「あと20年で1億貯めたい」年間手取り1100万のサラリーマン世帯は“億り人”になれるか?FPが試算してみた

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、45歳・会社員の女性。相談者が退職するまでのあと20年で1億円を貯めることを目標にしている相談者。どのように資産を増やせばいいのか相談したいとのこと。目標額を達成できる見込みはあるのでしょうか?FPの秋山芳生氏がお答えします。


あと20年(妻定年65歳まで)に1億円貯めたいと考えています。相談としては、20年で1億円の資産を作るために、投資はどのようにしていくか、支出はどのようにコントロールするのが良いか、懸念点はあるか(不可能も含めて)を知りたいと思います。遅ればせながらの家計管理で今後どこまで資産を増やせるか頑張りたいです。

2019年まで夫が自営で収入が不安定だったことに加え家計管理をほぼしておらず、収入と年齢の割に貯金はほぼありません。そのうえ2019年にマンション購入。頭金は親に借りました。また2022年には車もローンで購入。しかし管理をあらため、親に借りた600万は3年間で既に返済済み。車ローンも繰上げ返済をして2024年3月には完済予定です。

ジュニアNISA(今年4年目満額)、夫婦つみたてNISAとiDeCo(2020年から)※今の時点で150万ほど利益がでています。

現金貯蓄が少ないので、車ローン返済が終わったらその分を貯蓄予定。500万以上になった分はさらに投資に回していく予定です。余分な支出も見直して抑えていきたいと思います。ただ、車は家族の生活の一部として、なくすことは考えていません。買い替えは8年ごとで、下取り含め250万円で購入できるものを基準にしています。 よろしくお願いします。

【相談者プロフィール】

・女性、45歳、会社員 ・夫、50歳、会社員

・子どもの年齢:6歳(年長)

・お住まい:持ち家(マンション、東京都)

・毎月の世帯の手取り金額:71万円(夫37万円、妻34万円)

・年間の世帯の手取りボーナス額:250万円

・給与・事業収入以外の収入:3万2,000円(児童手当、授業料助成等、会社扶養補助)

・毎月の世帯の支出の目安:61万5,000円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:14万円(ローン9万円・管理費5万円Wi-Fi含)

・食費:14万円

・水道光熱費:4万円

・教育費:5万円(授業料2万円、諸費5,000円、習い事2万5,000円)

・保険料:1万3,000円(夫婦県民共済、火災保険、少額短期地震保険、自動車保険)

・通信費:4,000円 (夫携帯のみ、妻ポイント支払いのため無し)

・車両費:2万円(車両ローン除く)

・お小遣い:8万円(夫婦2人分)

・その他:日用品2万円、衣服・美容院2万円、

交通費1万6,000円(電車通勤のため夫婦定期代、駐輪場代)

旅行レジャー4万円(年50万円)、特別支出1万6,000円(家具や住宅設備等)

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:9万5,000円

・ボーナスからの年間貯蓄額:48万円

・現在の貯蓄総額:200万円

・毎月の投資額:20万円

・現在の投資総額:950万円

・現在の負債総額:3,600万円(住宅ローン3,400万円:金利0.892%、返済2049年8月まで、車両200万円:金利1.90%、返済期間2025年8月まで)

秋山:ご相談いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナー 兼FP YouTuberの秋山芳生です。定年を迎える20年後までに、1億円の資産を作るにはどうしたらよいかというご相談ですね。億万長者といわれるように、1億円以上の資産を持つ人はお金持ちのイメージです。野村総合研究所も1億円以上の純資産(不動産を除く)を持つ世帯を富裕層と定義しています。

今回は、1億円を20年間で作るためにはどうすれば良いかを一緒に考えていきたいと思います。

1億円以上資産がある人はどんな人たち?

