「へき地度」を数値化、東北などで高い傾向 地域医療の課題発見、若い医師の勤務地選びに活用も

高度な医療を受けられる病院への距離などをもとに、地域の「へき地度」を1~100で数値化する方法を横浜市立大学大学院データサイエンス研究科の金子惇(まこと)准教授らの研究チームが開発した。雪が多い北海道と東北・北陸地方の日本海側は「へき地度」が高い傾向があるようだ。金子氏は、研究成果が地域医療の課題発見や、若い医師の勤務地選びに役立てられると期待している。

総務省の地域力創造グループ過疎対策室が今春公表した資料によると、過疎地域の人口は全体の9.3%にあたる1167万人。過疎地域で進む住民の高齢化と、地方・都市部の医療格差は海外でも課題になっている。

研究チームは、過疎地域や、地域の中心から半径4キロ以内の住人が50人以上で医療機関がない「無医地区」といった行政区分はあるが、地方・都市部の差を段階的に詳しく表す尺度はなかったと指摘。過疎地の医療関係者、住民、行政官らにアンケートを行い「へき地度」の指標となる要素を調べた。

アンケートは3回実施されて、最終的に郵便番号ごとの人口密度、手術や入院に対応する「二次救急病院」や先進的な設備を備えた「三次救急病院」との距離、離島という地理的な条件、特別豪雪地帯であることの4つが指標に選ばれた。こうした調査をもとに研究チームは、地域ごとの「へき地度」を1~100で数値化することで、数字が大きい地域ほど医療サービスを受けにくい環境であることがわかると報告した。

郵便番号(左上)、市区町村(右上)、二次医療圏(左下)、都道府県(右下)ごとの「へき地度」。赤い色が濃い部分ほど「へき地度」が高い(提供:横浜市立大学・金子惇准教授)

郵便番号、自治体(都道府県、市町村)、入院や手術に対応する「二次医療圏」の3通りの方法で日本全国をエリアに分割して「へき地度」を算出すると、どの条件でも北海道と東北・北陸地方の日本海側で「へき地度」が高く、多くの地域で80を上回った。全国を郵便番号ごとにエリアを分けて調べた場合は、東京や大阪などの大都市圏を除くほとんどのエリアで「へき地度」が50以上を示した。

さらに、二次医療圏ごとの医師の偏在を表す「医師偏在指標」との関連性を調べると、医師偏在指標の数値が低い(医師の数が少ない)ほど「へき地度」が高くなる(医療サービスを受けにくい)傾向が確認された。研究チームは「中程度の負の相関」を認めたとしている。既存の指標と連動した結果になったことは「へき地度」の根拠になると考えられるだろう。

「へき地度」と医師偏在指標の相関(提供:横浜市立大学・金子惇准教授)

研究結果を受けて金子准教授は「この指標と予防接種率、健診受診率、がん検診受診率、先進医療や特定の手術の実施率などの関連を見ることで、都市部とへき地で提供されている医療の違いが見えてくると思います」と期待を込めた。

また、医師が少ない地域に若手を送る動きがあるが、どこが「医療におけるへき地」であるのかを客観的に示す指標がなく、行政やステークホルダー(利害関係者)が恣意的に勤務地を決めてしまうケースもあるという。金子准教授は、若い医師と勤務地のミスマッチをなくして、広い範囲の診療を行う地方医療のやりがいや面白さを伝えることに「へき地度」を活用してほしいと述べている。

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