《連載:浸水1カ月 茨城・取手双葉》(中) ポンプ頼み、限界露呈 温暖化、内水氾濫「今後も」

足元の排水路から水があふれ出し「辺り一面、海のようだった」と話す飯島努さん=取手市双葉

茨城県内に大雨警報が出された6月2日夕、同県取手市双葉地区の飯島努さん(85)は、近くの第1ポンプ場に向かった。2年前に落雷で停電して止まったため、心配だった。

「ちゃんと動いていた。吐き出し口から水が出ていた」と振り返る。

同じ頃、市に問い合わせが相次ぐ。「ポンプは動いていますか」。住民らがこれまでの経験から不安を募らせていた。

市排水対策課の職員は、双葉地区の第1ポンプ場と第2ポンプ場の操作盤や排水出口を見て稼働を確認した。さらに小貝川に排水する新川第1、第2排水機場も、農政課の職員が稼働を確認した。

ところが、水は思うように排出されない。その後、道路や住宅の浸水の範囲と深さが増す。翌朝の状況について、飯島さんは「辺り一面、海のようだった」と語る。

市は、地区周辺に降った雨の排水が追い付かず、内水氾濫が発生したとみる。

雨量とポンプの排水能力に加え、水田に水が張られていた時期であることも重なった。

双葉地区は北の牛久沼、南の小貝川のほか、古八間排水路(通称・勘兵エ堀)と大夫排水路という二つの農業用水路に挟まれる。さらに周囲は水田地帯という環境下にある。

地区では過去の教訓などから、二つのポンプ場を設置。そこから排出された水は、新川第1、第2の排水機場から小貝川に流れるようにしている。

市によると、排水路は当時、大雨によって増水し、ポンプ場からは思うように水が送り出されなかった。さらに増水した排水路から小貝川への排水も進まなかった。

当時、牛久沼(谷田川)のすぐ下流の「八間堰(はっけんぜき)」は工事中で、水をせき止める矢板が設置されていた。地域では牛久沼の越水に影響したのではないかと指摘する声も出ている。管理する県は大雨を見据え、対策を講じたとする。今後検証が行われる予定だ。

当時、どれほどの大雨が降ったのか。

水戸地方気象台や市災害対策本部によると、近くの観測地点、藤代(小浮気)では、3日午前1時からの1時間に最大34ミリを記録。2日午前1時から3日午前10時までの総雨量は286ミリに上った。6月1カ月間の平均雨量の2倍近くの雨が、この2日間に降ったことになる。

記録的な大雨は、ポンプを頼みとしてきた、これまでの排水対策の限界を見せた。

防災行動学が専門の東京大学大学院の松尾一郎客員教授は、地球温暖化によって今後も大雨や水害は増えていくと指摘する。

自宅で寝たきりのお年寄りが内水氾濫によって亡くなった事例を挙げ、「あなどってはいけない」と警鐘を鳴らす。双葉地区の浸水を巡っては、「今後も起こり得ることと考え、排水機能の強化が必要」と指摘する。

「ハード面とともに、地区のリスクを反映させたタイムラインの作成などが欠かせない」。命を守る対策を行政も住民も考えていくべきと訴える。

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