<社説>米軍PCB問題 政府未把握は県民軽視だ

 治外法権とはまさにこのことだ。人体への有害性から国が流通量を把握することにしているポリ塩化ビフェニール(PCB)の廃棄物について、日本側が米軍が保有する総量を把握できていないことが明らかになった。「PCB特別措置法」に基づく本来の処分期間は今年3月末だが、米軍に対しては法律が適用されない。県民の健康を軽視していると言わざるを得ず、看過できない。 PCBは工業品の絶縁剤、溶剤などとして広く使用されてきた。ところが食用米ぬか油にPCBが混入し、健康被害が広がった1968年のカネミ油症事件で、その毒性の強さが認識されるようになった。被害者は西日本を中心に1万3千人に及び、慢性的な全身倦怠(けんたい)感やしびれ、食欲不振などが報告された。その結果、多くの先進国で70年代に生産が中止され、日本でも72年に製造が中止された。

 保管が長期化することにより、流出などによる環境汚染も懸念されたことから、日本政府は2001年に「PCB特別措置法」を施行。確実かつ適正な処理を推進するため、国が中心となって全国にPCBの処理施設が整備されたが、在日米軍基地内のPCBの保管状況や量は米軍が報告しておらず、危険な化学物質が事実上放置されているのが現状だ。

 県内では米軍嘉手納基地や旧恩納通信所、牧港補給地区(キャンプ・キンザー)でも保管や汚染が明らかになっている。嘉手納基地では1960年代から70年代に、PCB入り変圧器油が基地内のため池に投棄されていた。

 返還施設跡地利用の最大の障壁は、投棄されたPCBなどの汚染物質と言っても過言ではない。カドミウム、水銀、PCB、鉛、ヒ素などが検出された恩納通信所跡地、鉛やアスベストなどが確認されたキャンプ桑江跡地など、汚染除去が返還を遅らせた事例は枚挙にいとまがない。

 2013年4月に日米が合意した嘉手納基地より南の米軍基地の返還・統合計画では、牧港補給地区の倉庫群が「25年度またはその後」、残りの部分は「24年度またはその後」と返還時期が示されている。返還後に世界水準の観光リゾート地として期待される同地区だが、元基地従業員がPCBを米軍が水路などに投棄したことを証言している。兵站(へいたん)基地としてさまざまな有害物質が集まっており、汚染も疑われている。

 米軍のこうした対応の背景には、米軍に返還跡地の原状回復や補償を義務付けていない日米地位協定の不平等さがある。「良き隣人」を標ぼうするなら、米軍はPCB使用履歴や保管実態、総量などの情報を明らかにすべきだ。

 日本政府も国民を守るため、米側に強く情報開示を求めるべきだ。国民の安全と平和を守る主権国家としての責務を果たすには、地位協定の抜本的改定が必要不可欠だ。

© 株式会社琉球新報社