「大きな会社を買う」「株価は物足りない」エキサイトの西條晋一社長に聞いた

西條晋一エキサイトホールディングス代表取締役社長CE0

ネットメディアの運営やインターネット接続サービスを手がけるエキサイトホールディングス<5571>は、2023年6月8日にM&Aマッチングサービスを展開するM&A BASE(東京都中央区)を子会社化した。M&Aによって事業領域を拡大する方針を掲げており、今回の投資もその一環。

同社は2018年にTOB(株式公開買い付け)による非上場化を経て、2023年4月に再上場したばかり。TOBを実施した企業側の社長でもあるエキサイトホールディングスの西條晋一社長に、M&Aマッチング事業の今後の展開や、さらなるM&Aによる事業拡大などの計画についてお聞きした。

M&Aで業容を拡大する

-M&A BASEを買収された経緯をお教え下さい。

M&A BASE代表の廣川は、高校生の頃から株式投資に興味を持ち自身で調べた企業情報をツイッターで発信していた。フォロワーにはIT業界の錚々たる人たちが名を連ねている。彼が大学生の時に我々から声をかけて、私が社長を務めるクロステックで一緒に仕事をすることになった。このクロステックの子会社がM&A BASEで、IT業界に特化したM&A仲介を行っている。ただ、大学生からいきなり社長になったため業界の知識に強いということ以外は経験が少なく事業展開に迫力がなかった。

一方、ネット企業を見ると分かるが、これら企業は事業の柱を次々に作ることで成長している。それができないと頭打ちになる。エキサイトのポートフォーリオ(事業構成)を見ると2000年台から手がけているビジネスモデルが多くを占めている。それでも成長はしているが、新しい柱を作っていかないと急成長は見込めない。こうした背景があり、新しい事業を立ち上げる目的でM&A BASEを子会社化した。

-M&A BASEはグループ企業の子会社であり、もともと一緒に事業を展開していたのではないですか。

M&A BASEは、持ち株会社であるクロステックの子会社として設立し、社長に権限委譲する経営スタイルをとっていた。それぞれが事業を行っていたため、支援し合うような状況にはなかった。

M&A BASEにはM&Aの案件を進めていくための、法務、スキーム、交渉などを担う人材が足りなかった。エキサイトには200人くらいの社員がおり、M&A BASEに足りないところを補完できる。M&A BASEは、エキサイトホールディングスの子会社になったことで本格的に事業を展開できるようになったため、今後大きく伸びる可能性がある。

-M&Aで事業を拡大するとのことですが、M&A BASEに次ぐ企業買収もお考えですか。

そのように考えている。上場時に調達した資金を含めて約25億円あり、既存事業が生み出すキャッシュフローも十分にある。これに借入などを加えて、できれば大きな会社をM&Aしていきたいと考えている。1億円、2億円の会社を買っても、半年か1年の時間は稼げるだろうが、これではインパクトのある事業を立ち上げることはできない。

-どのような業種でのM&Aをお考えですか。

いくつかあるが、20年くらいはその市場で伸びが見込める業種にしたい。いろいろとリサーチする中で、人材のマーケットなんかは魅力的であると感じている。人材紹介ということではなく、HR(人的資源の活用)全体の市場に注目しており、政府が力を入れようとしているリスキニングなどに関連しているような企業は面白いと思っている。

-そうした企業に2ケタの億を投資するということですか。

もっと大きくてもいいと考えている。というのはクロステックの資本金は919万円でエキサイトの買収に60億円を投じた。


これからアクセルを踏み込む

-ところで、現在の株価についてはどのようにお考えですか。

この株価は物足りないと考えている。PER(株価収益率=株価が1株当たり純利益の何倍なのかを見る投資指標)でいうと12倍ほどしかない。市場の平均より低く課題に感じている。

一方で評価されないのは成長率があまり高くないのが原因だと考えている。2024年3月期の業績予想が1%台の増収営業増益だったのが影響しているのだろう。もちろん計画は必達でいくが、経営者としてはアップサイドを狙うために、日々いろんな仕掛けをしている。今回のM&A BASEの買収もその一つであり、このほかにもいろいろと材料を出し、成果を出せばちゃんと評価していただけるだろうと考えている。

-M&A BASEのほかにはどのような仕掛けがあるのですか。

SaaS・DX事業で、すでに新規事業を手がけている。経営管理のソフトウエアであるKUROTENはその一つだ。買収した当時のエキサイトは赤字だったが、経営管理を導入し、そのうえで適切な経営資源を配分することで、4カ月で単月黒字になり、通期でも黒字を達成した。

これで経営管理がいかに重要なのかが分かった。これをエキサイトだけで享受するのではんなく、困っているお客さん向けにKUROTENとして提供することにした。今、顧客が数十社ほどで、ようやくどう使えばいいのか分かってきた状況なので、これからアクセルを踏み込もうと思っている。

AI(人工知能)も社内で地道に研究に取り組んでおり、生成AIが出てきたのでこの活用を考えている。KUROTENでは今年5月からチャットGPTを搭載している。

AIには三つできることがあると考えている。一つは業務効率の改善によるコスト削減効果。二つ目は既存のサービスのUI(ユーザーインターフェース=サービスとユーザーを繋ぐ接点)や、UX(ユーザーエクスペリエンス=ユーザーが製品やサービスで得られる体験)を良くすること。三つ目は全く新しいサービスを作ることだ。三つ目は始まったばかりで、これからAIを活用した新しい事業を作っていくつもりだ。

西條晋一エキサイトホールディングス代表取締役社長CE0

【西條晋一(さいじょう・しんいち)氏】
1996年、早稲田大学法学部卒業後、伊藤忠商事に入社
2000年、サイバーエージェントに入社
2004年、取締役に就任
2008年、専務取締役COOに就任
2013年、WiL共同創始者ジェネラルパートナーに就任
2018年、XTech、XTech Venturesの2社を創業
2018年、XTechの子会社であるXTech HP(現:エキサイトホールディングス)を通じてエキサイトの全株式を取得し、代表取締役社長CEOに就任

文:M&A Online

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