石川県能登で繰り返す地震は、南海トラフの最大震度想定は…福井地震75年、福井出身の気象庁2人を直撃

地震への備えを呼びかける気象庁の森気象防災監(右)と鎌谷課長=6月19日、気象庁

 3769人が死亡し、最大値の「震度7」を設けるきっかけになった福井地震は6月28日、発生から75年を迎えた。再び襲われるかもしれない大地震や津波にどう備えるべきか―。気象庁で長官に次ぎ、次長と並ぶナンバー2の局長級ポスト「気象防災監」を務める森隆志さん(59)=福井県福井市出身=と、津波警報の発表を最終判断する地震津波監視課長の鎌谷紀子さん(56)=同県越前市出身=に聞いた。

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 ―福井地震から75年を迎えた。

 森氏 今年は福井地震から75年、関東大震災から100年、日本海中部地震から40年、北海道南西沖地震から30年という節目。これらを思い起こしても、大きな地震は日本中どこでも起こり得るし、一定頻度で発生している。

 ―5月5日に石川県能登地方で震度6強の地震が起きた。5月は千葉、鹿児島なども含め震度5弱以上が5カ所で計6回と多発していた。

 鎌谷氏 震源は離れていてメカニズムも異なるため、これらの地震に直接の関連性はない。30日間に5カ所で震度5弱以上が起きた例は、過去10年間で2015年と17年の2回ある。過去にないわけではない。

 ―5月の能登の地震はスマートフォンで緊急地震速報を受信後に強く揺れた。

 鎌谷氏 日頃から緊急地震速報が鳴ったときの行動を考えておいてほしい。例えば▽家庭では頭を保護して丈夫な机の下などに避難し、落下物の危険があるので慌てて外に飛び出さない▽エレベーターでは最寄りの階に停止させてすぐに降りる▽車を運転中はハザードランプを点灯して注意を促し、後続車のために急ブレーキはかけず緩やかに減速する―など。

 ―南海トラフ巨大地震はおおむね100~150年間隔で発生してきた。前回の昭和東南海地震(1944年)、昭和南海地震(46年)から80年近く経過し、次の発生が懸念されている。福井県内で想定される揺れの大きさは。

 鎌谷氏 内閣府の「南海トラフの巨大地震モデル検討会」の推計結果によると、福井県内の最大震度は5強。隣の滋賀、岐阜県は6強。隣県より小さいとはいえ、それなりに被害が出ると予想される。普段から揺れに対して備えてほしい。

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 ―津波は太平洋側で発生するイメージが大きい。日本海側でも起こるか。

 鎌谷氏 秋田県沖を震源とした83年の日本海中部地震では、犠牲者104人のうち100人が津波によるものだった。船舶の被害も2598隻あった。

 森氏 それまでは日本海側で大きな津波はないという考えがあった。93年の北海道南西沖地震は、数分後に奥尻島(北海道)を大津波が襲い、地形の影響で津波が約30メートル遡上(そじょう)した地区もあった。福井県でも約1メートルの津波が観測された。

 鎌谷氏 日本海で発生する津波は、太平洋側に比べて減衰しにくい。洗面器の水が行き来するように、対岸の中国大陸で波が反射し戻ってきて往復する。避難を長い時間続けてもらう必要がある。気象庁は過去の経験を持ち、潮位も24時間監視しているので、津波警報・注意報を解除するまでは避難を続けてほしい。

 ―県民へ呼びかけを。

 森氏 日頃から家具の転倒防止や、家族の集合場所を決めておくことなど準備しておいてほしい。防災担当の身としては「備えあれば憂いなし」では不十分で、「憂いなければ備えなし」と肝に銘じて、常に心配なことがないか確認し、万全の準備を進めていく。

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 森隆志氏(もり・たかし)1964年生まれ。藤島高校、東京大学理学部地球物理学科卒。88年に気象庁に入り、地震火山部長、大気海洋部長を経て今年1月から気象防災監。震度6弱以上の地震など緊急事態発生時は政府の緊急参集チームの一員として首相官邸に入る。地震、大雨、噴火など自然災害では、気象庁を代表し官邸や関係省庁の局長らに概要を説明する。 鎌谷紀子氏(かまや・のりこ)1967年生まれ。武生高校卒、東北大学大学院博士後期課程修了、博士(理学)。94年に気象庁に入り、東京大学地震研究所准教授などを歴任。2022年4月から気象庁地震津波監視課長を務め、おおむね最大震度5強以上の地震で緊急記者会見を開き、国民に向けて説明している。専門は地震活動論や防災情報学。 南海トラフ巨大地震 東海沖から九州沖の海底に延びる溝状の地形(トラフ)に沿って発生する地震。最大でマグニチュード(M)9クラスに達し、30メートル超の津波を引き起こす恐れがある。全体が一気にずれ動く「全割れ」や、昭和東南海・南海地震のように東西の半分程度がずれ動く大地震が起きた後、残りの震源域が動く「半割れ」の例がある。半割れでもM8クラスとなる。福井地震75年目の記憶 3人の証言

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