【全ドライバー独自採点/F1第9戦】困難な週末に圧倒的な輝きを見せた4人。マシンの実力以上の結果を出したアルボン

 長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、全20人のドライバーのグランプリウイークエンドの戦いを詳細にチェック、独自の視点でそれぞれを10段階で評価する。今回はカナダGPの週末を振り返る。

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 モントリオールでは、不安定な天候に加え、サーキットの監視カメラのトラブルという異常事態が発生し、ドライバーとチームの仕事に大きな影響を与えた。FP1は実質的にキャンセルとなり、FP3と予選は雨に見舞われ、ドライの決勝にはほぼ手探りで臨むことになった。雨によって、路面に乗ったラバーが洗い流され、タイヤの寿命を予想することも困難だった。

 このような状況下だけに、優秀なドライバーたちが輝き、世界でトップ3のドライバーたちが表彰台を独占したのは意外なことではない。それ以外にひとり、最高のパフォーマンスを見せたドライバーはいたが、残りの16人は平凡なパフォーマンスから辛うじて平均以上といったレベルで、4人には遠くおよばなかった。

■評価 10/10:完璧な仕事をしたフェルスタッペンと、驚きのQ2最速を達成したアルボン

マックス・フェルスタッペン(レッドブル):予選1番手/決勝1位
アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ):予選10番手/決勝7位

2023年F1第9戦カナダGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル)がレッドブル100勝目を達成

 マックス・フェルスタッペン(レッドブル)は週末全体をほぼ完璧に過ごし、決勝残り5周のところで、体勢を崩したことが唯一のミスだった。レッドブルはシーズン通して他に対して大きなギャップを築いているが、今回は今までほどのアドバンテージはなく、完璧な仕事をしなければ勝利を逃がす可能性があることを、フェルスタッペンは知っていた。RB19がライバル車に対して圧倒的なパフォーマンス差を示していないレースで、フェルスタッペンは、スタートとリスタートでポジションをしっかり守り、ある程度の余裕を持って優勝を飾った。予選Q3でのラップタイムは、フェルスタッペンの優秀さを再確認させるものだった。

 この週末のもうひとりのスターは、アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)だった。アルボンはウイリアムズのマシンが本来なら到達できない位置に導き、58周というロングスティントを、ミスせず、タイヤに過度の負担をかけることなく走り切った。

 予選Q2序盤にスリックタイヤで出るという勇気ある選択をし、この賭けが大成功を収め、Q2最速タイムをマーク、速さとスキルを証明した。Q3では10番手にとどまったが、それ以外は週末を通して完璧だった。決勝では速さでははるかに勝るジョージ・ラッセルとエステバン・オコンを使い古したタイヤで抑えきり、ウイリアムズに6ポイントを持ち帰った。

2023年F1第9戦カナダGP アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)

■評価 9/10:輝き続けるベテラン、アロンソとハミルトン

フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン):予選3番手/決勝2位
ルイス・ハミルトン(メルセデス):予選4番手/決勝3位

2023年F1第9戦カナダGP フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)

 フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)は、今回のレースには10年ぶりの優勝のチャンスがあると考えていた。決勝でトップに躍り出ることを期待していたが、逆にポジションを落とし、レース序盤はルイス・ハミルトンの後ろを走ることに。22周目に2番手に復帰し、ウォールに2回接するほどプッシュしたが、アロンソはフェルスタッペンに追いつくことは無理であると悟った。その後は、ハミルトンからポジションを守ることに全力を尽くし、最後までメルセデスを抑えきり、アストンマーティンに貴重な2位をもたらした。

 もうひとりの卓越したベテラン、ルイス・ハミルトン(メルセデス)は、競争力が増してきたマシンで、若きチームメイトがかすんで見えるようなパフォーマンスを再び披露した。決勝では素晴らしいスタートで2番手に上がったが、フェルスタッペンを追いかけるのは不可能であることがすぐに判明した。セカンドスティントでのハードタイヤでのペースがいまひとつで、アロンソに抜き返されたが、最終スティントでミディアムに換えると、再びアロンソを追う速さを取り戻した。最終的にアロンソに追いつくことができなかったものの、暫定ファステストラップを記録、最終ラップにソフトタイヤでセルジオ・ペレスが更新するまでは、最速の位置を維持していた。ハミルトンとアロンソのベテランふたりは、今も現役ドライバーにおけるベスト3に並ぶ実力を持っていることが、今回改めて明白になった。

2023年F1第9戦カナダGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)

■評価 7/10:予選2番手。厄介なコンディションで実力を発揮したヒュルケンベルグ

エステバン・オコン(アルピーヌ):予選6番手/決勝8位
ランド・ノリス(マクラーレン):予選7番手/決勝13位
バルテリ・ボッタス(アルファロメオ):予選15番手/決勝10位
ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース):予選2番手/決勝15位

 最初に挙げた4人とそれ以外のドライバーとのパフォーマンス差は非常に大きかったため、評価にも大きな差をつけることにした。これから紹介する4人は、満足して良いレベルだったが、ベストといえる輝きはなかった。

