コロナ禍の「雇用調整助成金」不正受給公表は516社(519件)、受給総額は163億円

新型コロナ感染拡大に伴う雇用維持のため、従業員への休業手当を助成する「雇用調整助成金」(以下、雇調金)等を受給した企業のうち、虚偽申請などにより不正に受給したとして公表された企業が全国で516社(うち、2回公表は3社)、不正受給金額は総額163億2,020万円に達することがわかった。
516社から個人企業等134社を除いた382社の産業別は、最多がサービス業他の161社で、全体の約4割(構成比42.1%)を占めた。コロナ禍での三密回避や移動制限などが直撃した飲食業や旅行業、宿泊業、美容業など、対面サービス業が大半を占めた。
直近の売上高(判明分)は、5億円未満が4分の3(構成比74.8%)と大半を占めた。また、業歴10年未満が169社で4割超(同44.2%)に達し、売上規模が小さく、業歴も短い経営体力の脆弱な企業がコロナ禍の急激な業績悪化で不正に手を染めた姿が浮かび上がる。
コロナ禍で、政府は企業の雇用維持を支えるため、雇調金の助成率と上限金額を引き上げる特例措置を実施した。特例措置を適用した緊急対応期間(2020年4月-2022年11月)と経過措置期間(2022年12月-2023年3月)に支給決定した雇調金等は6兆3,507億円に及ぶ。
一方で、虚偽の申請で実際に支払っていない休業手当を雇調金として不正受給した企業が後を絶たず、2023年3月末時点で全体の不正受給件数は1,524件だった。そのうち、不正受給額が100万円を超えたり、悪質と判断される場合は社名や代表者名、金額などが公表される。
特例措置の終了に伴い、各都道府県労働局は支給申請状況の調査に力を注いでおり、不正受給と公表企業は今後も増えるとみられる。
※本調査は、雇用調整助成金または緊急雇用安定助成金を不正に受給したとして都道府県労働局が公表した企業を集計、分析した。2020年4月1日~2023年6月9日までの公表を対象とした。


公表された不正受給は516社、不正受給金額は総額163億円

雇調金等の不正受給などで都道府県労働局が公表した企業は、2023年6月9日までに516社(個人企業を含む)を数える。2回公表された企業も3社あり、そのうち、運輸業を手がける(有)HARUKA(東京都江戸川区)は、本社を置く東京都と営業所を置く大阪府で公表された。
公表された不正受給件数は519件に達した。不支給決定を受けた助成金は、総額163億2,020万円にのぼる。
個別の不正受給519件の内訳は、「雇調金」だけの不正受給が286件で、ほぼ半数(55.1%)を占めた。そのほか、パートやアルバイトなど雇用保険被保険者でない従業員の休業に支給される「緊急雇用安定助成金」だけの不正受給が80件(15.4%)。両方の助成金を不正受給した企業は153件(29.4%)と約3割を占めた。
地区別では、最多は関東で185件(35.6%)だった。次いで、近畿が94件(18.1%)、中部が88件(16.9%)と、3大都市圏で全体の7割(70.7%)を占めた。

産業別 サービス業他が4割で最多

雇調金等の不正受給を公表された516社のうち、個人企業等を除いた382社の産業別は、サービス業他が161社(構成比42.1%)で最多。次いで、建設業47社(同12.3%)、製造業40社(同10.4%)と続く。10産業すべてで不正受給が行われていた。
産業を細分化した業種別では、建設業に次いで「飲食業」が40社(同10.4%)で多かった。そのほか、人材派遣業などを含む「他のサービス業」34社(同8.9%)、冠婚葬祭や美容業、旅行業などを含む「生活関連サービス業,娯楽業」29社、宿泊業16社などが上位に並ぶ。コロナ禍の影響を強く受けた業種が目立った。

売上高5億円未満が4分の3を占める

個人企業等を除いた382社のうち、直近の売上高が判明した171社を対象に分析した。売上高別では、最多は1億円以上5億円未満の67社で、全体の約4割(構成比39.1%)を占めた。
次いで、1億円未満が61社(同35.6%)で続く。売上高5億円未満は128社で、全体の4分の3(同74.8%)を占めた。
このほか、10億円以上50億円未満が20社、5億円以上10億円未満が18社で、100億円以上も3社公表された。

業歴10年未満の新興企業が4割超

法人設立日から公表日までの業歴別は、最多が10年以上50年未満の169社で、全体の4割超(構成比44.2%)を占めた。次いで、5年以上10年未満が105社(同27.4%)、5年未満が64社(同16.7%)、50年以上100年未満が44社(同11.5%)の順。業歴100年以上の老舗企業は公表が無かった。
TSRが保有する企業データベースの構成比と比較すると、5年以上10年未満は全体(同16.0%)を11.4ポイント上回り、他のレンジより不正受給の比率が高かった。
雇調金の特例措置が開始された2020年4月以降、コロナ禍で設立された企業も17社あり、設立から間もなくして不正受給を行ったとみられる。

都道府県別 大都市圏が突出

雇調金等の不正受給が公表された519件を都道府県別でみると、東京都が68件で最も多かった。次いで、愛知県61件、大阪府57件、神奈川県53件、広島県28件、千葉県21件、埼玉県17件、福岡県16件、京都府と大分県が各13件、三重県が12件、栃木県と岡山県が各11件、愛媛県と高知県が各10件で続く。15都府県で10件以上が公表された。
一方で、徳島県と香川県では公表が無く、全国の45都道府県で公表された。
経済活動が活発で、企業数も多い大都市圏が上位に入る傾向をみせている。
※ 都道府県労働局が公表した住所に基づいて集計した。本社所在地と異なる場合がある。


想定外のコロナ禍で市場が急激に縮小し、雇用維持のため雇調金に頼った企業は中小企業から上場企業まで広がった。迅速な支援のため、支給決定までの申請手続きも簡素化された。
コロナ禍が沈静化し経済活動が再開されると、各都道府県労働局は受給状況の調査に動き、2023年3月末までに判明した不正受給は1,524件、総額は256億5,000万円にのぼった。
不正金額が100万円以上であったり、悪質な事例と判断されると、不正受給の内容や社名等が公表される。公表された企業は悪質なコンプライアンス(法令順守)違反が白日の下にさらされ、信用失墜だけでなく、取引先や消費者への影響も計り知れない。単なる「手続きミス」との言い訳は通用しない。不正受給した助成金を速やかに返還した場合、公表を免れるケースもあるが、支給額に延滞金等を加えた金額を返還しなければならず、不正受給は信用面だけでなく、資金繰りにも重大な影響を及ぼしかねない。
企業支援策もアフターコロナに舵を切っているが、コロナ禍で深刻な打撃を受けた企業の雇用維持に貢献した雇調金の源泉は雇用保険である。今後も、不正に受給した企業の摘発は厳格に進めることが求められる。

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