サーキュラーエコノミーの研究、8割超が先進国対象 世界の人が働きがいのある人間らしい仕事を手にするには

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オランダのサーキュラーエコノミー(循環型経済)推進団体「サークルエコノミー(Circle Economy)」やILO(国際労働機関)などは5月、新たな報告書『循環型経済におけるディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)』を発表した。近年、気候変動などの環境目標を達成する手段として、また同経済への移行によって世界で700―800万人の雇用が創出されると予測されることから、循環型経済への注目が高まっている。しかし、報告書は「循環型経済と雇用機会」に関する研究がグローバルノース(先進国)に大きく偏っていると指摘。グローバルサウス(途上国・新興国)の人々や非正規労働者、女性、移民、若者、そのほかの脆弱な人々にもたらす影響について十分な研究が行われていない課題が浮き彫りになった。(翻訳・編集=小松はるか)

報告書を発表したのは、サークルエコノミーとILO、生産性の高い仕事に就く若者を増やすことに取り組む世界銀行のS4YEプログラムだ。3組織は、雇用機会の公平な創出を妨げる可能性のある知識ギャップ、研究ギャップが存在すると指摘する。持続可能で循環型の経済を構築するには、こうしたギャップを埋める取り組みが必要となる。また、報告書では、循環型経済に関連する仕事についてこれまでに分かっていることの概要を紹介するほか、意思決定を行うための確固たる土台となる、一貫性があって国際的に通用する証拠・データを増やしていくことを求めている。

グローバルノースを扱う研究が8割以上

報告書では、1995年から2022年にかけて行われた「循環型経済とディーセントワーク」を扱った発行物を調査。現在の研究の84%がグローバルノースをテーマにしていることが明らかになった。さらに、循環型経済の取り組みの多くがグローバルサウスで実践されているにも関わらず、サハラ以南のアフリカや東欧、中東、北アフリカに関する研究は非常に少ない。

また、低所得国の労働者の73%がインフォーマル経済(非公式経済)で働いているものの、研究対象のほとんどが法的、実務的に公式の取り決めのあるフォーマル経済の仕事だ。インフォーマル経済は世界的に都市部に集中している。最も一般的なインフォーマルで循環型の仕事はごみ拾い。世界では1140万人がごみ拾いに従事しているとみられている。

さらに、既存の研究は雇用創出に偏っており、職場環境や賃金といった仕事の質について研究しているものは少ない。報告書は、循環型経済が低所得国で貧困を減らし、脆弱なコミュニティにメリットをもたらせるかどうかや、その方法について検証している研究が一握りしかないと指摘する。

S4YEのプログラムマネージャーを務めるナミタ・ダッタ氏は、「環境の持続可能性の目標と人間の能力開発や雇用との関連性は、特に、低品質で低賃金の仕事に分類されるインフォーマルな部門で働く人がほとんどの途上国・新興国において見落とされることが多い。より循環型の取り組みに移行していくには、創出される雇用が環境のみならず労働者にとっても良いものであることを保証する方針が必要だ」と話す。

「重要なのは、廃棄物管理やリサイクル、リユース、修理などの循環型経済の取り組みに関わる危険な労働環境や有毒物質にさらされるような非公式な部門の低品質・低賃金の仕事に対処することだろう。しかし、そのためには、計画性のある適切な政策と、循環型経済がもたらす暮らしへの影響を、把握するためのさらなる根拠が必要になる。循環型経済への真の公正な移行には、労働者がより良い雇用の機会をつかむためのリスキリングやスキルアップの機会が必要になるだろう」

循環型経済におけるディーセントワーク 5つの重要なテーマ

「循環型経済におけるディーセントワーク」を調べた現在の研究には基盤となる5つの重要なテーマがある。これらのテーマは、極めて重要なチャンスや課題を示しており、より公正で包摂性のある社会をつくるために、循環型経済へと移行する上で考慮すべきことでもある。

1. 労働市場・部門の変化
雇用と雇用創出は、循環型経済がもたらす最も重要な社会・経済への貢献といわれている。ILOが行った2018年の研究によると、リサイクルや再処理の分野で新たな雇用が創出されることで、南米・カリブ諸国(1000万人以上)と欧州(約5000万人)で新たな雇用が生まれ、世界的に雇用が増加するとみられている。そして、雇用が最も増加すると予想されているのがEUだ。他の国・地域と比べ、先行者利益による恩恵を受けるとされる。

