復帰間近のポル・エスパルガロ、一時は8kgの体重減。「鏡を見て自分の体だと思えなかった」/第8戦オランダGP

 ポル・エスパルガロ(GASGASファクトリー・レーシング・テック3)が、MotoGP第8戦オランダGPの土曜日にTT・サーキット・アッセンに姿を現した。テック3のホスピタリティで行われた囲み取材で、エスパルガロは怪我をした直後の状況や、この3カ月間について言及した。

 TT・サーキット・アッセンを訪れた理由を問われると、エスパルガロは「タフな3カ月間を過ごした後、みんなに会いたかったんだ。サマーブレイク前に、ここでみんなの顔を見たかった」と説明する。イタリアGPまたはドイツGPで復帰する可能性があったが、検査によって復帰は先延ばしになったという。

「ほんとのことを言うと、ザクセンリンク、もしくはムジェロで復帰する予定があったんだ。でも、最後に撮ったレントゲンは、僕たちやドクターの予想通りではなかった。それで彼らは僕に、復帰するのはもう少し待ったほうがいい、と言ったんだ。レースのために来ようと思っていたから人に会いにここに来る予定じゃなかったけど、サマーブレイク前に復帰がなくなったから、みんなに会いたかったんだ」

 エスパルガロは開幕戦ポルトガルGPのプラクティス2で大クラッシュを喫し、肺挫傷、顎と脊椎を骨折する大怪我を負った。それ以来、第8戦まで欠場を続けていた。それほど大きな怪我だった。囲み取材で質問に応じるエスパルガロの表情は見慣れたものだったが、室内にい続けたためか、肌色は以前より白くなっているように見えた。

「ジェットコースターのように、本当にアップダウンが激しかった」と、エスパルガロは怪我をしたときの状態について語った。

「クラッシュ後、僕の体は本当にたくさんの骨折を負っていて、病院でどれが傷むのかわからなかった。痛みのレベルは空か雲の上にあった。とてもひどかった。鎮痛剤をたっぷり使ったよ」

「それから体を起こし始めたとき、どこから痛みが来ているのかがわかった。きつかったよ。ある時は口、そして首、背中、肋骨から痛みが来る。3カ月でこの状態になったのは奇跡だ。とてもうれしいよ」

「3番目、6番目、8番目と、椎骨が3つも折れていた。6番目はそこまでひどくなく、すぐに治った。でも8番目は四つに割れていて、おまけにちょっと椎骨の高さが低くなった。いや、ちょっとじゃなく、かなりだね。だから、回復に時間がかかったんだ」

 この骨折によって「1.5cmは身長が低くなった」という。しかしそのあとすぐに、「でも、結婚して娘がふたりもいるから、そんなことは気にしないけどね」と笑いとばすあたりがエスパルガロらしい。ただ、その箇所は完治にまだ2、3週間かかるということだ。

 さらに、いつが最悪の時期だったのか、と問われたエスパルガロは大いに体重を落としてしまったときのことを明かした。

「それは退院してから4週間だったと思うな。完全に口を閉じていた。4週間、1ミリも開いていないんだ。食事ができなかったから、スープを飲んでいるだけだった。だから、1週間に2.5kgずつやせてしまった。異常だよね。だって、つまり2.5kgの筋肉を失っていくってことなんだから」

「かなりの痛みを抱えているのに、鏡のなかの自分に言うんだ、『なにもかも回復させなくちゃ』ってね。毎週見て、『冬に3kg増やすのにどれだけトレーニングをしたか、これから8、9kg増やすのにどれだけトレーニングしなくちゃいけないのか』って考えるんだ。いやな感じだった」

 MotoGPを戦うために研磨してきた己のフィジカルという武器が日に日に衰えていくのは、肉体的な痛み以上につらいことだったに違いない。

「鏡を見ても、それは自分の顔、自分の体だと思えなかった。それがきつかったな」

 エスパルガロはオランダGP前に投稿した自身のSNSのなかで、失った8kgを1か月半かけて元の標準体重、66kgに戻したとコメントしていた。

 怪我による苦しみの渦中にいるときには「決断」が頭をよぎることもあったという。

「でも、それは頭から消えたよ。だって、ここに来るのが楽しみだったから。ただ、こういう瞬間があることで、こんなことはあり得ないって考えから現実に引き戻されるんだ。こんなことを考えたことはなかったけど、実際に起こると、『ああ、これが現実なんだ』ってね」

「指や手を骨折したときよりも、少し長く、そういう世界にとどまっている。だから、コースインするようなときはもっと注意していくよ。僕は経験豊富なライダーだけど、まだこういうことがあるんだ」

 シーズン後半戦のイギリスGPで、復活を遂げたポル・エスパルガロの走りを見ることができるだろう。

病院では引退が頭をよぎったこともあったという。「でも今はバイクに乗るのが楽しみだよ」

© 株式会社三栄