 エステバン・オコン(アルピーヌ)はアルピーヌを悲惨な週末から救い出したといっていいだろう。5番グリッドからスタート、アルボンより新しいタイヤで走りながら、トップスピードが不足していたため、追い越すことができなかったが、8位入賞を果たした。予選ではQ3で自分のベストのパフォーマンスを見せて好位置をつかんだ。ただ、予選が赤旗中断となる前に2周の計測ラップを走り切った3人のドライバーのなかでは一番遅かった。全体的には悪くない週末を送ったといえる。

2023年F1第9戦カナダGP エステバン・オコン(アルピーヌ)

 ランド・ノリス(マクラーレン)にも同じことが言える。彼は困難なコンディションを最大限に生かして予選Q3に進出した。しかし決勝スタートでチームメイトのオスカー・ピアストリにポジションを奪われたことが、結果に響いた。セーフティカーが出動した際に、マクラーレンはダブルピットストップを実施。ノリスは、タイムロスを防ぐためにペースを落としたことが、後方のグループを遅らせることになったとして、5秒のタイムペナルティを受けた。そのため、9位でフィニッシュしたにもかかわらず、ポイント圏外の13位に降格されたのだ。ピアストリやバルテリ・ボッタスを追い抜くアクションは素晴らしかったが、ポイントにはつながらなかった。

 バルテリ・ボッタス(アルファロメオ)は、12周目のセーフティカー中にステイアウトする作戦が実を結び、チームのために重要なポイントを獲得した。レース終盤、アルボンとオコンの後ろに引っかかり、ペナルティで降格が決まっているノリスに抜かれた後、レース最後の数メートルでバッテリーパワーが切れて、ランス・ストロールにポジションを奪われた。

 ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)にとって決勝は、5番グリッドからスタートしながら15位と、ひどい結果に終わった。しかしそもそも予選2番手は、彼がマシンの実力を超えた走りをしたことによるものであり、決勝のパフォーマンスが本来のハースの姿である。ヒュルケンベルグの予選ラップは、困難なコンディションで彼がどれだけ素晴らしい仕事ができるかを示すものだった。ペナルティでの降格で5番グリッドからスタートしたヒュルケンベルグだが、決勝でポイント争いをする力がマシンになかった。

2023年F1第9戦カナダGP予選 PPマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2番手ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)、3番手フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)

■評価 6/10:ルクレールのQ2敗退は自分自身の責任

シャルル・ルクレール(フェラーリ):予選11番手/決勝4位
カルロス・サインツ(フェラーリ):予選8番手/決勝5位
オスカー・ピアストリ(マクラーレン):予選9番手/決勝11位

2023年F1第9戦カナダGP シャルル・ルクレール(フェラーリ)

 決勝日だけを見れば、シャルル・ルクレール(フェラーリ)にはもっと良い点数をつけただろう。だが予選Q2敗退の責任は彼自身にあった。インターミディエイトでの2回目のアタックで、十分Q2に進めるはずで、3番手タイムを出せたかもしれなかったが、シケインでオーバーシュートしてしまい、ラップが台無しになったのだ。日曜日には、オープニングラップでアルボンをパスした後、DRSトレインに巻き込まれた。セーフティカー中にステイアウトすることを選択したことで、ミッドフィールドを大きく引き離し、最後のスティントではハードタイヤでアロンソとハミルトンに匹敵するタイムで走った。予選Q2のミスがなければ、好結果を出していただろう。

 チームメイトのカルロス・サインツ(フェラーリ)も、予選での低迷の責任を負うべきだ。Q3で唯一のタイムアタックとなった周回を中止し、次のラップで良いタイムを出すことに賭けた。しかし赤旗が出たことで8番手に沈んだのだ。序盤のタイミングで2番手タイムを出すチャンスがあったにもかかわらず、それを逃したわけだ。予選で他のドライバーの妨害をしたとしてペナルティを受けたことは、公平な判断だったといえるだろう。サインツはフリープラクティスでも他車の妨害をしたことがある。レースでは、スタートでペレスに抜かれた後、ルクレールと同様の形でポジションを上げ、揃ってチームに貴重なポイントをもたらした。

 オスカー・ピアストリ(マクラーレン)が、予選の非常にトリッキーなコンディションで、経験あるノリスに大きく離されることなくQ3に進出したことは、称賛に値する。しかしQ3でウォールにぶつかってしまったため、9番手という結果になった。決勝では、チームメイトを抜いた後、ハースの2台に勇敢に仕掛けたことが彼にとってのハイライトだった。しかしその後のリスタート後にノリスに抜かれ、ミッドフィールドから遅れてしまい、ポイント圏内には入れなかった。

■評価 5/10:マシンの競争力不足でトップ10に入れなかった角田

角田裕毅(アルファタウリ):予選16番手/決勝14位
ピエール・ガスリー(アルピーヌ):予選17番手/決勝12位
ジョージ・ラッセル(メルセデス):予選5番手/決勝リタイア
セルジオ・ペレス(レッドブル):予選12番手/決勝6位
周冠宇(アルファロメオ):予選20番手/決勝16位