まず、1億円以上の資産を作るハードルがどれくらい高いのかを見ていきたいと思います。野村総合研究所の発表によると2021年に1億円を超える資産を持つ世帯数は149万世帯で、全体の2.74%となります。36世帯に1世帯が富裕層ということになりますので、小学校のクラスの中に1世帯は富裕層がいるかいないかという感じですね。まるで出会う可能性がないわけではありませんが、決して多いとは言えない人数です。

実際に多くの家計相談を受ける中での私の実感ベースになりますが、1億円以上の富裕層の方は以下のようなケースが多いです。

【運による】
宝くじなどに当たる、親が資産家で相続や贈与を受けている

【収入が高い】
外資系コンサルタント、外資系金融、大手商社、士業(医師、弁護士、会計士)、ベンチャー企業や急成長のグロース企業でストックオプションやRSU(※)を得ている、退職金が多い会社に勤めている

【経営者】
企業オーナー、起業し上場益を得ている、起業しバイアウトしている

【投資家】
株やFXなどの集中投資で資産を築く、不動産投資で成功する

また、夫婦で公務員を勤め上げて、貯蓄+退職金を合わせて億を超える資産を作ったり、会社員夫婦でコツコツと貯蓄と積立投資を長年続けて“億り人”になった方もいます。

トマス・J・スタンリーの名著『となりの億万長者』(早川書房)や『1億円貯める方法をお金持ち1371人に聞きました』(文響社)では、億を超える資産を持つ人は「中古物件や中古の国産車に乗りクーポン券を好んで使う」といったように、華美な生活はおくらない普通の人が多く、その多くが“身の丈に合った”お金の使い方をしていると語られています。

※RSU(譲渡制限付き株式ユニット) 一定期間経過後に株式を受け取る権利が付与される事後交付型株式制度。従業員が勤務条件を達成した場合やボーナスの代わりに付与される。譲渡制限があり、経過年数ごとに一定の割合で株にできる。簡単に言えば「自社株を数年に分けてもらう権利を付与される制度」のこと

20年後に1億円貯めるにはどんな計画になる?

それでは、普通のサラリーマンが特別な条件(相続・贈与・ストックオプションなど)がなく20年で1億円の資産を作るには、毎月いくらの貯蓄をしていけば良いのでしょうか?

1億円を20年で割ると、1年間で500万円の貯蓄が必要になります。

これを1カ月あたりに割り戻すと、41.67万円/月の貯蓄が必要になります。ご相談者さまの収入は手取りで月71万円、ボーナスで250万円なので、年間の手取りは1102万円です。ここから500万円を貯蓄に回し、602万円で生活をすれば達成できることになります。

ただし、現状の支出は月に61万円を超えており、年間で720万円以上使っていると考えると、このまま貯蓄で1億円を貯めるのは難しそうです。

そこで現金貯蓄だけでなく、お金を投資に回して20年間の積立投資をした場合で考えていきたいと思います。

一定期間の積立投資で資産形成をする場合、ゴールとなる最終目標金額が決まっていれば、あとの可変要素は、「毎月の積立金額」と「想定利回り」になります。今回は、1億円を20年でという条件があるのでこの毎月の積立額と想定利回りを変化させながら現実的なラインを探していきましょう。

運用利回りが年率5%で20年間の複利運用をして、1億円を目指す場合には、毎月の積立額は約24.33万円。つまり年間約292万円になります。また、運用利回りが年率7%で20年間積立投資ができた場合は、毎月の積立額は約19.2万円になり、1年間では約230.4万円が必要になります。

運用の利回り平均年率7%が今後20年続くことは保証できませんが、過去30年間の全世界株式の平均利回りは約7%となります(データ期間1988年〜2022年)。決して不可能な数字ではなさそうです。

毎月19.2万円を積み立てるためにどうする?

特に今回のご相談は、「20年後に1億円が絶対に必要」な訳ではなく、あくまで「出来たら良いな」という希望だと思います。ですので少し強気な年率7%のリターンを前提に、毎月19.2万円を積み立てるにはどうしたら良いかを考えていきます。

現在の家計を見ていくと、手取り収入が71万円で、毎月の支出が61.5万円とのことですが、支出の内訳を合計すると59.9万円ですので約1.6万円の使途不明金がありそうです。そして、ボーナス250万円のうち48万円しか貯金できていません。200万円ほどが、自動車ローンの返済などに消えている可能性もありますし、特別費などに消えている可能性も高いです。特別費(レジャー、車検、固定資産税、お祝い、家具家電、突発的な医療費、冬服、スーツ、冠婚葬祭費用など)は年間の中でも把握が漏れがちになりますので、「昨年にかかった支出」を振り返りながら今年も予算を立てて準備しておくことが重要です。

