<社説>高校生重傷、警官起訴 全容解明し再発防止を

 沖縄市の路上で2022年1月の未明に、バイクで走行中の当時高校生だった男性と沖縄署勤務の警察官が接触し、男性が右目を失明するなどの重傷を負った事件で、那覇地検は業務上過失傷害の罪で巡査を在宅起訴した。巡査が手に持っていた警棒を差し向けるなどして職務上の注意義務を怠ったという見方だ。 県警は巡査の行為が故意に当たるとして、特別公務員暴行陵虐致傷容疑で書類送検したものの、公判を見据える地検は「極めて故意に近い過失」(関係者)とみて、同容疑よりも量刑が軽い罪に切り替えた。当時の現場の状況を明らかにする証拠が不十分な中、慎重に検討した結果だろう。

 一方、被害男性らは弁護士を通じて「納得できない」とコメントした。公判への被害者参加や民事訴訟などを通して「真実を明らかにしていく」との考えだ。裁判所は被害者の主張も踏まえ、慎重に審理を尽くし、全容を明らかにしてほしい。それが再発防止の大事な一歩となる。

 事件は深夜に車1台がやっと通れるほどの狭い路地で起きた。県警によると、巡査はバイクで走行中の高校生に職務質問を試み、停止させようと伸ばした警棒を右手に持った状態で、左手で高校生につかみかかった。警棒が右目付近に当たったという。

 事件発生当初、県警の調べに巡査は「バイクに停止を求めたが止まらず接触した。一瞬のことで分からない」などと故意にけがを負わせる行為を否定した。一方、高校生は「突然、警察官が暗闇から出てきて警棒で殴られた」とし、双方の認識は異なっている。

 県警の捜査は難航した。事件の客観的証拠が乏しいことが背景にある。高校生と巡査が接触した現場は薄暗い路地。周辺には2人が接触した様子を捉えた防犯カメラはなく、目撃者もいなかった。2人の供述の信ぴょう性や裏付けが捜査の鍵となった。

 地検の事実特定も難航した。2人の供述を基に客観的証拠を積み上げるなどし、書類送検から起訴までに約半年を要した。地検は巡査が漫然と警棒を男性の前に差し出した行為が、特別公務員暴行陵虐致傷罪の要件となる故意による暴行ではなく、職務上の注意義務違反と判断した。

 事件を巡っては当時、警察発表やマスコミ報道より先に、SNSで「警察が事件を隠蔽しようとしている」との趣旨の投稿が拡散した。沖縄署周辺に数百人の若者が詰めかけ、警察車両を壊すなどする襲撃騒動が起き、今年2月までに計15人が摘発された。

 男性への誹謗(ひぼう)中傷や不確かな情報も拡散した。県警は男性が無免許、ノーヘル運転をしたり、暴走行為をしたりしていたなどとする情報を否定した。ただ、こうした拡散を抑えるのに最も有効なのは真実を明らかにすることだ。被害者も納得できるよう裁判では全容解明に向け審理を尽くしてほしい。

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