ロス・チャスティンがチーム代表の地元ナッシュビルで「完璧な」今季初勝利/NASCAR第17戦

 レギュラーシーズンも残り10戦。2023年も後半戦に突入したNASCARカップシリーズ第17戦『アリー400』は、チーム所有者の地元でもあるナッシュビルで、キャリア初ポールポジション獲得から「完璧な週末」を戦ったロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)が今季初勝利。優勝のギター・トロフィーを前に恒例の“スイカ割り”で祝福し、ジャスティン・マークス代表に「感謝を捧げる」バーンナウトを披露した。

 スケジュール上で唯一のオフとなった週末を経て、6月23〜25日にナッシュビルのスーパースピードウェイで再開されたカップシリーズは、今季開幕からの16戦を通じて10名の勝者が誕生し、それぞれのドライバーがプレーオフへの出場権を獲得している。

 また、今季限りでの引退を表明しているケビン・ハーヴィック(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)のシートを引き継ぐ候補として、SHRは後半戦折り返しを前にジョシュ・ベリーの来季起用をアナウンス。怪我の療養で休場の続いたチェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)の代打として、今季はHMSで戦ってきたベリーにとっても、晴れて2024年のフルタイムシートを確保する運びとなった。

「4号車ほど成功を収めた象徴的なクルマに乗れるなんて、僕にとってこれ以上の機会は考えられないよ」と新天地に向け喜びを語ったベリー。「ケビン(・ハーヴィック)は将来NASCARの殿堂入り選手になるが、これほど成功したドライバーの後を継ぐのは大変なことになるだろう。でも僕の周囲には素晴らしい人々のグループがあり、全力で取り組んでいけることは分かっているよ」

 こうして始まった“ミュージック・シティ”での週末は、異例の金曜延長FPでタイラー・レディック(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)が最速をマーク。その背後には前戦ソノマのロードで今季2勝目を飾ったマーティン・トゥルーエクスJr.(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が続くなど、トヨタ陣営が速さを見せる。

 しかし土曜予選でカムリを退けたのは、FPで3番手だったチャスティンの1号車カマロZL1で、最終ラウンドでトップの座を獲得し、自身カップ出場168戦目にして初のポールポジションを射止めた。

「このNext-Gen規定が導入された過去2年間、予選ラウンド1は比較的好調ではあったが、予選全体は僕の人生のなかであまり得意なことではなかったんだ」と明かしたチャスティン。

「つまり、これまでに費やされたすべての作業は、あまり見返りも報酬もなかった。最初のラウンド1をうまくまとめても、続くラウンド2で『自分が正しかったと感じる方法』でまとめられたことがないんだ(笑)」

「そこで僕はいつもオーバードライブしてしまい、同じ速度か少し遅くても問題ないのに、より速く走ろうとするあまり……さらに速度を落としてしまっていたんだ」

 明けた日曜のファイナルでは、今週から復帰のノア・グラグソン(レガシー・モータークラブ/シボレー・カマロ)が「周回遅れにはなるまい」と奮起し、接触劇を演じた経験もある因縁の相手、チャスティンの1号車を執拗にマーク。そんなポールシッターの苦闘を尻目に、フロントロウを分けたレディックがステージ1勝利をさらっていく。

 しかし45号車のカムリは続くステージ2序盤でまさかの右リヤタイヤ脱落を喫してスピン。そのままコーションでピットロードに飛び込み、これで強力なライバルがひとり優勝戦戦から脱落することになる。

自身のトリビュート・バナーを前に力走するケビン・ハーヴィック(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)と、その後任として来季SHR加入が決まったジョシュ・ベリー(上)
トラックハウス・レーシング代表のジャスティン・マークス(左)とともに、次戦シカゴ市街地でカップデビューを飾るRSC王者SVGことシェーン-ヴァン・ギズバーゲンも会見に臨んだ
FP最速のタイラー・レディック(23XIレーシング/トヨタ・カムリ/左下)はまさかのタイヤ脱落。現地を訪問したチーム共同創設者“MJ”ことマイケル・ジョーダン(右下)に勝利を贈ることは叶わず
ウイリアム・バイロン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)を挟み、チャスティンとトゥルーエクスJr.が数周にわたって“3ワイド”バトルを演じる

