「寄付の意味理解できた」 澁谷工業前社長3億円寄付訴訟

会見する澁谷さんの遺族の代理人弁護士=4日、金沢弁護士会館

  ●金沢医科大、請求棄却求める 金沢地裁初弁論

 認知症の疑いがあった澁谷工業(金沢市)前社長の澁谷弘利さんに3億円を寄付させたのは、公序良俗に反し無効だとして、澁谷さんの妻と娘2人が金沢医科大と主治医に損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論は4日、金沢地裁(小川弘持裁判長)であった。大学側は「寄付の意味を理解できないような状況では全くなかった」として請求棄却を求めた。

 大学側は答弁書で「寄付当時、澁谷さんに判断力を欠くような認知症の症状はなく、寄付の意味を理解できないような状況では全くなかった」と主張。澁谷さんが当時、上場企業の澁谷工業社長として経営の第一線にいたことや、銀行で3億円の振り込み手続きが支障なく行われたことからも明らかだと指摘した。

 寄付について「(澁谷さんから)家族を含め他言無用という強い要望があり、その意思に沿って対応をしてきた」と主張。提訴前の民事調停では「(遺族側から)返還請求権の具体的な根拠が示されなかったため、不成立となった」としている。「訴状の中に故人(澁谷さん)や医療従事者の名誉を損なう記載が多数見られることは遺憾」とも指摘した。

 9月19日の次回弁論で大学側が詳細な反論をする。

  ●「債務残る状況で異常」 遺族側、公序良俗違反と主張

 遺族側は訴状で「(澁谷さんには)当時多額の借り入れがあり、債務が残るような状況で寄付をするのは異常だ」とし、判断力を欠いた状態だったと主張。主治医である当時の病院長が家族に確認せず、寄付を進めたのは公序良俗に違反しており、寄付は無効として2億4750万円の損害賠償を求めている。

 訴状によると、澁谷さんは社長在任中の2021年1月、サウナで脱水症状となって倒れ、金沢医科大病院に入院。以前から認知機能の低下が指摘されていたため入院中にMRI検査が実施され、大脳の萎縮が確認された。退院して通院中だった同5月、大学創立50年記念の募金に応じ3億円を寄付し、その後、同10月に心不全のため90歳で亡くなった。

  ●判断力や経緯争点

 閉廷後、原告の代理人が会見した。大下良仁(よしひろ)弁護士(第一東京弁護士会所属)は大学側からの具体的な反論を待っている段階とした上で、「澁谷さんの意思能力(判断力)や寄付受け入れの経緯が争点になる」と述べた。

 谷口央(ひさし)弁護士(富山県弁護士会所属)は、準詐欺容疑での刑事告訴について「被告側の状況を見ながら検討する」と話した。

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