悲劇からの快進撃!30歳になったアリアナ・グランデを松尾潔が解説

音楽プロデューサー・松尾潔氏

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2017年、イギリスのコンサート会場で爆弾テロが発生。そこから力強く立ち上がり、トップランナーとしていまも第一線を走り続けるスーパースターといえば、アリアナ・グランデだ。30歳を迎えた彼女の足跡を、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した音楽プロデューサー・松尾潔さんがたどった。

15歳でブロードウェイデビューという早熟の才能

きょう6月26日はアリアナ・グランデの30歳の誕生日です。スーパースターと言われて久しい印象の彼女ですが、一方でまだ若々しいイメージなので「もう30歳なのか」と思ってしまいます。

彼女は子役出身で、2008年頃からブロードウェイミュージカルに出ていたという早熟の才能の持ち主です。『スポンジ・ボム』とかで有名な「ニコロデオン」という子供向けの専門チャンネルの人気者でもありました。

ただ逸材とは言われつつも「決定的な何かが足りないんじゃないか」「ちょっと地味な感じもする」という評価もあり、歌手として本格的なデビューアルバムというものは2013年、20歳のときにリリースした「ユアーズ・トゥルーリー」でした。

この「20歳でデビュー」というのは特別早くもない感じですね。むしろ、10代のうちに大きなデビューを飾ることなく20歳を迎えてしまったということです。

ニックネームは「ネクストマライア」

ただこの「ユアーズ・トゥルーリー」は大変充実した内容で、ベイビーフェイスという大物の力も借りながらでしたが、その歌唱力が評判になりました。ルックスに加えて、歌声も素晴らしいということで、付けられたニックネームは「ネクストマライア」あるいは153センチという身長から「ミニマライア」とも呼ばれました。

彼女はフロリダでイタリア系の両親の間に生まれ育ちました。音楽的にはマライア・キャリーのように、ポップど真ん中ですが、R&B;やヒップホップへの目配りが効いているということで、そういったジャンルのアーティストとのコラボレーションが当初から多かったです。有名なところでいうと、ジャスティン・ビーバーとかThe Weekndとか、レディー・ガガとかが挙がります。コラボレーションでもたくさんヒットを重ねてきています。

コンサート会場で自爆テロ

2017年5月に、一つの転機となるできごとがありました。前年に出したアルバム「デンジャラスウーマン」世界ツアーのイギリス・マンチェスター公演。終演後のコンサート会場の外で、自爆テロ事件が発生し、死者22人、負傷者59人という大変忌まわしい悲劇が起こりました。

その後に予定されていたロンドンやベルギー、ポーランド、スイス、ドイツといったところの公演は当然、中止に追い込まれました。アリアナ・グランデ本人も、大変な心の傷を負ったと言われています。

自爆テロの犯人は特定されたものの、事件の背景は不明のままです。過激派組織のイスラム国が犯行声明を出しましたが、それを裏づける証拠はありませんでした。それにしても、ポップアーティストのコンサートでこのような悲劇が起こることはそうそうないことです。

ましてやハイポニーテールで、笑顔を振り舞いてラブソングを歌っているイメージが強いアリアナ・グランデのライブがその標的になったことに対するインパクトもありました。

「ワン・ラブ・マンチェスター」を主催

ところが、ここからの彼女の立ち上がる力がすごかった。事件の翌月には中止になったツアーを再開したんですが、それに先立ってあるイベントを開きました。それは「ワン・ラブ・マンチェスター」っていう名称で、マンチェスターと世界数ヶ所を結びオンラインで配信されました。

まるで1980年代のライブエイドのように、いろんなアーティストに「こういうテロ攻撃なんてやめよう。犠牲者ご家族に追悼を示そう」と呼びかけました。当時の彼女は24、5歳だったと思いますが、立派に座長を務めます。

僕もインターネットでその模様を生で見ながら「アリアナすごいな。悲劇を機にひとつ上のステージに上がっている瞬間を今、見てるんだな」と思いました。

社会にメッセージを発信するアーティストに

そこからの彼女の快進撃はすごかった。もともと“恋多き女”という一面はありましたが、そういうことに関しても、メディアできちっと物申していきました。

代表曲の一つ「thank u,next」(2019年)の歌詞には「みんないろんなこと言うけど、私のことゴシップ的に言う人いるけど、私のことは私で決めるから、今までのお世話になった人ありがとう。私生活も含めて。だけど、私次に行く」という、マニフェストのようなフレーズがあります。

こういう「もの言う女性」という強いイメージをどんどん獲得しながら、もともと歌はうまいと言われていたので、わかりやすく言うと、当然セールスも伴いました。

彼女、ダルトン・ゴメスという不動産王と結婚したんです。過去の交際相手にラッパーのマック・ミラーがいましたが、彼は2018年に薬物もしくはアルコールの過剰摂取で亡くなっています。そのときもアリアナ・グランデは元恋人に対してきちんとコメントしています。

ちょっと詩的な言い方ですが、彼女は身体の中に悲しみを強さに変えるような装置を備えている感じがしました。それだけでなく、社会や政治に対して、たとえば銃規制に関しても表に出ていって、デモにも参加しています。

アーティストが政治的発言をしても、それがきちんと評価されるのはアメリカ社会だからかもしれません。彼女に憧れる日本人アーティストもたくさんいますが、彼女と同じような活動ができるかというと、日本ではすぐにはできない状況ですよね。

でも、彼女がやっていることに影響を受けて、実際に行動を起こすアーティストはこの日本でも5年後、10年後に出てくるんじゃないかと思っています。いずれにしても、トップランナーとしてのアリアナ・グランデのこれからの30代の活躍、大変楽しみです。

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放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分

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