■“壁走り”などで批判を浴びたチャスティンが次世代にメッセージ

 リスタートでスローとなったブラッド・ケセロウスキー(RFKレーシング/フォード・マスタング)のあおりを受け、ライアン・ブレイニー(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)がクラッシュを喫したステージ2はデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が制し、迎えたファイナルステージ。

 最終ストップでの迅速な作業速度にも助けられリーダーに返り咲いたチャスティンは、トゥルーエクスJr.とハムリンのJGR艦隊を引き連れ行く手を阻むトラフィック攻略に挑むと、最後の34周を含む300周中99周でリードラップを刻んでいく。

「あとはリードを奪うだけだったが、そこで一旦勢いを失うとルーズになって、コーナー脱出でスピードを持ち越すことが難しくなった。あとほんの少しのスピードが必要だったが、全体的には……良い夜だったよ」と、2位に入って選手権首位の座を固めたトゥルーエクスJr.が語れば、3位に続いた“宿敵”ハムリンも「今日は3位のマシンがあった、ということ。19号車(トゥルーエクスJr.)は幾分マシだったと思うが、明らかに最後は1号車が力強く前に出られた。勝利を目指すのに充分な速さのクルマを持っていなかった、ということさ」と完敗宣言。今季序盤には未勝利ながらシリーズリーダーも経験した30歳が、見事なポール・トゥ・ウインを飾ってみせた。

「信じられないよ! 僕らを応援してくれる皆、故郷の家族、農業業界、そしてジャスティン・マークスが擁立するすべての人々を信頼している」と、自身の出身地フロリダ州アルバの田舎町で、何世代にもわたってスイカ農場を営んでいた家族の歴史も念頭に、改めて完全勝利の喜びを語ったチャスティン。

 昨季の“壁走り”を筆頭に数多くの遺恨を呼ぶ接触アクシデントを誘発するなど、これまで幾度も批判の矢面に立たされてきたチャスティンだが、それでも「信頼できる人々とともに、プロセスを信頼して欲しい」と、次世代に向けてのメッセージも発した。

「ここにいるすべての小さな子どもたち。世界中の誰でも、自分が批判されることはあるし、それが競争相手なら誰でもそうするだろう。彼らは君を打ち負かそうとするし、君はそれを信じ始めるかもしれない。でも君たちは何でもできる。たくさん本を読み、信頼し尊敬できる“目上”の賢い人々の計画を信じ、いつでも立ち上がってそれに取り組み続けて欲しい」と呼び掛けたチャスティン。

「僕もここまでのすべてを通じて多くの反省をしてきたが、そんな僕を信じてくれたグループがあり、彼らは僕を決して落ち込ませたりはしなかった。僕らの戦いは……本当に信じられないほどさ!」

 同じく併催されたNASCARエクスフィニティ・シリーズ第15戦『テネシー・ラタリー250』は、最後の20周をリードしたA.J.アルメンディンガー(カウリグ・レーシング/シボレー・カマロ)が今季オーバル初勝利を記録。こちらも併催のNASCARクラフツマン・トラック・シリーズ第13戦『ラッキリー・ルーフィング200』は、20歳のカーソン・ホセヴァー(ニース・モータースポーツ/シボレー・シルバラードRST)が3台による“フォト・フィニッシュ”を制し、キャリア2勝目を獲得する結果に。

 服部茂章率いるハットリ・レーシング・エンタープライズ(HRE)の16号車タイラー・アンクラム(トヨタ・タンドラTRDプロ)は、予選17番手からすぐさまトップ10圏内に進出し、上位を争う好レースを披露して8位フィニッシュを決めている。

レース前は元体操五輪代表のオリヴィア・ダンと談笑するなど、リラックスムードのチェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)は4位に
優勝のギター・トロフィーを前に恒例の“スイカ割り”で祝福し、ジャスティン・マークス代表に「感謝を捧げる」バーンナウトを披露した
NASCARエクスフィニティ・シリーズはロードコースの名手、A.J.アルメンディンガー(カウリグ・レーシング/シボレー・カマロ)が今季オーバル初勝利を記録
NASCARクラフツマン・トラック・シリーズ第13戦は、20歳のカーソン・ホセヴァー(ニース・モータースポーツ/シボレー・シルバラードRST)が接近戦を制す

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