那須雪崩事故 損害賠償裁判が6月28日判決 「遺族が胸の内を語る…」

2017年3月、那須町で登山講習中の大田原高校の生徒と教諭8人が亡くなった雪崩事故で、一部の遺族が講習会の責任者だった教諭3人と県などに損害賠償を求めた裁判は28日に宇都宮地方裁判所で判決が言い渡されます。

なぜ我が子の命は奪われたのか…
判決を前に遺族が胸の内を語りました…

2017年3月27日午前8時30分過ぎ、那須町の那須温泉ファミリースキー場周辺の国有林で雪崩事故は発生しました。

この事故で県高校体育連盟・登山専門部の「春山安全登山講習会」に参加していた大田原高校の生徒と教諭8人が亡くなりました。

雪崩事故で当時16歳、高校1年生だった息子の公輝さんを亡くした父親の奥勝さんは、事故の当日、公輝さんと対面できたのは夜でした。

(息子の公輝さんを亡くした奥勝さん)
「息子さんは今、心肺停止状態ですと言われて、病院に行く前に病院の先生と連絡が取れていて足が硬直始まっていますと言われて…そこから何かできるって気はしなくて…ただ朝に連絡を受けてようやく夜に会えた」

「ただ名前を呼ぶしかできなかったですよね。なんでこんなことになったんだろうって思いましたけど…」

安全が優先される学校の部活動でなぜ…
何が原因で命が奪われたのか…

事故が起きてから3週間後、県教育委員会が設置した有識者による検証委員会が始まり、原因の究明と再発防止について議論を重ねました。

そして、最終報告書では「県高体連登山専門部の危機管理意識の欠如」が最大の要因と結論付けました。

(奥勝さん※2017年10月15日)
「これで終わりではないし、我々の思いは全然癒やされてはないですし、その思いに応えて頂くための出発点として今日はあって、息子たちの生きた証の一つとして立派な再発防止策ができ、それをちゃんと息子に報告できるようになっていただきたい」

事故発生の翌年(2018年)、県教育委員会は安全配慮が欠如していたとして講習会の責任者だった教諭3人を停職の懲戒処分にしました。

(当時の宇田教育長)
「本県教育に対する皆さまの信頼を損なうことになりましたことに対し、ご遺族の皆さま、けがをされた皆さま、そして県民の皆さまに改めて深くお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」

一部と遺族と県側の溝は埋まらず、2020年3月、遺族側は教諭3人と県などに対して、謝罪や損害賠償を求めて民事調停を申し立てました。

(奥勝さん※2020年3月26日)
「亡くなった息子たちを…無かったことにされるのが私たちは一番悔しい。それをしっかり教訓としていただくために一番良い手段は何にであろうと考えた時に、やはり調停で話し合いを続けていく…」

しかし民事調停は成立せず、去年(2022年)2月に生徒4人と教諭1人の遺族が教諭3人と県などに合わせて約3億8500万円の損害賠償を求めて訴えを起こしました。

(奥勝さん※2022年2月2日)
「那須雪崩事故は人災です。決してしかたのない自然災害などではありません。この認識を共有できないまま県側と和解なんてできません」

この裁判で原告の遺族側は、教諭3人が雪崩の発生を予見できたのに講習会を中止せず、事故は人災だったと訴えています。

教諭側は雪崩の発生は予見できなかったと反論し、国家賠償法上、公務員の職務による損害賠償責任は国や自治体が負うため、個人責任は問えないと主張しています。

そして県側は、3人の過失を認めた上で賠償額を争っています。

一方、刑事責任を巡っては、遺族側が訴えを起こした8日後に3人は業務上過失致死傷の罪で在宅起訴され、公判中の刑事裁判でいずれも無罪を主張しています。

互いの主張が平行線をたどる中、事故から丸6年が経った今年(2023年)3月、大田原高校で行われた追悼式では、慰霊碑の前に亡くなった8人の名前を刻んだプレートが設置されました。

(奥勝さん※2023年3月26日)
「この学校にいた痕跡というのは、全然残されていないなといったなかで、しっかりと慰霊碑に名前を残してもらえたことが、すごく嬉しく思いました」

奥さんは、雪崩事故の状況を詳しく知りたいという一心で作ったものがあります。それは、雪崩事故の発生当時の現場や状況を再現したソフトを公開したのです。

(奥勝さん)
「ずっと遺族の立場として悶々と事故を理解できないまま過ごしてきたんで、こういのがないと分からないなと、これはまさに執念に当てはまると思う」

「何でこんなの作ってるんだと思いながら作っているんですけどやめられないんですよね、やらないと気が済まないし、分からないし」

公輝さんは山岳部に加えて応援団にも入り、充実した高校生活を送っていたといいます。

(奥勝さん)
「大田原高校の応援団のTシャツとかこんなに色んな種類「学生注目」って書いてあったり、こういうのも毎日、本当に毎日、学校に着て行ってましたね。「富士は晴れたり日本晴れ」後ろの富士山のこういうのが書いてあって、登山の時にこれを着ていって先輩にエライ気合い入っているなって言われたらしいですね。山に登るときにこういうのを着ると気合い入って見えますよね」 

奥さんは、そんな息子の成長を楽しみにしながら一緒に人生を紡いできました。

(奥勝さん)
「体力がなさそうだなっていって、一緒にジョギングをしたり、もっと小さい頃の話しをすると鉄棒がうまくできなかったりしたときも一緒に練習をして、一つ一つできるようになって息子も一緒にできたと喜んでくれたし、息子以上に嬉しく思いながら一緒に成長してきたような、そんな気持ちをもちながら過ごしていました」

「色々不器用なところは似ているな思いました。何でもスマートにこなせない。自分と同じだなと思いながら、だからこそ目が離せないというか一緒にやろうかっていうような思いとかありました」

「本当になんていうか…、手塩にかけたっていうと言い過ぎかもしれないが、手をかけて育てたつもりです。なので、子を亡くした親はみんな同じ気持ちだと思いますが、悔しくてたまらないですね」

部活動では、あってはならない事故…
その責任はどこにあるのか…
雪崩事故で遺族が損害賠償を求めた裁判は28日、判決を迎えます…

(奥勝さん)
「根本の原因として挙げられるのは、学校事故として切り取った断面、それが1番この事故の真理・核になるようなものかなと私はこの事故を理解しています」

「単なる自然災害ではなく人災であったと認定して頂けると信じています」

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