企業はサステナビリティ関連のスキル不足をどう解消したらよいか――今こそ4つの戦略をわきまえよう

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さまざまな業界の企業に対し、サステナブルな事業運営、環境への影響削減、ESG報告、取り組みの透明性の導入とともに、常日頃の説明責任を求める圧力が高まっている。こうした機運が高まれば、組織とサプライチェーン全体で効果的に戦略や業務を実行・推進できるスキルを持った専門家や従業員の必要性も高まる。しかし、多くの企業で、サステナビリティ目標を達成できる知識・経験・スキルを持つ人材が不足しているのが現状だ。この問題に対し、ここにきて社内でスキル不足解消のための対策を講じる企業が増えている。スキル不足解消に取り組む4つの戦略を紹介しよう。(翻訳・編集= 茂木澄花)

多くの企業が、サステナビリティ人材の需要が供給を上回るペースで高まっていること、そしてその差は広がる一方だということを認識している。サステナビリティ関連の業務は増え、新たな役割も生まれているため、CSuO(最高サステナビリティ責任者)がいるだけでは十分とは到底いえない。

ILO(国際労働機関)の試算によれば、ネットゼロに向けた取り組みに伴う雇用数は2030年までに世界で1800万件の純増となる見込みだ。最新の調査では、82%のサステナビリティ担当役員が、サステナビリティの課題に取り組むための社内のスキルが不足していると考えていることが分かった。

世界経済フォーラムは、スキルを持った人材の不足が、サステナビリティ戦略を実行するにあたって重大な障壁の一つになっているという認識を示した。また国連グローバル・コンパクトは、こうしたスキル不足に直接的な対策を取ることを企業に求め、従業員のスキル獲得、スキルアップ、リスキリングに優先的に投資するよう促している。

企業はサステナビリティ人材の強化に様子見のアプローチを取りたがるが、それではスキル不足解消に拍車がかからず、サステナビリティ戦略の実行に悪影響が及ぶことになる。マイクロソフトセールスフォースインターフェイス(米国のタイルカーペット企業)など、スキル不足を社内で解消するために独自の解決策を展開する企業が増えている。

企業がサステナビリティ目標を達成するには、社内でサステナビリティ関連のスキル不足解消に取り組むことが不可欠だ。そのための4つの戦略を以下に挙げてみよう。

1 サステナビリティ戦略の優先順位を上げること

まず何より、企業が力強いサステナビリティ戦略を立てることで、現在の従業員にも今後従業員となる可能性のある人にも、サステナビリティに取り組んでいることを明確に示すことができる。これは、価値観を共有できる企業で働きたいと考えている人材に対する強力なアピールになり得る。企業は表立ってサステナビリティ目標を掲げ、その目標を達成するために必要なリソースに投資することで、優秀な人材を引き寄せ、サステナビリティの取り組みに意欲的な従業員を確保することができる。とはいえ、サステナビリティ戦略による効果は適切な人材を集めることだけではない。既存の従業員に対しても、参画を促し、動機付けし、スキルを向上させることにつながる。

サステナビリティ戦略に投資すれば、トレンドや規制を常に先取りしやすくなるという側面もある。各国政府はサステナビリティに関する規制を強化しているが、すでに率先して取り組みを行っている企業は、そうでない企業に比べて、変化に対して有利に適応できるはずだ。今からサステナビリティ戦略に投資することによって、今後の規制遵守に備え、競合の一歩前を行くために必要な知識、スキル、リソースを確保できる。

2 組織全体でさまざまな形の研修を行うこと

当然のことかもしれないが、サステナブルな事業運営を効果的に行うために必要なスキルと知識を身に付けさせるために、教育・研修プログラムは不可欠だ。プログラムにはさまざまな形式(ワークショップ、オンライン研修、メンタープログラム、インターンシップなど)があり、具体的な職能やレベルに合わせて組み立てることができる。社内で企画しても、オンラインのプログラムを活用してもよい。さらには教育機関と共同で作成する方法もある。

この戦略において重要なのは、既存の従業員のレベル向上と新たな人材獲得の準備を並行して行うことだ。そのためには、社内と社外の両方の視点で研修を考える必要がある。マイクロソフトはその好例で、サステナビリティ関連のスキル不足に社内外からアプローチしている。従業員向けの社内研修に力を入れる一方で、同社の「サステナビリティ ラーニング センター」を通じて社外にも学びの機会を提供している。

3 企業文化にサステナビリティを組み込むこと

戦略立案と研修は知識を授け土台を整えるために重要なことだが、企業文化にサステナビリティが根付いて初めて、取り組みは有意義なものになる。2021年に世界経済フォーラムが発表した研究によると、サステナビリティが企業文化に深く根付いている企業は、適切なスキルと知識を持つ従業員を引き寄せて維持する傾向があり、人材流出が抑えられているという。

サステナビリティが根付いた企業文化を形成するために必要なことは、ひとえにサステナビリティを優先し重視する文化を醸成することと、職責に関わらず従業員のサステナビリティ関連スキルの習得を推奨することだ。そのために企業がまずできることは、サステナビリティの目標とターゲットを設定して計画を立てることと、それらを明確に伝えることだ。全従業員を巻き込むのはもちろんのこと、彼らが計画を実行するために何らかの役割を担っていると感じられるようなコミュニケーションが重要となる。

従業員にサステナビリティ目標に向けて取り組む場を提供し、新しい取り組みを提案する権限を与え、ボランティアの機会や従業員リソースグループによって足りない部分を補う。そうすることでサステナビリティが根付いた豊かな社内エコシステムが育まれる。また、リーダーシップを発揮してイノベーションを起こした従業員を評価し、サステナビリティ目標を達成したチームを表彰することも有効だ。従業員は社内でサステナビリティの推進者となることを目標に取り組むことができ、そうしたことに積極的な従業員が社内に残りやすくなる。

4 従業員の採用、育成、評価にサステナビリティを組み込むこと

従業員の採用、育成、評価においてもサステナビリティを重視する必要がある。主要な人事機能に組み込むということだ。ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された研究によると、募集と採用のプロセスで、サステナビリティ目標と社会的インパクトを考慮することが従業員のエンゲージメントを高め、離職率を減らすことにつながるという。具体的には、募集要項、面接の質問項目、選考基準などを通じて、サステナビリティ関連のスキルと経験、さらには新たなスキルを身に着ける意欲までをも重視していることを強調できる。

サステナビリティの取り組みに投資することで、従業員がこの重要な分野に関するスキルを磨き、知識を蓄える機会を多く設けることができる。職能開発研修、面談、業績評価といった通常の人事機能にサステナビリティの要素が組み込まれていれば、上司は意識的に専門スキル開発を行い、社内で新たなチャンスがあれば適切な従業員を配置することも可能になる。

企業が市場競争力を維持するためには、サステナビリティ関連のスキル不足に先手を打って対策を講じる必要がある。具体的には、上述したようにサステナビリティの優先順位を上げ、研修を行い、企業文化や人事機能に組み込むための投資を行うことだ。この事業課題に対して先手を打てば、環境・社会的な課題に対する実績に必ず良い影響が及ぶ。しかし、それを怠れば、企業は時代に取り残されてしまうだろう。

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