マッツ・ミケルセンが語る“インディの裏側”『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』ボイド・ホルブルックとのニコニコ悪役コンビ

第76回カンヌ国際映画祭『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』記者会見  撮影:石津文子

ハリソン・フォード主演の人気シリーズ5作目にして、最後の冒険となる『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』。インディの宿敵であるナチスの科学者フォラーを演じるマッツ・ミケルセンと、そのちょっと間抜けな部下クレーバー役のボイド・ホルブルック(『LOGAN/ローガン』ほか)に、第76回カンヌ国際映画祭で直撃!

こちらよりも先に握手を求めてくるマッツと終始笑顔のボイドという、ニコニコ悪役コンビが語る“インディの裏側”とは?

マッツ「たとえ悪役でも、演じられて幸せです」

―マッツ、あなたは“悪役を演じるために生まれてきたような俳優”と呼ばれることがありますが、あなた自身は悪役を演じるために生まれてきたと感じますか?

マッツ・ミケルセン:僕は悪人ではないですよ。なんなら証明します(笑)。ただ、アメリカではそうみたいですね。僕のアクセントのせいかもしれませんが。

アメリカでは、一度うまくいくと「またやろう」と言われがちです。同じような役を繰り返すのが嫌で、違うものをやりたい人もいるでしょう。でも、私は悪役でもなんでも、やれて幸せですよ。どんな役でも、オファーに対してはオープンにしています。それが自分の本国でも、どこの国でも。例えばフランスでもね。

―映画の冒頭、あなたが演じる若き日のフォラー(AIで若返った姿)が出てきた後に、25年後の彼を演じるというのは、ちょっと変な感じがしませんでしたか? そして、あの若い姿のフォラーは、実際に20年前のあなたに似ているなと思いますか?

マッツ:いいえ。僕が若い頃は、バスケットボールを持って飛び跳ねていたんですよ。フォラーのように真剣に集中している感じじゃなかったな。いや実際、どうなるのか気にはなったんです。撮影時の僕は56歳だったのだけれど、設定上は28歳くらい。そこで、彼ら(スタッフ)は僕の髪を真っ黒に染めたんです。まるで、森に暮らす魔法使いの老婆みたいにね(笑)。まあ、そんなふうに加工されていたというわけです。

「タイムスリップできるとしたら? チンギス・ハンに会ってみたい!」

―もし可能なら、お二人はタイムスリップしますか? そして、誰に会うのでしょうか?

ボイド・ホルブルック:僕はピラミッドをどうやって作ったか? だけは知りたいな。

マッツ:過去に戻るとしても、パズルのピースを一つ変えたら、その先の可能性は1000個くらいあって、それが増殖していく。うまくいかないでしょうね。

会ってみたいのは、チンギス・ハン! 本当にカッコイイと思うんです。彼は1千万人の祖先のようなもの。とてもクールですよ。でも、いつもチンギス・ハンがとんでもない数の人を殺したりしたことを忘れてしまって、なぜか彼をカッコいいと思ってしまうんですよね。時代を遡れるのなら、本当のところはどうだったのかを知りたいし、実際に彼が何をしたのかを見てみたい。役作りのためにも、見てみたいですね(笑)。彼は本当に何をしたんだろう?

―お二人それぞれ演じたキャラクターの一番好きなところはどこでしょうか?

ボイド:僕の演じたクレーバーは、あまり鋭くはないナイフという感じ。優秀な科学者であるフォラーの側で、彼の言いなりになるマッド・ドッグ。つまり間抜けなキャラクターなんですが、それを演じられるのはとても楽しいし、難しくはないだろうと思いました。まあ、ヤツは最も賢い選択をできる男ではないでしょう(笑)。

おそらく元々はドイツ人として書かれていたんでしょうが、僕がジェームズ・マンゴールド監督に「ドイツ語のアクセントで演じるのは嫌だ」と言ったんです。「もっと現代的な男、アメリカ人でもいいじゃないですか?」って。アメリカでは誰も自分を必要としてくれないから、彼のことを唯一求めてくれたフォラーに忠実になったわけです。そして必死にドイツ語を学んで、彼の一派の一員になろうと躍起になっている。

マッツ:フォラーは数学に情熱を注いでいます。そして、彼はナチスの一員ではあるけれど、メインストリームではないわけです。非常に優れた科学者にとっては、科学そのものが重要であって、イデオロギーは二の次なんだと思います。でも、彼にはイデオロギーと科学が合致していたから、とても情熱的になった。インディと同じように、フォラーは世界をより良い場所にしたいという夢を持っている。でも、どうやってそこに向かうかが、インディとは異なっているんです。

ボイド「スピルバーグの考えた映画に出られるなんて」

―お二人が初めて『インディ・ジョーンズ』を観た時のことを教えてください。

マッツ:1作目の『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981年)が公開された時、ボイドはまだお母さんのお腹の中にいたんですよ!

