「高岡発ニッポン再興」その85 2カ月半、市民や県にも「緊急事態」伝えず

出町譲(高岡市議会議員・作家)

【まとめ】

・産科休止発表の2カ月半前から、市は緊急事態を認識していた。

・産婦人科医は365日24時間体制が必要産婦人科の医師だけでは限界がある

・高岡医療圏全体の公的病院の在り方を見直す時期に来ている。

高岡市民病院の産科休止問題の続きです。富山大学が医師の派遣打ち切りを連絡してきた後、市当局がどのように動いたのでしょうか。多くの市民の関心事です。

高岡市が民生病院常任委員会で、産科休止を発表したのは、5月25日です。テレビや新聞に大きく報道されました。それでは、富山大学はいつ、高岡市側に連絡したのでしょうか。そこで私は議会で質問しました。産科医派遣打ち切りの連絡を受けた後、派遣継続の依頼は行ったのか、依頼を行ったのなら、その時期はいつなのでしょうか。

それに対して病院長は、産婦人科医師の派遣打ち切りの正式な連絡を受けたのは、4月下旬であると答弁。さらに「3月上旬の時点で、富山大学の医局が、産婦人科医師の減少に伴い、医師派遣の集約化を進める方針であることを知ったため、一刻も早く派遣継続を要請するため、3月中旬に、私から富山大学へ要請を行っている」と答弁したのです。

高岡市側は3月上旬の時点で、富山大学側の産科医派遣打ち切り方針を認識していたのです。

つまり、5月25日の高岡市議会での発表の2カ月半前から、高岡市側は緊急事態を認識していたのです。これほど大事な問題にもかかわらず、高岡市は、市民にも、市議会にも伝えなかったのです。

さらに、私が驚いたのは、6月15日の県議会での答弁です。産科休止で市民が混乱している、県は事前に知っていたのかという質問に対して、県の厚生部長は、5月25日の高岡市議会での発表を受けて市民病院に問い合わせし、把握したとしています。これほど大事な問題なのに、高岡市から県に相談しなかったことになります。市民病院長は、国、県などとともに医師確保に取り組んでいきたいと答弁していますが、大きく矛盾しています。ある医療関係者は富山大学に対して県から働きかけをしてもらえばよかったのにと悔やんでいます。

そして愕然としたのは、その後の民生病院常任委員会での市民病院事務局長の答弁です。同僚議員が高岡市民病院の設置者は市長であることを踏まえて、市長が大学病院に医師派遣継続のお願いにいったのかどうかと質問しました。事務局長は「市長は行っていない」と明言しました。

私はこの問題を指摘するにあたり、数多くの医師に話を聞きました。親族に医師もいます。10時間以上にもわたる聞き取り調査を総合すると、産婦人科医は365日24時間体制が必要。医師の働き方改革もあり、4、5人の産婦人科医がいなくてはなりません。さらに、さまざまな診療科がある大きな病院が安心なのです。ある公的病院の放射線科の医師は、出産の際に産婦の出血が止まらなくなり、急きょ呼び出されることもあると話しています。産婦人科の医師だけでは限界があるのです。

福島県の大野病院事件で、ますます産科医の訴訟リスクがクローズアップされました。産科の希望者が少なくなったそうです。

大野病院事件とは、2004年に福島県立大野病院で、産婦が帝王切開手術を受けて、死亡。手術を執刀した医師が、逮捕、起訴された事件です。

市民病院の産科休止は避けられないのかもしれません。妊婦の安全をとるならば、大きな厚生連高岡病院に集約するのは仕方がないのかもしれません。

ただ、それとは別に、私は、高岡市はぎりぎりまで努力すべきなのです。早々にあきらめ、大学の都合で、市民病院がなし崩し的に診療科がなくなる。これは、行政の在り方として問題があると思っています。市民を守るのが、行政の責務です。高岡市は来年4月に産科休止としていますが、土壇場での逆転劇を期待しています。

そして、これをきっかけに、市民病院は今まで通りの厚生連高岡病院と並ぶ総合病院でいいのか。そろそろ高岡市における公的病院の在り方を見直す時期に来ていると思います。

その84の続き)

トップ写真:産まれたばかりの赤ちゃん(イメージ)出典:FatCamera/Getty Imeges

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