【角田裕毅を海外F1ライターが斬る:第9戦】“一学期”の評価はB+。厳しい状況の中で入賞争いに絡み続けたのは立派

 F1での3年目を迎えた角田裕毅がどう成長し、あるいはどこに課題があるのかを、F1ライター、エディ・エディントン氏が忌憚なく指摘していく。今回は2023年F1第9戦カナダGPについて振り返ってもらった。

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 私の母親は教師で、子ども時代の私は、母が生徒の成績評価に頭を悩ませているところを見ているのが好きだった。何度も何度も修正を繰り返して、B-が結局B+になったりするところをずっと見ていたものだ。

 さて、F1シーズンに学校の学期制を当てはめて、カナダまでを一学期と考えよう。この学期の角田裕毅をアルファベットで評価すると……。そうそう、カナダといえば、面白い話を思い出した。昔モントリオールの小さなホテルの一室で、トップエンジニアと契約を結んだことがあったのだが、部屋を貸してくれた友人は、私がブロンドの女の子を連れてくるものだと思いこんでいて……「そんな話、どうでもいいです」だって? 全く君はつまらん人間だな!

 私が言いたかったのは、この学期の終わりに角田を評価するとすれば、まずまずの成績として「B+」をつける、ということだ。去年の今頃よりもはるかに向上している。

 今の裕毅は、アルファタウリのリードドライバーだ。デ・フリースがチームをリードすると予想していた者たちは、今のところ、完全に予想が外れたということになる。ちなみに私は最初から、デ・フリースは平凡なドライバーだと思っていた。

 しかし裕毅は素晴らしい仕事をしているといっても、数字的には悲しい状況だ。8レースのうちポイントを獲ったのは2回だけで、チームは合計2ポイントで、コンストラクターズ選手権最下位に沈んでいる。

2023年F1第9戦カナダGP 角田裕毅(アルファタウリ)

 そんななかでも角田が立派だったのは、カナダGPは別にして、この一学期は常にポイント争いをしていたところだ。11位を3回、12位を1回、そして10位を2回。15位のモナコでは、ブレーキに問題が出るまでは9番手を走っていた。つまり、全くポイント争いに絡めなかったのはカナダだけということになる。

 しかしモントリオールはAT04との相性が良くないコースであり、それを思えば、角田はよくやった。まず、実質的に最初のプラクティスになったFP2で、角田はデ・フリースより少しだけ速かった。ちなみにFP2が最初のセッションになったのは、FP1がキャンセルされたせいなのだが、その話をここで詳しくすると、パスを取り上げられてしまうかもしれないので、黙っておく。角田は、FP3の滑りやすいコンディションでは、8番手に入って実力を示した。確かに2回スピンをしたが、ターン4からの立ち上がりでスピンをしてどこにもぶつからなかったのは驚きだ。チームメイトとの差は約0.8秒。たいしたものだ。

 予選ではトラフィックに巻き込まれ、Q2進出を0.016秒差で逃した。この日は、スチュワードができるだけ多くのドライバーにペナルティを与えようと意気込んでいた。大勢の対象者のなかに角田が入れられてしまい、3グリッド降格の罰を受けて、19番グリッド。そこからいったい何ができるというのか。

2023年F1第9戦カナダGP 角田裕毅(アルファタウリ)

 チームはリスクを冒すことを決め1周目の終わりに角田をピットインさせて、ハードタイヤに換えてコースに送り出した。都合のいいタイミングでセーフティカーが出れば、そこで2回目のピットストップをする予定だったが、もちろん、そんなラッキーなことは起こらなかった。

 しかし注目すべきなのは、ピットストップ後の2周目から11周目のフリーエアで走った期間に、トップを走るマックス・フェルスタッペンとのギャップの拡大を約6秒にとどめたことだ(ここはベテランならではの着眼点だと思わないか? 君もしっかり私から学ぶといい)。

 角田は中盤は13番手まで上がったものの、アレクサンダー・アルボンやバルテリ・ボッタスのように1回ストップで走り切るわけにはいかなかったため、ポイント獲得の望みはなかった。そういうわけで、角田はレース後半を淡々と走るしかなかった。あまりいい一日ではなかったが、チームメイトはケビン・マグヌッセンとのバトルのなかでひどいことになっていたので、それと比べれば、角田のレースは悲惨とまではいかなかったと思う。

 シーズン最初の3分の1を締めくくるグランプリは、いまひとつな週末だったが、次の“二学期”にあたる6戦は、通常のサーキットで行われる。ここで今年これまで築いた強固な基盤を足掛かりに、角田はさらに良い走りを見せてくれるものと期待しよう。

2023年F1第9戦カナダGP 角田裕毅(アルファタウリ)

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筆者エディ・エディントンについて

 エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。

 ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。

 しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。

 ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちがあるのはバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。

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