[知りたい聞きたい伝えたい]#燃料用の作物、日本でも作れる?

日射エネルギーを効率的に活用するためポットを3段に重ねる台(静岡県盤田市で=鈴木教授提供)

サツマイモ、増産に有望

ウクライナ危機を受け、エネルギーの国産化を進める機運が高まっている。海外ではトウモロコシなどを燃料用に栽培するが、日本でも何か作れないのだろうか。専門家らに聞くと、身近なあの作物を増産することで、エネルギーを全て自国で賄え、地方経済も潤うかもしれない未来像が浮かび上がってきた。

ロシアによるウクライナ侵攻で、農業でも電気や燃油の値上げが続き、エネルギーを海外に依存するリスクが浮き彫りとなった。自給率向上へ期待がかかるのが、再生可能エネルギーだ。

ただこのうちバイオマス(生物由来資源)では、発電に使う木質ペレットなどの輸入が増えているのが現状だ。バイオマス発電に詳しい近畿大学生物理工学部の鈴木高広教授によると、現時点で未利用の国内バイオマスは、国内で年間に必要なエネルギーの2%以下にしかならないという。

茎や葉も使える

「でもサツマイモを増産すればエネルギーを全量自給できます」

思いがけない代案はどういうことなのだろう。鈴木教授は、日本中で栽培でき、茎や葉も丸ごとエネルギーに変えられる点に着目。安価で大量生産する方法を研究する。弱い光でも育つ性質を利用し、8リットルのポットを3層に重ねて栽培。肥料には下水処理水を使う。下水は微生物に汚れを分解してもらうため酸素を加えて処理するが、この酸素が生育を速めるという。処理水は通年で15度に保たれ、栽培中の加温も不要だ。

10アール当たりの年間収量(年2作)は2万5300キロと、全国平均の10倍を達成。エネルギーは、サツマイモを発酵させて都市ガスの主成分であるメタンガスに変え、ガスで発電できる家庭用燃料電池を使って得る。この場合、最終的に日射エネルギーを利用できた割合は3・6%(180メガジュール)と「バイオマスでは世界最高記録」(鈴木教授)となった。

採算性はどうなのか。鈴木教授はエネルギー向けに1キロ当たり40円での販売を目指す。食用よりも大幅に安いが、多収により所得は2倍以上になるという。

研究に参加する、下水管理などを担う日本下水道事業団は「地域の資源として下水の活用を進め、エネルギーや食料の問題解決につなげたい」(東海総合事務所)と話す。

鈴木教授は、発電時に捨てられる熱の削減や電気自動車の普及などが進み、将来的にはエネルギー需要が現在の約19兆メガジュールから約12兆メガジュールまで減少すると予測。他の再エネも伸びる中で「半分の6兆メガジュール分をサツマイモで賄えれば、将来的に化石燃料を全廃できる可能性がある」と試算する。

放棄地解消に脱炭素・・・地域も“ほくほく”に

ただ、この量を賄うなら国土の7・8%(300万ヘクタール)が必要。食料不足が起こる心配はないのだろうか。栽培にはほとんど手間がかからず、現在耕作する農地で作る必要はないという。まずは遊休農地やベランダ、ビルの屋上など約100万ヘクタールの活用を促す。食料に回すことも可能で、約42万ヘクタールの耕作放棄地で栽培できれば、全国民が年間に必要とする分を超えるカロリーを確保できるという。

鈴木教授によると化石燃料の輸入に年間25兆円が使われており「脱炭素化はもちろん、これが国内農業に使われたら地方経済も潤う」と指摘する。

既にサツマイモを使って発電に取り組む事例もある。焼酎大手の霧島酒造(宮崎県都城市)は、焼酎製造過程で出る芋くずなどを工場のボイラー燃料に使うだけでなく、発電もして電力会社に売電するなどしている。

サツマイモ以外にも国内で燃料用作物を栽培する動きもある。栃木県さくら市では、民間事業者がイネ科の草本「エリアンサス」を栽培してペレット化し、温浴施設への供給などに取り組む。

■取材後記

バイオマスからエネルギーを得る長所は、捨てられている資源を有効利用できることだ──。当初はそんな思い込みがあり、燃料用に作物を新たに栽培するという構想は思いがけない案だった。

ウクライナ危機に円安と、農業を取り巻く環境は安定とは程遠い。燃料用での栽培の普及は、エネルギー自給率を高められるだけでなく、日本人の胃袋が減り続ける中で新たな市場開拓にもなる。鈴木教授はサツマイモ燃料が代替できる市場規模を約35兆円と見積もる。売買方法の確立など越えるべき壁は多いが、後押しする環境が整ってほしい。 本田恵梨

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