<レスリング>【2023年全日本社会人選手権・特集】7年間、楕円形のボールを追った元レスリング選手が優勝!…男子フリースタイル92kg級・鈴木優輔(いわき市教室)

 

 コロナ禍で2年連続中止となったあと、昨年に続いて開催された全日本社会人選手権。全日本選手権出場やそれ以上を目指す強豪が参加する一方、通常の仕事をこなしながらレスリングを続ける社会人選手も数多く出場する。

 男子フリースタイル92kg級は、消防士として活動する元ラグビー選手の鈴木優輔(いわき市レスリング教室)が出場。全日本大学選手権2位の実績を持つ選手(松井翔=立命館大~ワセダクラブ)、この大会の2019年優勝選手(竹内亮亘=帝塚山大~ALSOK)、そして東日本学生王者だった選手(横田裕大=後述)を連破して見事に優勝した。

▲レスリング復帰第1戦を優勝で飾った鈴木優輔(いわき市教室)

 福島・磐城(いわき)高~同志社大の7年間、楕円形のボールを追ったあと、昨年春に地元の消防本部へUターン就職。「中学までレスリングをやっていました。意外と(技術を)覚えているものですね」と振り返る。

 決勝の相手の横田裕大(ボゴナ・クラブ)は、立大時代の2019年に東日本学生選手権優勝し、同大学から久しぶりの全日本選手権出場を果たした選手。翌年は全日本大学グレコローマン選手権で2位へ(関連記事)。東日本学生リーグ戦の一部昇格を果たして復活の兆しを見せている立大の起爆剤となった選手だ。

 その選手にテクニカルフォール勝ちするのだから、中学時代までのレスリングの基礎がしっかり残っていたのだろう。「疲れました」と苦笑いするだけで、自らの実力をアピールすることはなかったが、同志社大ではHO(フッカー)として活躍していて体力は十分。消防士も体力がなければできない仕事。ベース(技術)があって体力が維持されていれば、十分に勝てるということだろう。

▲ラグビー仕込みの強烈なタックルで攻める鈴木

ラグビー出身選手の全日本選手権出場なるか

 中学までクリナップ・キッズ・クラブ(今村浩之代表)でレスリングをやっていた。小学校時代の全国大会で2度、2位の実績がある。進学した磐城高校にはレスリング部ながく、レスリングの技術を生かせるスポーツとしてラグビーに挑戦。花園出場は“あと1勝”で逃したが、7人制では全国大会に出場。

 卒業後は、関西ラグビー界の雄として早慶明と張り合い4度の大学日本一の伝統を持つ同志社大へ。4年生のときの2021年全国大学選手権でベスト8へ進んだ。地元へ戻って就職し、かつての恩師の今村代表の勧めもあってレスリングに再度取り組んだ。今大会がレスリング復帰第一戦だった。

▲タックルだけでなく、デフェンスも卓越した技術。3試合で無失点だった

 練習は、週2回できればいい方だが、「レスリングができる環境は整っています。健康維持を含めて続けたいですね」と、しばらくはマットで汗を流す予定。この大会での優勝は全日本選手権への出場資格へつながる。日本最高峰の舞台での闘いについては「仕事の都合と、体調と相談しながら、前向きに検討したい」と言う。その過程で自信がついてくれば、「もっと上を目指したいな、と思います」と言う。

 同教室から、男子グレコローマン87kg級では昨年の東日本学生王者で日体大を卒業したばかりの宍戸拓海(福島・ふたば未来学園高卒)と、同97kg級で2019・20年の2年連続で西日本学生王者となった今村太陽(東京・自由ヶ丘学園高~福岡大卒=今村代表の長男)が、ともに3位に入賞。地方のクラブとして着実な成績を残した。地方で頑張るクラブのモデルケースとして注目されよう。

 鈴木は、「福島県レスリング界を引っ張る、という気持ちは?」との問いに、「はい」と力強くうなずいた。

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