2050年カーボンニュートラルに向け、民間事業者と共創する地方自治体の役割が拡大

環境省は、家庭などの電力消費に伴うCO2排出を実質ゼロに、また運輸や熱利用等を含めたそのほかの温室効果ガス排出削減に取り組む自治体を、「脱炭素先行地域」として選定している。2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、地域発の取り組みが別の地域に波及し、次々と脱炭素を実現していく「脱炭素ドミノ」のモデルとなるもので、最大50億円を交付する。今年2月に公募が始まった第3回選定では、16件を認定。このうちの7件は、「重点選定モデル」として選定した。地域特性に応じた地方創生やまちづくりにも資する多様な脱炭素化モデルを創出し、事例を共有するため、脱炭素の推進では、地方自治体の役割がますます重要になっている。(松島香織)

脱炭素先行地域は2022年から年2回募集しており、これまで全国32道府県83市町村の62件が選定された。第3回選定では、提案の実現可能性を高めるため、民間事業者等との共同提案を必須とする新たな審査基準を追加。6月7日の認証授与式に登壇した脱炭素先行地域評価委員会の竹ケ原啓介座長は、「民間事業者を入れることで取り組み実現のストーリー性が増し、事業エリアの需要家を巻き込む好循環につながる」と説明した。

バイオガス発電設備イメージ(紫波町提供)
熊谷町長

また、特に優れた提案として「重点選定モデル」の枠を設け、関係省庁と連携し施策間の相乗効果が期待できる取り組みを「施策間連携モデル」として5件、さらに地域による投資で収益をあげ地域の中で所得として回していく「民間裨益(ひえき)型自営線マイクログリッド」を導入することにより、地域経済の成長につながることが期待できる「地域版 GXモデル」として2件を認定した。自営線マイクログリッドの導入に関しては、今年度創設された特定地域脱炭素移行加速化交付金を合わせて活用することが可能であり、脱炭素技術の導入を強力に後押しする。本稿ではこれら2件の取り組みを紹介する。

脱炭素の取り組みから子実用トウモロコシで収益をあげる――岩手県紫波町

岩手県紫波町(しわちょう)は、農業振興と脱炭素を掛け合わせた「みくまるっと脱炭素化モデル事業」を提案し、これが「施策間連携モデル」に認定された。同町では100%出資し、東日本電信電話岩手支店など9団体の共同提案者と共に、特定目的会社「紫波太陽エネルギー」を年内に設立。公共施設にPPA(Power Purchase Agreement:電力販売契約)で太陽光発電を導入し、さらに、町内最大の観光施設であるラ・フランス温泉館に木質バイオマス熱電併給設備を設置し、周辺遊休地に導入する太陽光発電・大規模蓄電池を連携させた自営線マイクログリッドを構築する。設備の整備や保守・運用は、町内企業が実施し地域内での経済活性化を図る。

また、同町の特産であるリンゴやブドウなどのうち廃棄に回されるものや、地域で出た生ごみを利用したメタン発酵バイオガス発電を2025年度中に導入。バイオマス発電で発生した消化液を、「水田活用の直接支払交付金」(農林水産省)を活用して町が作付け転換を推奨している、子実用トウモロコシ(飼料などとして活用されるトウモロコシ)等の肥料にする計画だ。

紫波町の熊谷泉町長は「紫波町は農業中心のまちだが、水田は労力がかかり担い手がいない。手間がかからず農地を荒らさない子実用トウモロコシに早くから注目・研究し、収益をあげるシナリオを作ってきた」と話す。

落ちたリンゴやブドウは熊などが果樹園にやって来る誘因になっていたが、バイオガス発電の原料にすることで鳥獣被害を抑制することにつながり、地域内の資源循環や農業の活性化が期待される。

取り組み成功のカギは、周囲の理解と体制作り――高知県須崎市・日高村

高知県須崎市と日高村は、「特産農産物施設園芸の脱炭素化・付加価値向上と地域連携型の再エネ(再生可能エネルギー)拡大・レジリエンス強化の実現」を提案し、民間裨益型自営線マイクログリッドの構築をもとに地域経済の成長を促す「地域版GXモデル」に認定された。

取り組みでは、須崎市と日高村が出資する地域新電力会社「高知ニューエナジー」が、PPAによる太陽光発電・蓄電池の導入を主導し、再エネ電力の地産地消を促進する。また、ほぼ全域が太平洋に面しており、地形的に津波の影響を受けやすい須崎市は、高台の地域で再エネ電力を使った、自然災害に強い住宅エリアを計画している。

農業分野では、水耕栽培をしている日高村のトマトの農業ハウスで、太陽光発電・蓄電池を活用した温水蓄熱によって夜間の熱供給を行う。また日高村のトマトと同様、須崎市の特産であるミョウガも水耕栽培であり、地下水熱利用空調設備を導入。重油加温器の燃料使用量を大幅に削減し、エネルギーコストの抑制と脱炭素化を実現する。

(左から)戸梶村長、楠瀬市長

須崎市の楠瀬耕作市長は、「須崎市は雨が多く、地下水を活用できないかと考えていた。地下水熱利用空調設備はすでに実証実験済みで実用化している」と話す。「ミョウガ農家は後継者が多い。食べていける状況ではあるが、それをしっかり持続可能なものにしていかなくてはいけない」と力を込めた。

「経費をいかに下げていくのかが、持続可能な農業に結び付く」と、日高村の戸梶眞幸村長は続ける。「日高村のトマトはとても美味しいのに、付加価値がとても乏しい。環境にやさしく体にもやさしいという付加価値を付けることで、ブランド力が上がっていく。大変だが、地元企業の力を借りながら何としても成功させなくては」と語った。

両氏とも、取り組み成功のカギとなるのは、周囲の理解と体制作りだと考えているという。楠瀬市長は「事業として、農家に共通認識を持ってもらうことが大事」だとし、戸梶村長も「マイクログリッド構築には技術力がいる。しかも安く構築し、効果が出ないと周囲の理解は得られない。きちんと状況を説明して、協力体制を作るのが大きな課題。成功例となれば他の地域にも波及する」と意欲的だ。

次回、第4回脱炭素先行地域選定は8月頃に公募を開始し、以降は2025年度まで年2回実施する。

環境省 脱炭素地域づくり支援サイト
https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/preceding-region/

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