カナダ人が学んだ酒造り、蔵に2カ月住み込み 日本酒レストラン開業へ 丹波市の「西山酒造場」

長い櫂(かい)棒でタンクのもろみを混ぜるカール・カルヴェルトさん(左)と杜氏の八島公玲さん=丹波市市島町中竹田、西山酒造場

 清酒「小鼓」で知られる西山酒造場(兵庫県丹波市)で、カナダ人男性が約2カ月間住み込み、酒造りを学んだ。男性は、今年秋にもポルトガルで日本酒レストランの新規開業を計画する。蔵人らと寝食を共にしながら吸収したもろみの仕込みなどの技や日本の食文化を、現地での店舗経営や日本酒文化の発信に役立てる。(伊藤颯真)

 同国でレストランを営むカール・カルヴェルトさん(49)。ベルギーでビール醸造を手がける父から「日本酒を造るのは簡単じゃない」と言われたのを機に清酒に興味を持った。その中で、2000年から海外での日本酒の普及などに取り組む「酒ソムリエ協会」(本部ロンドン)の認定資格「酒ソムリエ」を取得するなど知見を深めてきた。

 新店開業に向け、酒の見聞をさらに広めようと、同協会が今年新設した資格「マスターオブ酒」を受講。5月15日、長期滞在しながら醸造工程を学ぶ研修先として協力する西山酒造場にカナダからやってきた。

 丹波での住まいは、同社の社員寮。杜氏(とうじ)の八島公玲(こうれい)さん(51)らの指導の下、原料の酒米の洗浄から、もろみの仕込み、酒の搾りなど一通りの工程に取り組んだ。ときには、午前1時から麹室(こうじむろ)の温度を管理したり、夜明け前の午前4時にタンクに入ったもろみを混ぜたり。それぞれの作業のたび、ほうきやモップでその場を清掃し、蔵の中を清潔に保つ酒造りの現場を肌で感じた。

 仕事が終わると町に繰り出し、八島さんらと酒を酌み交わした。日本酒の味や飲み方、合うように調理された料理を実地で学んだ。

 同酒造場で今月23日にあった修了式では、西山周三社長(50)や八島さんらが同協会の資格証やバッジを贈呈。カルヴェルトさんは「酒造りに合わせた蔵の生活に驚いた」と振り返った。「教科書にはない貴重な知識、経験を得られた。酒はパスタやキャビアなど欧米の料理とも合うはず。欧米に広めたい」と意気込み、帰国後の事業を展望した。

 国内での日本酒需要が低迷する中、同酒造場は10年から輸出を本格化し、中国や欧米など38カ国に届けたという。女将(おかみ)の西山桃子さん(48)は「世界では、ワインの方が値段も地位も高いが、海外のソムリエが日本酒の勉強をする流れができつつある。研修を通じ、世界での日本酒文化の定着につなげていきたい」と話した。

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