支出改善のポイントをチェックしよう

一つひとつの支出をみていくと、全体的にはメタボ気味の家計になります。夫婦共働きで収入が高い分成り立っていますが、老後資産を作るためには引き締めが必要になります。

【食費14万円】
14万円の食費は三人家庭としてはかなり多い状態です。共働きでお忙しいと思いますが、外食を減らし、自炊を中心にしていけば大きく改善できるでしょう。また、ふるさと納税などを活用すればさらに食費が浮くはずです。

自炊をしていても野菜や食料の定期購入をしている場合、ついつい買いすぎてしまったりしていないかご確認ください。家族3人であれば食費は5万円以下の家庭もあります。使いすぎているポイントを絞ることで大きく改善できるでしょう。

【住居費】
住宅ローンの残債は3,400万円で、返済期間が26年間あります。金利が0.892%と変動金利としては少し高めなので、見直しできる可能性もあります。2023年6月現在では、借り換え金利が0.4%以下のものも多いので、借り換え手数料や、登記費用がかかってもトータルで支出が減らせる可能性があります。

また、管理費・修繕費が非常に高いことが気になります。低層マンションや部屋数の少ないマンションの場合は、マンションの修繕費を少ない居住者で分けるので高くなりがちです。また、管理費や修繕費が年々高くなっていく可能性もありますので、今後の修繕計画なども確認しておくほうが良いでしょう。

【保険料】
保険については、現在入りすぎということはありませんが、県民共済の場合は死亡保障が少ない場合があります。住宅ローンの団体信用生命保険には加入していると思いますが、ご夫婦に万が一の場合の保障がいくら必要かを考えておくとよいでしょう。例えば夫婦どちらかが亡くなった場合に、遺族年金とパートナーの収入、および亡くなった方の生活費が減ることも含めてしっかりと必要保障額を考えて保険を選び直したほうが良いと思います。

収入保障保険は、死亡保障としてはコストパフォーマンスが良いので入り直す場合は検討すると良いでしょう。また、自動車保険は車両保険に入っている場合は見直すことで保険料を下げられる可能性があります。

【投資】
毎月20万円ほど投資に回しているとのことですが、収入から支出を引くと計算が合いません。もしかすると、現金貯蓄を取り崩して投資に回しているだけの可能性もありますね。積立投資は「株価が高いと時、安い時も継続的に続ける」ということが重要です。場合によっては、積み立てが続けられなくなる場合もありますし、現金でもっておきたい生活防衛費を使い込んでしまっている可能性もありますので、バランスを見直してみると良いでしょう。

毎月あと10万円を捻出する必要がある

話を1億円に戻します。現在の貯蓄200万円、運用している資産950万円は今後の学資と生活防衛費として手をつけないと考えていく場合は、先ほどのシミュレーションで出た19.2万円を安定的に運用に回して積立ていく必要があります。

毎月9.5万円が収支で黒字になっているようなので、あと10万円を支出改善で捻出する必要があります。目指すことはできなくはないけれど、かなり厳しい数字です。

そもそも、老後に1億円必要なのか、現在の生活の充実と老後の生活のどちらに優先度を置くか、想定外の支出(子どもの留学、自宅の修繕、親の介護、家電の買い直し、自動車の修理など)に対応することを優先するかなど、最終的には「人生の価値観」が重要になってきます。

まずは、家計をしっかりと把握して、年間でかかっている支出が何に消えているかを把握し「重要でない支出」から切り詰めていくと良いでしょう。その上で、将来のライフプランを立てて、ライフイベントごとにいくら必要になるかを考えて準備をしていくことが必要です。

例えば教育資金は「使う時期」が決まっているので、本来は「投資で作る」には適していません。いざ使おうと思った時に暴落が起こってしまえば、引き出すことで大きく損してしまう可能性もあります。ライフイベントごとにかかる費用を算出し、現金貯蓄でためるお金と、投資運用で貯めるお金は整理しておくと良いでしょう。

価値観とお金の使い方に向き合って

今の延長線上に未来があるので、現在を変えることで未来が変わってきます。まずは足元を固めて、現状把握をしっかりとすることと、必要なお金は何であるか、夫婦で話し合いながら人生の価値観が揃うと強い家計が生まれます。

現在のお金の使い方が適切か?また投資に回しすぎて現在の生活がおろそかになっていないか?1億円必要か?幸せとは何か?お金を考えることは、人生を考えることにつながります。どこか参考になれば幸いです。

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