【リニア妨害】川勝知事の「現実離れ」した嫌がらせ|小林一哉 産経新聞が報じた、非公式の場で、川勝知事がJR東海に品川―名古屋間の先行開業を取り下げるよう、繰り返し要請してきたというスクープ。しかし、川勝知事は産経の報道を否定した。はたしてその真相は――。

産経以外は無視した「否定」報道

産経新聞ウエブ記事を否定した川勝知事(静岡県庁、筆者撮影)

2023年6月14日付朝刊各紙は、川勝平太・静岡県知事が「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」の言いがかりを撤回しないことなどを詳報した。
そんな中で、産経新聞(地方版)だけが、新聞各紙のどこも報道しなかったニュースを最後に伝えていた。ニュースは以下の通りである。
〈川勝知事の会見ではまた、公式、非公式を問わず国の関係者にリニア中央新幹線の大阪までの一括開業と、県内を通らないルートへの変更を要請したことがあるか問われ、知事は全面的に否定した。〉

なぜ、このようなニュースが掲載されたのか?
13日の知事会見で、幹事社の毎日新聞記者が真っ先にこのニュースに関わる質問をしたからだ。

「知事が国などの関係者に対して、開業日程であるとかルート変更を非公式の場で打診したと6月2日に一部報道があった。具体的には、名古屋、大阪間の開業に合わせた全線一括開業と静岡県内を通らないルート変更を非公式に要請したという内容だった。
ネット等々でも反響があって、6日の閣議後の会見で斉藤国交相が、この報道に関連して現行案が最も適当であり、計画変更を否定するような発言を行った。知事は、こうした要請を公式、非公式を問わず、国の関係者にしたことがあるのか」

この質問に対して、川勝知事は「いいえです」と素っ気なく否定した。

「一部報道」とは、6月2日公開の産経新聞ウエブ記事である。だから、産経新聞が川勝知事の「否定」を記事にした。つまり、「産経新聞ウエブ記事の内容は正しくない」と川勝知事が明言したことを記事にしたのだ。

知事の「否定」に対して、会見に出席していた産経記者は再度の質問などで追及しなかった。逆に、6月2日産経新聞ウエブ記事が間違っていることを認めるような14日付の記事になってしまった。どうして、他社のように無視しなかったのか不思議である。

川勝知事「2つの提案」は周知の内容

6月2日産経新聞ウエブ記事は、
〈「大阪まで一括開業すると国が言ってほしい」。(国などの)関係者によると、川勝知事は昨年12月頃、非公式の場で、JR東海に品川―名古屋間の先行開業を取り下げるよう、繰り返し要請してきたという〉

〈同時に長野県内の停車駅を現計画の飯田市よりも約100キロ北の松本市に設置し、静岡県内を通らないルートに変更することも求めたとされる〉

と2つの“提案”を伝えていた。

産経新聞の独自ダネだったが、他のメディアはどこも後追いをしなかった。

産経新聞の独自ダネの内容は、筆者をはじめ県内の記者にはなじみの深い内容だった。過去に何度も川勝知事が話題にしていたからだ。

1つ目の“提案”は、品川―名古屋間の2027年開業を取り下げて、2037年を予定する品川―大阪間の全線一括開業を川勝知事が要請したという。

2つ目の“提案”は、静岡県を通らない長野県の松本空港とつなげる「う回ルート」案である。2020年11月号の雑誌中央公論に寄稿した論文『国策リニア中央新幹線プロジェクトにもの申す』の中に同じことを書いていた。

中央公論の論文では「交通アクセスとしては飛行場が必要ですが、中津川(※岐阜県のリニア駅)の北には松本空港があります。そこまでリニアを延伸すれば空港と連結できます。日本には新幹線と空港を連結させている所はどこにもありません。松本空港はリニアと連結できる唯一の候補地です」などと川勝知事は論文でも提案するほど熱心だった。

ただ地元の長野県では、南アルプスを貫通する直線ルートに決まる前、木曽谷ルート、伊那谷ルートの2ルートを要望していたが、「松本空港ルート」など誰ひとり言っていなかった。どう考えても、「松本空港ルート」は川勝知事の単なるいやがらせでしかなかった。

事実なら期成同盟会から脱会か

当時、川勝知事はさまざまな会見で「松本空港ルート」を提言したり、品川―大阪までの全線一括開通を述べていた。県内各地で行われる知事と住民の集いなどで「松本空港ルート」を取り上げたが、一般の県民には知事が何を言っているのかわからなかっただろう。
当時の状況を承知していれば、産経新聞ウエブ記事の内容そのものは全く目新しいものではない。

産経新聞ウエブ記事の大きなポイントは、いまさら、そんな発言をするのか、というタイミングの問題である。

ふつうに考えれば、この期に及んで、「全線開通」と「松本ルート」を川勝知事が話題にすることに違和感を抱かざるを得なかった。あまりにも軽率であり、自ら墓穴を掘るに等しい行為だからだ。

と言うのも、昨年7月にリニア建設促進期成同盟会に加入する条件として、川勝知事は、
1、現行ルートでの整備を前提にする。
2、東京、名古屋間の2027年開業を目指す立場を共有することを遵守するとした。そう約束して、リニア建設促進期成同盟会に入れてもらったのだ。

それなのに、昨年12月、国などの関係者に面会して、まさに1、2を否定する2つの“提案”をするなどちょっと考えられなかった。

これまでも川勝知事は真っ赤な嘘やごまかしをするのだが、それでもちゃんと計算している。そのくらいにしたたかではある。

6月13日の会見で、「ルート変更の見解」を問われると、川勝知事は「ルート(品川―名古屋)を前提にして、県専門部会、国有識者会議で議論していただいたわけです。中身は水と発生土で、これの決着がついていません」などと訳の分からない回答に終始した。それだけ慌てたのかもしれない。その慌てぶりを見れば、産経新聞ウエブ記事が正しいのかもしれない。

川勝知事から提案を受けた産経新聞ウエブ記事に登場する関係者は「実情を見れば、あまりに現実離れしている」などとコメントしている。

昨年、神奈川県駅の土地買収などの進捗遅れで2027年開業に間に合わないなどと視察の際にクレームをつけ、また昨年12月以来、「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」といずれもリニア建設妨害の「現実離れ」したいやがらせを続けている。

今回の2つの提案も、「現実離れ」している。国の関係者との話の中で、本当に話題にすることはありうる。ただし、単なるいやがらせレベルでしかない内容である。

川勝知事が昨年12月、この2つの発言をしたのかどうか、いまのところ不明である。産経新聞ウエブ記事に登場する「関係者」がちゃんと発言すれば、この問題は蒸し返されるはずだ。

と言うのも、知事会見に参加した記者たちの多くが、6月2日産経新聞ウエブ記事が正しいと考えているからだ。もし、事実だと証明できれば、川勝知事はリニア建設促進期成同盟会から、約束違反を問われ、退会に追い込まれる可能性もある。少なくとも、川勝知事の信頼性はますます失われる。

ただ、このまま「藪の中」では、真相は明らかにされないままで終わる。

小林一哉(こばやし・かずや)

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