坂本龍一の自伝『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』、早くも大増刷決定!

坂本龍一の最晩年までの活動をまとめた自伝『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』が、6月21日に発売された。 生前に坂本が付けていた日記を交えて綴られた、鈴木正文の「著者に代わってのあとがき」がNHKや新聞各紙で報じられるなど、刊行直後から大きな話題を呼び、一週間も経たないうちに2刷、さらには3刷の重版が決定。大手書店チェーンの売上ランキングで上位を占めるほか、Amazonの「本の売れ筋ランキング」でも6月19日から数日のあいだ1位をキープするなど、注目を集めている。 出版元の新潮社によると、重版分の出来は7月上旬を予定。「それまでは品薄でご迷惑をおかけするかもしれませんが、しばしお待ちいただければ幸いです。限られた時間のなか口述筆記を進めたこの本で、ぜひ生前の教授の姿に触れてみてください」とコメント。 以下に、坂本龍一本人の連載開始と完結にあたってのコメントと、連載媒体となった「新潮」編集部のコメントを再掲する。

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坂本龍一コメント

【連載開始時】

夏目漱石が胃潰瘍で亡くなったのは、彼が49歳のときでした。それと比べたら、仮に最初にガンが見つかった2014年に62歳で死んでいたとしても、ぼくは十分に長生きしたことになる。新たなガンに罹患し、70歳を迎えた今、この先の人生であと何回、満月を見られるかわからないと思いながらも、せっかく生きながらえたのだから、敬愛するバッハやドビュッシーのように最後の瞬間まで音楽を作れたらと願っています。 そして、残された時間のなかで、『音楽は自由にする』の続きを書くように、自分の人生を改めて振り返っておこうという気持ちになりました。幸いぼくには、最高の聞き手である鈴木正文さんがいます。鈴木さんを相手に話をしていると楽しくて、病気のことなど忘れ、あっという間に時間が経ってしまう。皆さんにも、ぼくたちのささやかな対話に耳を傾けていただけたら嬉しいです。(2022年6月7日)

【連載完結時】

2020年の末、自らに残された時間を悟ったぼくは、生きているうちにしておかなくてはいけないことをリストアップしました。そのひとつが、『音楽は自由にする』以降の活動を自分の言葉でまとめておくことでした。少々慌ただしいスケジュールだったけれど、聞き手の鈴木正文さんにも助けられながら、間もなくリリースされる『12』までの足跡を振り返ることができ、今はホッとしています。連載は完結しますが、もちろんこの先も命が続く限り、新たな音楽を作り続けていくつもりです。(2023年1月6日)

「新潮」編集部コメント

坂本龍一氏がガンのステージ4にあると診断され、医師から余命宣告を受けたのは、2020年12月のことでした。そこから、プロデューサーでもあるパートナーとも話し合い、「生きているうちにしておくべきことのリスト」を作ったといいます。 先日文庫化された2009年までの自伝『音楽は自由にする』以降の活動を振り返る、口述筆記のプロジェクトを進めることになったのも、その一環でした。21年後半に小誌編集部に相談があり、22年いっぱいの残された時間を使って、収録が進められました。 盟友の鈴木正文氏を聞き手として、坂本氏の口からは、横で聞きながら「そこまで明かしていいの?」と心配になってしまうほど惜しげもなく、創作秘話や昔の出来事、闘病中の日々のことが語られました。各章とも、約5時間の充実したインタビューの内容を踏まえています。そして、編集部が構成した原稿には毎回、坂本氏みずから細かくチェックを入れてくれました。時には「自分が原稿を見られるのは、これで最後になるかもしれないから、もっと強い章タイトルにした方がいいのでは?」ということもおっしゃりながら――。 連載最終回が掲載された「新潮」の発売日は2023年1月7日、坂本氏がお亡くなりになったのは3月28日の未明でした。もちろん、もっともっと長生きして、続きを語ってほしかった。しかし一方では、ギリギリ間に合った、という思いもあります。 この稀代の音楽家の「最後の言葉」を、ぜひ多くの方に読んでもらえたら嬉しいです。

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