2. 循環型経済のなかのインフォーマルな労働
インフォーマル経済は世界人口の6割を占めると予想されるが、多くの研究・政策的アプローチはインフォーマル経済を規制のあるフォーマル経済の一部と捉えている。こうしたことは、リユースやリサイクル、修理、廃棄物収集などの部門が低所得労働者に多くの仕事を提供するグローバルサウスにおいて特に顕著だ。しかしながら、グローバルノースの循環型経済の計画にインフォーマル経済が十分に含まれているとは言えない。また既存の研究も、グローバルサウスで非公式に行われている循環型経済に関わる幅広い仕事を十分に考慮していない。

3. 仕事の再配置と能力開発
労働者を通常の経済部門から循環型経済の部門へと上手く再配置できるかは、研修や関連する措置を受けられるかによって決まる。循環型経済への移行に伴い必要となる「ディープ・スキル(深い洞察に基づいたスキル)」の修得は、循環型のビジネスモデルに対する雇用主や教育機関の知識に左右される。知識の不足は、特に、リマニュファクチャリング(再製造)するためのSTEM(科学・技術・工学・数学)技能の修得や関連セクターとの連携が、不十分な可能性のある低所得国においてディープスキル・ギャップを生み出す可能性がある。

4. 労働環境と社会保障
学者や実務家の中にはSDGsの目標1「貧困の撲滅」の解決策として、循環型経済を提案する人たちもいる。しかし、貧困の削減についての研究はまだ不足している。循環型の取り組みに関する健康・安全への懸念の多くは、国際的な廃棄物取引やグローバルノースからグローバルサウスへと送られる中古品に関するものだ。そうした現場では、働く人たちが有毒な廃棄物にさらされることも多い。

5. 性差別と社会的公正
循環型経済への移行によって、女性の雇用が世界的に増加することが予測される。また、循環型経済が、注目されることの少ない移民労働者や若者などの循環型経済の現場で働く人たちにもたらす影響という、社会的盲点に関する懸念を掘り下げた研究は3件しかなく、深刻な知識ギャップが存在することが明らかになった。

ILOの本部部門別政策局長を務めるアレット・ヴァン・ルール氏は「循環型経済が気候変動目標の達成に役立つことは疑いようがない。しかしながら、循環性と社会・経済の進歩の達成とのつながりは見落とされている。より循環型の経済へ移行することは、新たな雇用や持続可能な企業の創出という重大なチャンスをもたらす。しかし、循環型経済の可能性が完全に開かれていくには、不平等や循環型経済における最善とはいえない労働環境に対処する公正な移行が必要だ。こうした課題は、適切に扱わなければ、より公平で持続可能な未来への進歩を妨げ続ける可能性がある」と語る。

報告書は、グローバルサウスやインフォーマル経済で働く労働者、国際的なバリューチェーンに着目し、ディーセントワークと循環型経済に関してさらに掘り下げた包摂性のある研究が必要だとしている。執筆者らは、知識ギャップを埋め、気候正義や女性のエンパワーメントといった他の重要なテーマにも同時に対処していくために、政府・社会への共同での働きかけやデータ連携が必要になると説明している。

サークルエコノミーの政府・機関部門を率いるハティー・クーパー氏は、「循環型経済がどのようにして世界のさまざまな産業において質の高い雇用を創出していけるかを知るために、より良いデータと証拠を手に入れることは公正な移行を進める上で不可欠だ。また、循環型経済はいまだに環境目標だと捉えられている。重要なテーマであるにも関わらず、社会・経済的なメリットが十分に認識されていない。私たちは、社会経済的なインパクトを証明し、その証拠・データを実務者や意思決定者に提供するべく連携して取り組んでいく必要がある」と話す。

今回の報告書は、サーキュラー・ジョブ・イニシアティブの下で3機関が初めて行った共同事業だ。イニシアティブは5月9日にジュネーブ環境ネットワークで発表され、報告書から得られた知見は今年の世界サーキュラーエコノミーフォーラム(5月30日―6月2日開催)でも発表された。

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