立民という泥船 蓮舫と小沢一郎は「自分たちの生活が第一」|坂井広志 私利私欲を捨てて国家、国民のために尽くす。そんな憂国の士と呼べる政治家がほとんどいないのが立憲民主党である。立民は今後どこに向かうのか。蓮舫と小沢一郎は今後どう出るつもりなのか。(サムネイルは蓮舫議員Twitterより)

政権を担う気概なし!

「このままだと立憲民主党はタイタニックになっちまう」

野田佳彦政権時に旧民主党で幹事長を務めた日教組出身の輿石東元参院副議長は最近、旧民主の流れを汲む立民の重鎮にこう漏らした。

1912年に沈没した英豪華客船タイタニック号の残骸を見るツアー中に、潜水艇「タイタン」が水圧でつぶされたとされるニュースが世界の注目を集め、時をほぼ同じくして、フジテレビが映画『タイタニック』を放送する中、輿石氏はタイタニックの沈没を立民の現状に重ね合わせた。

立民は豪華客船というよりむしろ泥船といったところだが、沈没過程にあるのは間違いなかろう。

立民の徳永久志衆院議員(比例近畿)は最近、離党届を提出し、滋賀県大津市での記者会見で「立民の国会対応で『いかがなものか』というのがいくつもあった」と述べた。先の通常国会で立民が内閣不信任決議案を衆院に提出したことを「(離党届の)決定打になった」と説明し、「決議案を出す以上、政権を担うという気概がないといけない」とも語った。

政権を担う気概のない政党にいても仕方がないということだろう。私利私欲を捨てて国家、国民のために尽くす。そんな憂国の士と呼べる政治家が立民にはほとんど見当たらず、そのことは政治不信を招いている理由の一つであることに、所属議員は思いをはせてもらいたい。

「松原仁追い出し作戦」

例えば、松原仁元拉致問題担当相の離党。

ことの顛末の裏に、蓮舫参院議員の私利私欲があったのは否めない。旧衆院東京3区(品川区の一部、大田区の一部など)選出の松原氏は、選挙区10増10減に伴い新たにできる新東京26区(目黒区、大田区の一部)からの出馬を希望した。

松原氏は住居を構えていることなどを理由にしたが、これに「待った」をかけたのが都連幹事長で、目黒区などに有力な支持者をもつ手塚仁雄衆院議員だった。党幹部によると、手塚氏は新26区に蓮舫氏を擁立することを狙ったという。蓮舫氏と手塚氏が昵懇の仲であるのは有名な話だ。

さて、その手塚氏は一昨年の前回衆院選で共産党の支援を得て当選している。

しんぶん赤旗電子版によると、衆院選後、手塚氏は共産党都委員会を訪れ、「市民と野党の共闘ができた選挙をたたかう中で、東京での成果を見れば、この道しかないと改めて思った。今後も共闘路線を進めていきたい。東京は共闘の象徴であり、これをスタートラインにしたい」と語ったという。

先の衆院選での当選をスタートラインとし、蓮舫氏にも共産と共闘してもらい、「立憲共産党」路線を拡大していこうということなのだろう。

新26区での出馬が認められなかった松原氏は、離党に踏み切った。逆にいえば、手塚氏の「松原氏追い出し作戦」は成功したといえる。

泉氏は記者会見で「現職の所属議員の意向というのは最大限尊重されるものだ。都連に注意をした」と語ったが、こうしたトラブルは通常、党本部が裁定に乗り出すものである。手塚氏に押し切られた時点で、泉氏は党代表として指導力が疑われる。

「最終的に都知事を狙っている」

「コップの中の争い」のように見えるこの騒動を本稿で取り上げたのは、党の左派系の本質を印象付ける出来事だったからだ。

立民は憲法改正に後ろ向きで、現実的な外交・安全保障政策を打ち出すことができない。このことに保守系の松原氏はかねて忸怩たる思いを抱いていた。立民は結果として、その松原氏ではなく、日米安全保障条約の廃棄を掲げる共産との連携を狙う手塚氏に軍配を上げたことになる。

中国、ロシア、北朝鮮という専制国家に囲まれている日本は、防衛力や日米同盟を強化し、抑止力を高めるべきであり、それをせずして、どうして国民を守れよう。立民の支持率が低迷し、国民から十分に信頼を得られないのは、外交・安保で現実路線に明確に舵を切っていないからであり、そのことを立民は理解していないのではないだろうか。

立民が生き残りたければ、現実路線にしっかりと舵を切ることである。その役割を担い得る松原氏をみすみす逃し、私利私欲で行動し、左派勢力とがっちり手を組む議員の言いなりになる政党に、良質な人材が集まるとは思えない。

蓮舫氏について党重鎮が「最終的に都知事を狙っている。衆院への鞍替えを狙っているのは箔をつけるためだ」と語れば、別の党関係者は「いやいや、狙っているのは党代表だ」と話すなど、その動向には注目が集まっている。もっとも、手塚氏とともにすっかり「悪者」になってしまった蓮舫氏の鞍替えは、もはや不可能との見方も強まっている。

「死ぬに死にきれない」と小沢一郎

さて、その蓮舫、手塚両氏と連携している小沢一郎衆院議員は、党内グループ「一清会」を結成した。旧民主時代の小沢グループ「一新会」と名前が似ており、筆者にはデジャブ感しかない。

手塚氏や一昨年の党代表選に出馬した小川淳也衆院議員らと「野党候補の一本化で政権交代を実現する有志の会」を立ち上げたばかりである。

共産との連携に慎重な泉氏を引きずり降ろすためには、有志の会を発足させるだけでは不十分で、小沢氏に忠誠を誓う実動部隊が必要だったのだろう。その実動部隊こそが「一清会」にほかならない。

小沢氏は周囲に「政権交代を果たさなければ死ぬに死にきれない」と漏らしており、小沢氏周辺によると、次期衆院選での政権交代を目指しているという。あまりにも性急な野望と言わざるを得ない。政策そっちのけで、政権交代を目的化した言動は、野合であり、自らが権力を握るための、これまた私利私欲といえよう。

旧民主政権末期に小沢氏は、時の首相である野田氏と消費税増税を巡り対立を深めた。2人は協議を重ねたが、最終的に決裂した。野田氏が小沢氏の意のままに動くことはなかった。小沢氏は側近議員らとともに、党を割り、「国民の生活が第一」という名称の新党を結成した。

小沢一郎は政界を引退せよ!

今回も小沢氏は党内で主導権が握れないと判断すれば、側近議員らとともに党を割り、立民を崩壊させる手段に出る可能性がある。「壊し屋」の本領発揮である。新党結成の核となり得るのは「一清会」の面々だろう。

小選挙区制は二大政党政治が基本となるため、少数政党には不利となる。だが、党を割ることで、政界を流動化させ、野党再編の流れを作り、その流れの中で、主導権を握るべく動くというのが、小沢氏のこれまでの行動パターンである。

小選挙区制といっても、正確には小選挙区比例代表並立制であり、少数政党でも比例当選、比例復活の道がある。小沢氏に新党結成の余地を与えているのは、この選挙制度にあるといっても過言ではない。

果たして小沢氏は今後どう出るつもりなのか。

政治が権力闘争であることは否定しない。だが、政策抜きの権力闘争は、政界を混乱させ、政治不信を招くだけである。「死ぬに死にきれない」ではなく、もうそろそろ政界を引退し、後進に道を譲るべきだと筆者は考える。日本の政治は小沢氏のためにあるのではない。

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坂井広志

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