ボイド:僕の代わりに母が観てくれていたんですよ(笑)。僕は1981年生まれなんです。2作目(『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』[1984年])は父親と一緒にビデオで観たんですが、まるで弾丸の周りを回るような感じで楽しくって、外に出て、棒っきれを掴んでインディの鞭の真似をしたのを覚えています。これぞ映画の素晴らしさですね。もっと映画を見たくなるし、冒険の旅に出たくなる。そして、1作目、2作目、3作目と、30回ずつ見返したくなる。でも、インディ・ジョーンズの映画に出るなんて考えもしなかった。スティーヴン・スピルバーグの考えた映画に出られるなんて、あまりにもシュールすぎるし、今ここにいることさえも、とてもシュールですよ。

マッツ:『インディ』を初めて観たのは、僕が15歳の時。兄と一緒にビデオ屋で5本の映画を借りましたが、2本目に観たのが『失われたアーク』だったんです。もう夢中になって、他に借りた映画は観なかった。ジェームズ・マンゴールド監督も、同世代の俳優も、みんなこれを観て“同じ種族”になったというわけで、それはそれで楽しいですね。

―アクションシーンはとてもインパクトがありますね。

ボイド:モロッコでの撮影はトゥクトゥクを実際に走らせたり、普通の撮影ではこんなに時間をかけられないので、大作であることを実感しました。その後、ロンドンのスタジオに戻り、さらに多くのことを行いました。ロケとは違って、スタジオでは作り込みがすごく、環境をコントロールすることができました。まさに“インディ・ジョーンズ映画”でしたよ。つまり、巨大なジグソーパズルのようなもの。1テイクごとに時間がかかるし、1シーンを撮影するのに丸1日かかるんです。

マッツ:通常の絵コンテの代わりに、アニメーションのようなものを作ってくれたので、非常に助かりました。例えば「今度は彼女が車に飛び乗るんだ。了解」といった具合にね。僕たちは車の中に乗って演技をしているだけで、実際には何が起こるのかよくわからないのだけれど、あれがあってよかった。

マッツ「『運命のダイヤル』は完全に新しいレベルに達している」

―初めてインディの衣装を着たハリソン・フォードを見たときは、いかがでしたか?

マッツ:混乱しましたよ。衣装合わせをした時に、帽子と革のジャケットを着た彼と、ちょうどすれ違ったんです。それはインディ・ジョーンズでした。

ハリソンは僕が今まで会った中で、一番若い人。80歳になるのに、15~16歳の少年のように振舞うんです(笑)。映画祭の記者会見でもそうだったでしょう? 僕が話していたら、お尻をつねるんだから、まるで16歳の少年ですよ(笑)。彼は本当に情熱に満ちあふれているんです。

―あなたも少年っぽいですよね?

マッツ:そうだね、僕は17歳かな(笑)。僕らは子供っぽい兄弟という感じで、だからウマが合うんですよ。

―彼から何か学んだことはありますか?

ボイド:劇中、マッツとハリソンと一緒のシーンで僕が一言セリフを言うんですが、それはまるで、二人の俳優の演技のマスタークラスを目の前で観ているようでした。その場に自分がいるなんて! シュールという言葉しか出てこない。信じられなかった。一つだけ言えるのは、「ああ、もっと時間が欲しい」ということ。

―いまの時代に『インディ・ジョーンズ』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのような純粋な冒険映画がほとんどないことを、どう思われますか?

ボイド:僕たちに必要なのは、本来の人間味です。今、我々は高度にデジタル化された情報の世界に住んでいて、人間味のないものばかり。人間らしさが必要であり、その物語を書く人が必要なのです。だから、何度も何度もリブートするのではなく、新たに純粋な物語を作ること。“本物の何か”が必要なのです。

マッツ:『インディ・ジョーンズ』は、バート・ランカスターが主演した海賊映画(『真紅の盗賊』[1952年]。『パイレーツ・オブ・カリビアン』の元ネタと言われている)など、1940~1950年代の冒険活劇を思い起こさせます。あの頃の活劇はスクリーンに目を釘付けにさせ、とにかくいつもチャーミングだった。海賊が笑顔で、歌まで披露してくれたんです。ハリソン・フォードのインディにはそうした魅力があり、真似なんてできません。

『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は完全に新しいレベルに達していて、私たちを刺激し、血湧き肉躍る世界へと誘ってくれる。それは、想像力の力ですね。『運命のダイヤル』の何が美しいかというと、2023年現在のモラルや倫理観とは違う世界を描きつつも、私たち全員が共感できる物語でもある。とても解放的な映画になっています。

―他にやってみたい冒険やジャンルはありますか?

マッツ:もう今回、夢は叶ったからね(笑)。でも、ゾンビにはなってみたい。僕はゾンビ映画をやってみたいとずっと思っているんです。

取材・文・撮影:石津文子

『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は全国公開中

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