2023年F1第9戦カナダGP 角田裕毅(アルファタウリ)

 アルファタウリはこの週末、明らかに競争力が低く、角田裕毅(アルファタウリ)は、強い印象を残すことができなかった。予選Q1ではトラフィックの影響を受け、0.016秒差で敗退。さらに他車妨害のペナルティで19番グリッドからのスタートになった。スタートでローガン・サージェントをパスした後、すぐさまピットストップを行う作戦で走り、最終的にハースの2台とチームメイトの前に出た。他のドライバーたちのミスやペース不足が角田にとって有利に働いたが、それでもトップと同一周回のグループの最後尾にとどまった。

 ピエール・ガスリー(アルピーヌ)は予選で妨害を受けたことでQ1で敗退する羽目になったと不満を訴えているが、もう少し早い段階で十分なタイムを出しておくべきだったとも言える。決勝では1周目にランス・ストロールをパスしたものの、その後は他のドライバーがトラブルに見舞われた際にポジションを上げるだけで、9位を争うDRSトレインのなかで走り、ポイント圏内に入る速さを示せずに終わった。

 メルセデスがW14を改良するにつれて、ジョージ・ラッセル(メルセデス)は、ハミルトンについていくのに苦労しているように見える。予選で0.25秒以上の差をつけられるのは、若いラッセルにはショックな結果だっただろう。レースでは、ハミルトンとアロンソに追いつくためにプッシュした結果、12周目にウォールに接触。メカニックたちがマシンを修理してラッセルをコースに復帰させることができたが、オコンの背後で長時間にわたって走り続けた後、ブレーキの温度が上昇し、リタイアせざるを得なくなった。

 セルジオ・ペレス(レッドブル)に関しては、何と言うべきか、言葉がない。3戦連続でQ3に進出できず、決勝ではフェラーリ2台についていくことすらできずに、単独走行の6位にとどまった。ダニエル・リカルドがサードドライバーとしてひかえているなかで、大きなスランプに陥ったペレスは非常に懸念すべき立場にある。彼はできるだけ早く立ち直らなければならない。

 昨年好成績を挙げたサーキットで、周冠宇(アルファロメオ)は今年は期待外れの週末を送ることになった。Q1スタート時のトラブルが彼の自信に影響をおよぼし、うまく予選ラップをまとめあげることができず、ボッタスより1秒も遅いタイムに終わった。決勝は最後尾グリッドからスタート、入賞のチャンスはつかめなかった。

2023年F1第9戦カナダGP セルジオ・ペレス(レッドブル)

■評価 4/10:状況を改善できずにいるデ・フリース

ランス・ストロール(アストンマーティン):予選13番手/決勝9位
ニック・デ・フリース(アルファタウリ):予選18番手/決勝18位
ローガン・サージェント(ウイリアムズ):予選19番手/決勝リタイア

2023年F1第9戦カナダGP ニック・デ・フリース(アルファタウリ)

 ホームグランプリでランス・ストロール(アストンマーティン)は、忘れてしまいたい週末を過ごした。マシンに大きなアップグレードが施されたが、初日からストロールはアロンソにかなわなかった。FP3がウエットコンディションになったため、チームメイトのドライビングスタイルを真似するための時間も不足した。予選ではQ1をかろうじて通過して13番手で終え、オコンへの妨害で3グリッド降格。全チーム中2番目に速いマシンに乗りながら、レース中に大きくポジションを上げることもできず、ボッタスが残り数メートルでバッテリーパワーが切れたために前に出ることができ、ノリスのペナルティでひとつ繰り上がったことにより、9位入賞となった。

 ニック・デ・フリース(アルファタウリ)の状況は、まるで良くなっていない。今回の厳しいコンディションもルーキーにとって助けにならず、予選は18番手にとどまった。レースでは、ケビン・マグヌッセンに対する強固なディフェンスの後、ターン3でブレーキングをミスし、マグヌッセンとともにコースオフするインシデントもあった。デ・フリースはレースを続けられたが、最下位完走にとどまった。

 マシンのアップデートがアルボン車にだけ入れられたため、ローガン・サージェント(ウイリアムズ)には今回大きなチャンスはなかった。さらにコンディションが彼の週末をより難しいものにした。予選最下位は避けられたものの、レースではPUの問題が原因でわずか6周でリタイアしなければならなかった。

■評価 3/10:チームメイトと比較して精彩を欠いたマグヌッセン

ケビン・マグヌッセン(ハース):予選14番手/決勝17位

2023年F1第9戦カナダGP エスケープロードに飛び出してしまったニック・デ・フリース(アルファタウリ)とケビン・マグヌッセン(ハース)

 今回の評価で最下位としたのは、ケビン・マグヌッセン(ハース)だ。彼にとって忘れてしまいたい週末だった。予選でチームメイトが2番手を獲得したのに対し、マグヌッセンは14番手。レースでは、いつもどおり激しいディフェンスに徹した後、デ・フリースにお返しされる形になった。このところ、ヒュルケンベルグに比べるとパフォーマンスが色あせつつあり、今回の17位という結果もそれを物語っている。

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