白いボクサーは本当に難聴リスクが高いのか?という英国での調査結果

白いボクサーの健康問題を調査

ボクサーは日本ではちょっと馴染みの薄い犬種ですが、欧米では根強い人気を誇っています。中程度の短頭種特有の愛嬌のある顔立ちと、スラリと精悍な体型が魅力的な犬です。

ボクサーの犬種スタンダードでは毛色はフォーンまたはブリンドルで、部分的に白い毛色は全体の3分の1を超えないことと定められています。

しかし、ボクサーの中には大部分または完全に白い毛色の個体がいます。ブルテリアなどボクサーと遺伝的に近い他の犬種では白い毛色は先天性難聴のリスクが高く、ボクサーも同様だと考えられています。

イギリスでは、1980年に報告されたボクサーの進行性軸索変性による変性性脊髄症(DM)を、ブリーダーが協調して選択繁殖を行うことで10年で撲滅した経緯があります。

そのため、白い毛色がボクサーの先天性難聴と関連しているのであれば、研究や同様の対策が必要です。

しかし今までのところ、白色ボクサーの健康に関する研究は行われていませんでした。このたび王立獣医科大学が、動物病院の臨床データを用いてボクサーの健康に関する調査を実施し、その結果が発表されました。

白色と非白色のボクサー、健康上ほとんど違いがなかった!

王立獣医科大学では、イギリス国内の一般動物病院と、匿名化された診療データを共有するプログラムを運営しています。つまりこのプログラムは、イギリス国内の大部分の一般動物病院の診療の巨大データベースとなっています。

研究チームはこのプログラムから、2016年のイギリスにおけるボクサーの疾患や脂肪に関するデータを抽出しました。2016年にイギリスの一般動物病院で診察を受けた犬は336,865頭で、そのうち3,219頭がボクサーで、さらにそのうちの10.71%が白いボクサーでした。

年間を通じた疾患の発生率は、オスとメス、白色と非白色の間で統計的な差はなく、動物病院で診察される最も一般的な34の疾患(下痢、関節炎、皮膚炎など)においても、白色と非白色の間で有病率に差はありませんでした。

ただし脳の疾患と歯の疾患については、白いボクサーは非白色グループよりも有病率が高くなっていたそうです。

調査期間中に亡くなったボクサーは346頭で、死亡年齢の中央値は10.46歳。ここでもオスとメス、白色と非白色の間で統計的な差はありませんでした。

また聴覚障害については、白色と非白色各1頭ずつの計2頭のみが記録されており、白いボクサーには難聴が多いという証拠は見つかりませんでした。

犬種特有の疾患パターンを理解することが大切

2016年にイギリス全土の動物病院で診察を受けたボクサーのデータを比較したところ、白いボクサーと非白のボクサーとの間に健康上の実質的な差があることを示す証拠はほとんどなく、ボクサーの平均寿命は同じくらいの体格の他の犬種と一致していました。

白いボクサーは生まれつき聴覚障害を持っているリスクが高いと考えられており、イギリスや他の欧州諸国でも白い子犬が生まれた場合には、かつてはブリーダーによって安楽死の処置が取られていました。

白いボクサーはザ・ケネルクラブやFCIの犬種スタンダードからは外れるのですが、ペットとしては何の支障もないと考える人が増え、近年は白いボクサーを淘汰することはほとんどなくなっているそうです。

オランダやイタリアでは、今回のイギリスでの調査よりも高い割合で白いボクサーが飼われており、聴覚障害が多いという報告はないそうです。

今回の調査でボクサーに最も多かった疾患は、外耳炎(7.15%)、歯肉腫瘤(5.84%)、眼潰瘍(5.00%)、歯科疾患(4.63%)で、外耳炎と歯科疾患は他の犬種とも共通しています。

歯肉腫瘤と眼潰瘍はボクサーに特有のもので、今後さらにボクサーの犬種特有の健康バターンを調査し理解する必要があるとしています。

まとめ

イギリス全土の動物病院の診察データから、白いボクサーと非白のボクサーの健康状態を比較したところ、両者に大きな違いはなかったという報告をご紹介しました。

かつては確実な証拠もないままに生まれたばかりの白い子犬が淘汰されていたというのは心が痛む話ですが、障害や疾患を持って生まれてくる動物がいなくなるようさまざまな角度からの研究が進んでいくことを願います。

《参考URL》
https://cgejournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40575-023-00129-w

© 株式会社ピーネストジャパン