当時「取手グレートタウン」と大々的に売り出された。茨城県取手市双葉地区への入居が始まったのは1966年だった。
新しい家や商店が建ち並び、サウナ店まであった県内有数の新興住宅地。都内に勤務する若い夫婦が数多く移り住んだ。
飲食店「カフェテリア・グリーン」を営む鈴木勝恵さん(82)もその1人。27歳で都内から移住した。「街には活気があった」と振り返る。開店から40年以上、地域に憩いの場を提供してきた。
「大雨で水も出たが、皆さんにひいきにしてもらってきた」とほほ笑む。店舗は2階で、1階は駐車場のため、被害はなかったが、周辺の家は水に漬かった。床上浸水した近所の1人暮らしの男性は家の取り壊しを決断。市外の娘の家に移った。
同地区は少子高齢化が進む社会の縮図と言える。同年代の人たちが住み、年を重ね、子どもたちは街を出ていく。かつての新興の団地は半世紀が過ぎ、高齢者が半数近くを占める。
カフェは娘の中内久美さん(54)が継いだ。「地区の皆さんが来てくれる間は続けたい」と話す。
被災後、民家の前に積まれたごみは、ボランティアの尽力もあり、1カ月がたった今、すっかり姿を消した。市役所藤代庁舎の災害ボランティアセンターも3日、閉鎖された。
一方、市社会福祉協議会の市毛宏明事務局長は微妙な「変化」を感じている。職員らで戸別訪問を始めたが、何度行っても不在の家がある。「一時的な親族宅への避難だろうか」
街を離れるお年寄りもいるのではないかという懸念が増す中、「とにかく地域の住民を支える」と訪問を繰り返す。
浸水時から献身的に活動してきた双葉自治会は、別の「変化」を実感する。
自治会副会長の諏訪道明さん(64)は「住民同士の結束が強まったのも確か」と強調。「古くなった街も再生できるかもしれない」と捉える。
ただ、少子高齢化の影は広がりを増す。コミュニティーの維持は被災前からの課題でもあった。
高齢化に加え、シャッターを閉めた商店が増え、生活には車が欠かせない…。「(水害は)これまでの課題を浮き彫りにした」。支援を続ける茨城NPOセンター・コモンズの横田能洋代表理事が指摘する。
「ここでの生活を諦める人が出ないよう孤立・孤独対策が欠かせない」。幅広い支援の必要性を訴える。