堀正工業を複数の金融機関に紹介したX氏と所属する保険会社の言い分

~ X氏は「粉飾決算に関与したことはない」~

約50行に異なる決算書を提示し、300億円以上の融資を受けた堀正工業(株)(TSR企業コード:291038832、東京都)。都内に本店や支店を置く金融機関の多くが、保険会社の担当者(X氏)から堀正工業を紹介されたと語る。
なぜ、X氏は次々と金融機関に堀正工業を紹介したのか。東京商工リサーチ(TSR)は、X氏と所属する保険会社に取材した。
保険会社は、X氏が複数の金融機関に堀正工業を紹介したことは事実と認めた。また、保険会社の聞き取りに対してX氏は、「短期取引が多く金融機関の入れ替えが必要と推測し、度重なる紹介依頼を受けたことに不自然さは感じなかった」と証言したという。
さらに、粉飾決算へ関与したことはなく、事実も知らなかったとし、堀正工業側から謝礼などを受け取った事実は確認されていないと回答した。


保険会社との一問一答は以下の通り。

―複数の金融機関がX氏の紹介が融資取引のきっかけであると証言しているが事実か。事実の場合、いくつの金融機関に堀正工業を紹介したのか。

当該社員が複数の金融機関に取引先を紹介したのは事実。紹介数については、お客様や金融機関の個別の情報になるので、回答できない。

―X氏は、過去にA銀行B支店で堀正工業を担当していたという話がある。

当該社員の前職については個人情報になるので、回答できない。

―保険会社として営業先の企業の融資を金融機関に紹介することは多いのか。また、紹介することは社内規定で禁止されていないのか。

一般的にお客様本業の成長に繋がるお客様同士のビジネスマッチングやお客様をご紹介することはあるが、 金融機関を紹介することに対して報酬を受け取ることは社内ルールで禁止している。なお、当社で調査しているわけではないが、 融資先を紹介するようなケースは比較的少ないと思われる。

―いくつもの金融機関に堀正工業を紹介したのは何故か。

本人へのヒアリングでは、堀正工業との長い付き合いを継続させることを目的として、堀正工業の事業拡大に応じて資金を必要としているとのニーズ等に合わせて金融機関の紹介をしたものと確認した。また、 当該社員は堀正工業から、それぞれの金融機関とは短期の取引が多かったことから金融機関の入れ替えが必要だと推測していた旨を聞いており、度重なる紹介依頼を受けたことに対して不自然さは感じなかったと証言している。

―堀正工業は、金融機関ごとに異なる決算書を提出し、融資を得ていた疑いがあるが、X氏は紹介時に粉飾決算をしていたことを知っていたのか。その場合、決算作成のアドバイスや作成など協力をしていたのか。

本人へのヒアリングでは、一連の粉飾決算に関与したことはなく、 粉飾決算の事実も知らなかったことを確認している。また、決算業務の支援等も行ったことはないと確認している。

―堀正工業の決算書には数十億円の事業者保険料などを計上しているが、X氏は契約などに関与しているのか。

堀正工業の他の保険会社を含めた全体の保険料規模については、当方は認識をしていない。また、個別の契約については回答しかねる。ただ、もし質問の事業保険料が事実とするならば、当該社員の取り扱う契約をはるかに上回る保険料規模だ。

―堀正工業の紹介に関して、堀正工業側から謝礼などを受け取った事実はあるのか。

当社による本人へのヒアリング等からは 、堀正工業や代表など関係者から金融機関を紹介したことに対する謝礼などを受け取った事実は確認されていない。

―X氏が紹介した金融機関は多額の取立不能が発生する恐れが出ているが、保険会社として金融機関に経緯の説明などを行ったのか。または、行う予定があるのか。

詳細な事実関係を調査しているが、金融機関に対して経緯の説明等は行っていない。今後の調査状況に応じて、適切に判断していく。

―X氏から堀正工業の紹介などの報告後、保険会社として何か対処したか。

現時点では事実関係の把握のため、本人へのヒアリングなどの調査を行っている。

―今回の事案について、保険会社として社内調査を行うのか。また、金融機関などから問い合わせ、質問などは何件あったか。

当該社員より報告を受けてから本人にヒアリングを行う等の調査を実施しているが、当社に対して金融機関等から問い合わせや質問は現時点で来ていない。


TSRの取材に対し、X氏は詳細を会社に話していると回答し、対応した保険会社はX氏にヒアリングした結果を真摯に回答した。
だが、堀正工業が多行取引を必要としたことに疑問を持たなかったのだろうか。また、規模に見合わない頻繁な銀行紹介に違和感を持たなかったのか。堀正工業の決算内容を知らずに紹介したのか。営業成績など自身の都合を優先した節はなかっただろうか。
保険会社は「融資先を紹介するようなケースは比較的少ないと思われる」と回答する。一方、融資した金融機関の担当者は「保険会社やコンサル会社の担当者が融資窓口にきて企業を紹介することは普通にある」と話す。
粉飾決算に気付かず、最終的に自行判断で融資した金融機関の責任は別にして、提出先ごとに異なる決算書を作成した企業が破たんし、複数の金融機関が取立不能について適時開示するなどの事態に陥っている。結果的に、登場人物それぞれが複雑に絡み合って前代未聞の粉飾劇に繋がっている。それぞれの立ち振る舞いは正しかったのだろうか。
多くの取引先、金融機関を巻き込んだ粉飾決算の結末は、堀正工業側へのヒアリングが重要になる。

粉飾決算が発覚した堀正工業

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年6月30日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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