「“最強のキャラ”は果たして誰か?」
――居酒屋や立ち飲み屋あたりで話題になりがちな、この問い。実に議論の分かれるところであろう。
育ってきた環境が違うから好き嫌いは否めないのと同様、“最強”という定義は人それぞれ違うのも否めない。かくいう俺も毎日仕事をサボって自問自答しているが、いまだ答えは見つかっていない。答えるにしても最低一週間は考える時間が欲しい。口にするのは簡単だが、真剣に考える人ほど答えに窮する問いだ。
だが「“最強のコック”は誰か?」と聞かれたら、頭に浮かぶのはただ一人。それは誰か? ライバック! ケイシー・ライバックだ!!
この名前を聞いて「あのライバックかよ……」「伝説の男だ……」「かつて俺の教官だった……」と戦慄する人もいるだろう。
というわけで、CS映画専門チャンネル ムービープラスにてスティーヴン・セガール主演の『沈黙の戦艦』(1992年)と『暴走特急』(1995年)の2作が放送されるのを勝手に記念し、今回は“最強のコック”ことケイシー・ライバックシリーズを振り返ってみようと思います。
人も食材も両方おいしく調理『沈黙の戦艦』
ケイシー・ライバック。料理の腕とノリの良さには定評のある、戦艦ミズーリ所属の料理長。だが、その正体は元ネイビーシールズにして、対テロのエキスパートであった。
海軍十字章2回、銀星章2回、名誉負傷章4回、青銅星章3回、海軍表彰章2回、戦闘行動賞、国土防衛従軍章3回……と、麻雀で言えば数え役満な戦績のオーナーだ。
さらには素手、ナイフ、銃器、破壊活動でも敵なし。いわば人間国宝ならぬ軍人国宝な彼であったが、過去に部下をみすみす見殺しにした上官に直接ヤキを入れたおかげで降格。普通であれば不貞腐れそうなものだが、今ではコックとして乗組員に料理を振る舞っていた。
だが、舐めた態度を取る輩は許さない。例え上官であろうが盾突くなど、決して牙は抜けていないのであった。
――と、改めて書いてみて思う。
最近のラノベ作家さんでも躊躇しそうなほどに、この盛りに盛った設定はどうだ!?
そんな彼が「異世界に転生する必要なんてないさ!」と言わんばかりに、人も食材も両方おいしく調理していくシリーズ第1弾が『沈黙の戦艦』である。
セガールのタクティカル仕草から目が離せない
退役を控えた戦艦ミズーリに搭載された核弾頭を狙い、まだ宇宙人になる前のトミー・リー・ジョーンズ率いるテロリストが占拠! セガールの<103分 殺人クッキング>が展開されていく……というのが『沈黙の戦艦』の主なあらすじだ。
閉ざされた状況のなか孤立無援で戦う、と聞くと「嫌ねぇ……ただの『ダイ・ハード』インスパイア系じゃないの」と捉えられるかもしれない。だが本作を“インスパイア作品”の一言で済ませられないのが、風が吹こうが鎗が飛ぼうがトマホーク・ミサイルが飛ぼうがどこ吹く風、なセガールのブレのなさである。
険しい表情をしつつ、冷凍食品をレンチンする感覚で淡々と悪党どもを料理!
――1988年、増えすぎた“無双系アクション”へのカウンターとして生身のブルース・ウィリスが七転八倒する『ダイ・ハード』が製作された。
それに対し、超人セガールがフラグをひとつひとつ丁寧にヘシ折っていくのが『沈黙の戦艦』だ。ウィリス演じるマクレーンは当時「世界イチ不運な男」と謳われていたが、本作ではテロリスト側が世界イチ不運としか言いようがない。
しかし「全員死ぬんだろうなあ、敵……」と、分かりきっていても目が離せなくなる要因は、やはりセガールのタクティカル仕草のおかげだろう。
コルト・ガバメントM1911の構え方、索敵する際のクリアリング、超実戦型合気道、即席ブービートラップ、タイマンで披露するナイフバトルのムーヴなどは、今見てもリアルなハッタリに満ちている。
また余談ではあるが、舞台となる戦艦ミズーリも今ではハワイの観光名所として名高いので、行く機会があれば是非ラストのライバックばりに敬礼するのをおススメしたい。
正統続編なのに“沈黙”なし!『暴走特急』
『沈黙の戦艦』は、ストーリー的に無関係なものでもセガール主演作でさえあればタイトルに「沈黙の」が付くキッカケとなった。
だが、セガールが再びライバックを演じる正統続編のタイトルに、ファンはニワカに耳を疑った。
それはズバリ、掟破りの『暴走特急』!
……「続編には付かないんだ! 沈黙!!」と震えたファンもいるのではないだろうか。
疎遠になっていた姪っ子と交友を深めるため、特急列車へ乗り込んだライバックだったが、衛星兵器<グレイザー1>のコードを狙ったテロリストが偶然乗り込んできた! というのが主なあらすじ。
そして修羅場のレベルが大幅アップ! もちろんセガールが、ではない。テロリスト側が、だ!
なんとテロリストがライバックの姪っ子を、よせばいいのに人質にしてしまう。セガールの身内を人質にしたら、もはや死を覚悟するしかない。ある意味、セガールが車掌の“地獄行き片道特急列車”に99分間揺られる悪党たちを描く作品である。
『鬼滅の刃 無限列車編』の大ヒットは記憶に新しいが、本作は『鬼滅のセガール 無限(に人が死ぬ)列車編』の様相を呈している。
いつも心にケイシー・ライバックを
常人であれば動揺する状況でも、眉一つ動かさず人間を料理していくライバックのキャラ造形は本作でも健在。例え肩を撃ち抜かれても「安心しろ、弾は貫通した」と手当要らず。普通に考えたら「いや、安心できないよ!」という話だが、セガール……というかライバックなら安心なんです!
それだけに留まらず、ライバックの名前を聞いたテロリストがビビりまくり、ライバックの死体を見るまで安心するな! と厳命するなど、「ナメてなかったセガールが案の定セガールでした」描写に拍車がかかっている。
続編ということで、気の利いたライバック・ジョーク(主に人を殺した後に放つ)が追加トッピングされているのも本作の特徴だ。
女性の胸元に気を取られたテロリストをブン殴り、「おっぱいには気をつけろ」。ラスボスとの死闘に圧勝し、「キッチンじゃ負けない」。……などなど、観ていて思わず「ごちそうさまでした!」と言いたくなる捨て台詞を披露。
天を飛ぶ衛星兵器より、地を練り歩くセガールが脅威……とでも言わんばかりに、改めてライバックというキャラの凄みを感じさせる続編に仕上がっている。セガール作品に上も下もないものの、比較的他人にオススメしやすいのが、この「ライバック」シリーズだ。
生きていると想定外、あるいは危機的な状況に陥る機会が多い。ともすれば狼狽して右往左往してしまうこともあるだろう。そんな事態に備えるためにも、『沈黙の戦艦』と『暴走特急』を見て、心の中にケイシー・ライバック精神を宿してほしい。
文:DIEsuke
『沈黙の戦艦』『暴走特急』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年7月放送