心と体の自由を求めた女性たちを描く! 寒村の因習を突きつける日本映画『山女』と、同調圧力や差別と戦う女性の姿が共感を呼ぶ世界の名作3選

『山女』©YAMAONNA FILM COMMITTEE

山田杏奈、森山未來、永瀬正敏ら出演の映画『山女』が本日よりユーロスペース、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開となる。監督は『リベリアの白い血』『アイヌモシリ』の福永壮志。

18世紀日本、寒村の因習に追い詰められる17歳の少女

――18世紀後半、冷害による食糧難に苦しむ村で、17歳の凛(山田杏奈)たち家族は先先代が犯した罪により卑しい身分に貶められていた。村人たちから蔑まれ、差別を受け、田畑も奪われたまま心ない言葉を吐き捨てられ、汚れ仕事をし、父親である伊兵衛(永瀬正敏)にもこき使われる日々を過ごしていた少女・凛。女性であるがゆえに、ひたむきに一家を支えても報われることはない。

ある日、村の蔵から米が盗まれる。飢えに耐え切れなくなった伊兵衛が持ち出したのだ。犯人探しをする村人たちの前で、凛は咄嗟に父親の罪を被り、伊兵衛は自らの非を娘になすりつける。そして居場所がなくなった凛は、自ら村を去ることになる。村を去った凛が向かったのは、決して足を踏み入れてはいけないと言われている山奥の神聖な森。そこで出会ったのは、白い長髪と長い髭をたくわえた“山男”(森山未來)だった。

最初は恐れていた山男と心を通わせ、自然と共に暮らしながら自らの魂を解き放っていく凛。それは村での抑圧された生活では味わったことのない、生きている実感だった。その頃、冷害が続き窮地に追い込まれた村では天の怒りを鎮めるため、若い娘を生贄に捧げる案が持ち上がり、やっと心を落ち着ける居場所を見つけた凛に、過酷な運命が忍び寄る――。

柳田國男の名著「遠野物語」から着想を得た本作。自然を前にしてあまりに無力な人間の脆さ、村社会の持つ閉鎖性と同調圧力、身分や性別における差別、信仰の敬虔さと危うさを浮き彫りにしながら、一人の女性が自らの意思で人生を選び取るまでを描く。

心と体の自由を求めた女性たちを描く名作3選

19世紀以降、女性参政権運動や女性解放運動が盛んになり、ジェンダー平等の価値観が広まったのは最近のこと。多様性が謳われるようになった現代においても封健的な制度が根強く残る地域は少なくない。

自分らしく生きること、人間らしさとは、何なのか。『山女』で描かれる凛の物語と彼女が下した決断は、時代を超えて、こだまとなって私たちの明日に響く。

そんな凛と同じく、辛い状況の中でも置かれた環境にただ迎合することなく、ひたむきに心と体の自由を求めた女性たちが主人公の映画を3作ピックアップ。様々な不条理と戦う姿が時代も国も超えて突き刺さる、瑞々しくも逞しい女性たちの生きる姿勢に触れてみてはいかがだろう。

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『はちどり』(2020年)

1994年、韓国では国際化と民主化が加速し、空前の経済成長が進んでいた。14歳の少女ウニは、両親・姉兄とソウルの集合団地で暮らしている。学校に馴染めないウニは、別の学校に通う親友と悪さをしたり、男子生徒や後輩の女子とデートをしたりして過ごしていた。小さな店を必死に切り盛りする両親は、子どもたちの心の動きと向き合う余裕がない。父は長男である兄に期待を寄せていたが、兄はそんな両親の目を盗んでウニに暴力を振るっていた。

ウニは自分に無関心な大人たちに囲まれ、孤独な思いを抱えていたが、ある日、ウニが通う漢文塾に、女性教師ヨンジがやって来る。ヨンジはウニにとって初めて、自分の人生を気にかけてくれる大人だった。自分の話に耳を傾けてくれる彼女に、ウニは心を開いていく――。

キム・ボラ監督の長編デビュー作であり、第69回ベルリン国際映画祭 ジェネレーション14プラス部門グランプリをはじめ、世界各国の映画祭で50冠を超える受賞をした本作。男性が優遇されることが当たり前だった時代。女性であるという理由で我慢しなくてはならず、それがおかしいということに気がつかなかった時代。そんな時代に生きた少女の物語であり、声をあげようとするウニの姿は世界の女性たちの共感を呼んだ。

『燃ゆる女の肖像』(2019年)

18世紀のフランス。女性画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から、娘のエロイーズの見合いのための肖像画を頼まれ孤島の屋敷を訪れる。エロイーズ自身は結婚を拒んでいた為、画家の身分を隠して近づき、密かに肖像画を完成させたマリアンヌは、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを否定される。

描き直すと決めたマリアンヌに対し、意外にもモデルになると申し出るエロイーズ。貴婦人が不在の間、キャンバスをはさんで見つめ合い、美しい島を共に散策し、音楽や文学について語りあううちに、恋におちる二人。約束の5日後、肖像画はあと一筆で完成となるが、それは別れを意味していた――。

女性の地位は確立されておらず、男性の名前でなければ絵画展にも出展できなかった時代。封健的な社会をよそに、身分も超えて“視線”で紡がれる美しい愛の物語は、第72回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィアパルム賞を受賞したことを皮切りに世界各国の44の映画賞を受賞するなど、世界中の映画人の心を奪った。

『裸足の季節』(2016年)

首都イスタンブールから約1000キロ離れた北トルコのとある村。5人姉妹の末っ子で13歳のラーレは、10年前に両親を事故で亡くし、いまは祖母の家で叔父たちとともに暮らしている。学校生活を謳歌していた姉妹たちだが、男子生徒たちと騎馬戦をして遊んだ日、自宅に帰ると祖母が怒りの形相で姉妹たちを迎え長女から順に折檻していく。騎馬戦を「ふしだらなこと」と捉えた祖母たちはその日から突然、姉妹たちに一切の外出を禁じ、家に閉じ込めてしまう。

古い慣習と封建的な思想のもと、電話を隠され、扉には鍵がかけられ、自由を奪われ、まさに「カゴの鳥」となった彼女たちは、ひとりひとり見知らぬ男のもとへと嫁がされる。ラーレは自由を取り戻すべく、ある計画を立てる――。デニズ・ガムゼ・エルギュベン監督のデビュー作でありながら、第73回ゴールデングローブ賞外国語映画賞や第88回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、数々の国際映画祭でも受賞した。

今もなおトルコの一部で続く風習により、女性たちは幼くして見知らぬ他人とのお見合い結婚を余儀なくされている。奪われた自由を再び取り戻すために奮闘する姉妹たちにエールを送らずにはいられない、瑞々しさに目を奪われる作品。

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