経験”

「7月はめちゃくちゃ忙しい」と苦笑いするローソン。実際にレーススケジュールを見ると、7月はF1のオーストリア、イギリス、ハンガリー、ベルギーと4グランプリが行われるほか、唯一のインターバルとなる7月15日~16日は富士スピードウェイでスーパーフォーミュラ第6戦が予定されている。

「オーストリアにはリザーブドライバーとして(現地に)行き、その次は数日だけオフになる予定だよ。その後は日本に戻りスーパーフォーミュラ富士大会に参戦して、またヨーロッパに戻り、ハンガリーとスパ(ベルギー)が待っている。それで夏休みに入れるけど……それまでがめちゃくちゃ忙しいね」

 チームとともに現地に帯同し、万が一の事態に備えてスタンバイをしておくのがリザーブドライバーの仕事。ただ、同じレッドブルリザーブドライバーのダニエル・リカルドが現地に帯同している場合などは、レッドブルのファクトリーでシミュレーターに乗り、データ収集やさまざまなテストを行うこともあるという。

2023年F1第8戦スペインGP マックス・フェルスタッペン/リアム・ローソン(レッドブル)

「レースがないときなどは、ミルトンキーンズ(レッドブルのファクトリーがある場所)に行ってシミュレーターにもたくさん乗るよ」とローソン。

 スケジュールによって乗車時間は異なり「平均すると、朝9時から乗り始めて5〜6時まで乗っているかな。もちろんレースウイークに入るとシミュレーターで試すことも増えるから、もっと忙しくなる。でも、その担当はいつも僕だけというわけではないし、他のドライバーが担当するときもあるけど、多いときは1日中乗っている」とのこと。想像以上にハードワークをこなしており、スーパーフォーミュラの練習もこのシミュレーター施設を使用して行っているようで、特に初経験となったオートポリスとスポーツランドSUGOは念入りに練習した様子だ。

 F1チームでシミュレータードライブを担当するとなると、自身のドライビングスキル向上というよりは、さまざまなテストをシミュレーター上で行い、それに対する的確なコメント力やフィードバック能力も求められる。そのなかで役立っているのがスーパーフォーミュラでの経験だとローソンは語る。

「正直、F1とスーパーフォーミュラはクルマやエンジンパワーが違うから、基本的には“別物”だけど、スーパーフォーミュラはすごくハイダウンフォースで、その特徴はF1に似ている。だから、どちらかというとスーパーフォーミュラでの経験がF1シミュレーターに乗ることに対してのヒントになっていて、役立っている部分はあるね」

「スーパーフォーミュラに乗ることで勉強になっていることはすごく多いよ。クルマを良くするために、みんなで話し合ってアイデアを出す過程のなかで、クルマのセットアップについても勉強できているし、速さを引き出すためのドライビングを考える機会にもなっている。双方でうまく活用できていると思う」

2023スーパーフォーミュラ富士公式テスト リアム・ローソン(TEAM MUGEN)

■「SUGOでポイントを取りこぼしただけ」スピードでは宮田莉朋に負けていないと自信

 現在のスーパーフォーミュラは、マシン1台に対して複数のエンジニアが張り付き、細かなデータ分析とドライバーのフィードバックからマシンのセットアップを作り上げていく傾向がある。ローソンはそれを実戦で経験する一方、ヨーロッパに戻るとF1のシミュレーターに乗って毎日エンジニアとやり取りを行っている。

 この経験がF1だけでなくスーパーフォーミュラでも活きている様子で、「今回の富士テストでは、リアム(ローソン)のフィードバックがかなり改善されてきているなと思いました」と15号車担当の小池智彦エンジニアは語る。

「FIA F2やFIA F3では、チームがドライバーに対してセットアップをまったく公開せず、与えられたクルマをドライビングでアジャストするらしいのですけど、スーパーフォーミュラはドライバーとチームでクルマを作り上げていきます。その部分はF1に近いのかもしれません」

「彼はF1でシミュレーターに乗ったりしていますけど、やり方が(スーパーフォーミュラに)近いと言っています。そういった意味で、彼にとって(スーパーフォーミュラで走ることは)勉強になっているのかなと思います」

小池智彦エンジニア/リアム・ローソン(TEAM MUGEN)

 常に“学ぶ姿勢”を忘れず、スーパーフォーミュラやF1リザーブドライバーとしての経験を次に活かそうとしているローソン。シーズン序盤と比べても着実に力をつけている印象がある。しかし、目標とするスーパーフォーミュラチャンピオン獲得のためには、ランキング首位の宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM’S)との12ポイント差を逆転しなければならない。

 前回の第5戦SUGOは宮田の独走劇が際立つレース内容となり、シーズン序盤戦に群を抜く強さをみせてきたTEAM MUGENは“追う立場”で後半戦を迎える。しかしローソンは、焦りなどを感じている様子はない。

「正直に言うと、スピードに関しては(宮田)莉朋に負けていないと思う。ただSUGOで僕たちはポイントを取りこぼしてしまっただけだ。僕たちも良いスピードを持っているわけだから、それを後半戦でもしっかりと発揮していくことに集中したい」

「今回の富士テストでは2日間を通していろいろなことを試すことができた。予選のシチュエーションもそうだし、2日目の午後はレースを想定したテストも行った。さまざまな収穫があったから、そのデータをレース本番に向けて活かすことができれば良いなと思う」

 7月の第6戦富士からシーズン後半戦に入る2023年のスーパーフォーミュラ。チャンピオン争いも佳境に差し掛かっており、そのなかで常に進化を続けるローソンがどんな戦いぶりを見せるのか。残り4戦、ますます目が離せない。

2023スーパーフォーミュラ富士公式テスト リアム・ローソン(TEAM MUGEN)

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