フォードの“怪物EVバン”は惜しくも総合制覇ならず。リア・ブロックも初登頂/第101回パイクスピーク

 今季で第101回を数えるアメリカ伝統の1戦、通称“雲に向かうレース”ことPPIHCパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムの2023年大会が6月25日に開催され、アンリミテッド・クラスから参戦のイギリス出身ロビン・シュートが、過去5年間で4度目となる総合“King of the Mountain(キング・オブ・ザ・マウンテン)”のタイトルを獲得。直列4気筒2.1リッターのホンダ製ターボを搭載した2018年型『ウルフTSC-FS』で、8分40秒080のタイムを記録した。

 一方、北米フォード・パフォーマンスと新興STARDが共同開発したモンスターEV『フォード・パフォーマンス・スーパーバン4.2』で出場した総合記録保持者ロマン・デュマは、計3つのモーターによるシステム出力1050kW(約1400PS)のパワーを活かして8分47秒682を記録し、パイクスピーク・オープン部門を制覇。しかし全体では2番手と惜しくも総合優勝を逃す結果となった。

 コロラド州の有名な“マウンテン”で通算101回目の開催を迎えたPPIHCには、総計66台のエントラントが集い、注目車両としてF1王者ジェンソン・バトンがコラボレーションした1台、イギリス発のコーチビルダーであるラドフォード・モータースが製作した『Radford Type 62-2(ラドフォード・タイプ62-2)』をタナー・ファウストがドライブし、エキシビション部門に参戦。

 そしてWEC世界耐久選手権のプログラムでも協業するシグナテックとのパートナーシップを活用したアルピーヌは、A110 GT4エボをベースとした『Alpine A110 PikesPeak(アルピーヌA110 パイクスピーク)』を開発し、4回のPPIHC出場経験を持つラファエル・アスティエを擁してパイクスピーク・オープン部門にエントリーした。

 全長12.42マイル(約20km)、スタートラインの9300フィート(海抜約2830m)からフィニッシュ地点の1万4115フィート(同4302m)まで駆け上がり、156のコーナー制覇に挑むイベントは、全長を3分割したコースそれぞれで現地火曜から初日の練習走行と予選走行が実施されると、タイムアタック1(TA1)部門ではブルモス・レーシングの59号車に乗るデイビッド・ドナヒュー(2019年型ポルシェ911GT2RSクラブスポーツ)が早々にボトムセクションのレコードを更新する好調さを見せる。

 続く水曜の予選2日目も、前日同様にシュートのウルフやファウストのラドフォードらがセクション最速を記録し、明けた木曜に予定されていた予選最終日は山全体が霧に覆われたことで全セッション延期の一幕もありつつ、快晴に恵まれた金曜は多くのドライバーが自己ベストを更新。万全の体勢を整えて「ほぼ完璧な気象条件」となった日曜の本戦に臨んだ。

大会直前にFPの新CIを採用したカラーリングを公開した『Ford Performance SuperVan 4.2』
まだ雪の残るアッパーセクションでは、初日から最速タイムを叩き出す速さを披露した
フロントスポイラーの強烈に目立つスプリッターとディフレクターに、完全2分割の巨大なリヤウイングを装着する『Alpine A110 PikesPeak(アルピーヌA110パイクスピーク)』
「素晴らしい走りだったし、僕らの『Alpine A110 PikesPeak』は魅力的に機能したね」と総合3位のラファエル・アスティエ

■ケン・ブロックを偲ぶ“トリビュートマシン”2台も無事完走

 ここで速さを発揮したのが前年度覇者でもあるシュートで、視界不良で滑りやすい路面条件だった昨年度の10分09秒525を大幅に短縮する8分40秒080のタイムで、自身4度目となる総合優勝をさらった。

「しかしヒドい走りだったね(笑)」と苦笑いで勝利の第一声を発したシュート。

「いやいや、大丈夫。山の頂上に到達するのはいつでも素晴らしいことだし、今日は状況がまったく違っていた。それでも、クルマは僕が臨む状況にまったく“ダイヤルイン”されていなかった。僕自身、本当に耐えて格闘したからワイルドなドライブになったね」と、今季向けに施された改良を最大限に活かすセットが見い出せなかったと明かした王者シュート。

 その背後では、同大会で電動化技術の王様として君臨する『フォルクスワーゲンI.D.R パイクスピーク』でのレコード、7分57秒148の記録を保持するデュマがアタック。特徴的なカーボンコンポジット製ボディとFIA仕様のロールケージ、調整可能な回生ブレーキを備えた全輪駆動のモンスターEVバンでフィニッシュを決めたものの、ウエイトレシオ改善のため4モーターから3モーターに減らした改良も届かず。オープンクラス制覇に留まる結果に。

 さらに総合3番手には、同クラスで“怪物EVバン”に挑戦したアスティエのA110が9分17秒412で続くリザルトとなった。「素晴らしい走りだったし、僕らの『アルピーヌA110 パイクスピーク』は魅力的に機能したね」と、車両重量950kg、約500PSを発生する特製モデルのステアリングを握った2022年のFIA R-GTカップ王者。

「全力を尽くせたし、最後は自己ベストを数秒更新できてうれしく思うよ。このクラスではベンチマークである、ロマン・デュマと彼の電気自動車に次ぐ2位でフィニッシュしたが、彼のEVバンは僕らのざっと3倍のパワーがある(笑)。そう考えると、これは並大抵の偉業ではなく、アルピーヌとの初出場でこのパフォーマンスを披露できたことを誇りに思うよ」とアスティエは語った。

 総合4位にはTA1クラスのドナヒューが9分18秒053秒で続き、同5位にはオープンホイール部門で父クリントが持つ記録を更新したコーディ・ヴァーシュホルツ(2013年型フォード・オープン・ヴァシュホルツ・カスタム)が、9分19秒192でクラス優勝を果たす結果に。

 そして日曜の第一走者スタートから約15時間が経過した頃、父ケン・ブロックの遺作でもある1400PSのモンスター4WD『Hoonipigasus(フーニピガサス)』のステアリングを握って登場したリア・ブロックは、タイム計測のない“トリビュート・ラン”で無事に山の頂へ父のクルマを送り届けることに成功した。

 さらに競技者として、こちらもトリビュート・カラーの『Sierra Echo EV(シエラ・エコーEV)』を走らせた母ルーシー・ブロックも、アンリミテッド・クラス10位、総合47位で初挑戦の山を登り切っている。

タナー・ファウストがドライブした『Radford Type 62-2(ラドフォード・タイプ62-2)』は総合7位でエキシビジョン部門を制した
初日のボトムセクションから記録更新のデイビッド・ドナヒュー(2019年型ポルシェ911GT2RSクラブスポーツ)は総合4位に喰い込む
去5年間で4度目となる総合”King of the Mountain(キング・オブ・ザ・マウンテン)”のタイトルを獲得したロビン・シュート
リア・ブロックは、父ケンの遺作『Hoonipigasus(フーニピガサス)』を無事に頂上まで届けるミッションを完遂した

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