仙台市の派遣社員「勤務先巡り会社に退職迫られた」 派遣未定でも手当出る待遇が誘因?

就業条件などを示した書面を基に状況を説明する女性

 「派遣会社に『提示した派遣先に行けないのなら、有期派遣に戻るか、退社するしかない』と迫られた」。「無期転換ルール」で登録型派遣から無期雇用となった仙台市の派遣社員の女性(54)が「読者とともに 特別報道室」に訴えを寄せた。派遣会社は強要を否定するが、取材を進めると、無期転換後、派遣先がない期間も手当が支給される特有の待遇が、派遣会社を焦らせた可能性をうかがわせた。

 [無期転換ルール]有期契約が通算5年を超える労働者が希望すれば、雇用主は無期雇用に転換しなければならない。雇い止めの不安をなくし、雇用の安定につなげるのが狙いで、2013年施行の改正労働契約法で定められた。派遣社員の場合、派遣されるたびに契約する登録型(有期)と異なり、派遣先がない期間も一定額以上の手当が出る。

■希望とかけ離れた提示を受け続け、最後は不信感から辞職へ

 女性は東京の大手派遣会社に登録し、仙台市内にある大手通信会社の支店に長年派遣されていた。2018年の無期転換後も支店で働いていたが、23年3月末で支店での勤務が終わることになり、約2カ月前から新たな派遣先の提示が始まった。
 派遣会社の担当者は当初から「無期雇用なので、提示した派遣先に行ってもらう」と発言。最初のA社は時給が減ることなどから断ると、登録型派遣に戻るか退社するかを求められた。
 威圧的な態度などに納得できず、派遣会社の相談窓口に申し出ると、希望に添うB社を紹介されたが、他の派遣会社に競り負けたのか、立ち消えになった。
 女性はその後もC、D、E社と矢継ぎ早に提示を受けたが、最寄り駅から往復で1時間も歩く職場など、希望とかけ離れた内容を打診してくる担当者の言動に疑問と焦りを感じたという。結局、派遣先は3月末まで決まらず、4月からは派遣会社の規定などに基づき、過去の平均賃金の6割が支払われた。
 女性は4月半ば、F社の提示を受け入れたが、派遣会社への不信感が拭えず程なく辞職した。現在は別の派遣会社に登録し、新たな職場で仕事に励む。

■「辞職を迫るのは脅しに等しい」との批判も

 「どこからも収入が得られないのに、手当を出さなければいけなかったからなのだろう」。一連の経緯を振り返る女性は「提示先を断り、退職届を書かされた無期雇用の友人もいる」とルールから逸脱する派遣業界の内情も明かした。
 宮城県労連は「無期転換すると、派遣先がなくても賃金が出るので、早く派遣先を決めるよう圧力が強まるものだが、希望しない会社に無理に行かせるのは問題だ」と指摘。東北労働弁護団の宇部雄介弁護士(仙台弁護士会)も「辞職を迫るのは脅しに等しい。派遣先がないからといって、労働者に不利益を押し付けるのはおかしい」と批判する。
 派遣会社の広報部は「退職や有期雇用派遣社員に戻ることを強要することはない」としつつ「できる限り希望を勘案して新たな就業先を紹介し、正当な理由がない限りは引き受けていただいている」と説明した。(桜田賢一)

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