【コラム】マカオのカジノIR事業者がタイに熱視線!(WEB版)/勝部悠人

近日、マカオでカジノIR(統合型リゾート)を運営する2つの事業者がタイへの進出を検討しているというニュースが飛び込んできた。

6月2日にブルームバーグが報じたもので、消息筋の話として、ギャラクシーエンターテインメントグループ(GEG)とMGMチャイナの親会社であるMGMリゾーツがタイにおけるカジノ開設の可能性を検討しており、GEGについてはアラブ首長国連邦への進出も模索しているという内容だ。

タイでカジノ合法化の機運が高まっているという話は、昨年本稿でも取り上げた。その際は、サンズチャイナの親会社であるラスベガスサンズが進出を検討していることが明らかになっていた。今回のGEGとMGMリゾーツを加えて、マカオのカジノ事業者の半分がタイ進出を検討しているということになる。

タイはアジア有数の観光立国として知られ、中国人にとってビザ取得のハードルが低いことから、人気の観光デスティネーションのひとつとなっている。あらためて言及する必要もないが、タイは観光資源が非常に豊富で、中国人のみならず世界各地から多くの観光客の誘致に成功している。タイにはこれまでカジノがなかったが、国内及び海外からの観光客を合わせた市場としてのポテンシャルが大きいことは容易に想像でき、カジノ事業者にとっては魅力的なフロンティアに映るだろう。タイも単なるカジノ施設ではなく、IRを志向しているという。

しかし、なぜ世界最大のカジノ都市であるマカオのプラチナチケットともいえるたった6枚しかないライセンスを持つ各社が、ここにきて目立った海外進出の動きを見せているのだろうか。

上述のブルームバーグの報道では、GEGとMGMリゾーツが海外新市場への進出を計画する背景として、マカオ政府が産業の多角化を急ぎ、カジノ産業への依存度を下げて複合レジャー路線へ転換を図ることを望んでおり、カジノ業界に対する監理強化も進んでいる状況などを挙げた。また、中国本土とマカオの間の往来が再開されたことで、マカオのインバウンド旅客数が急増し、5月のカジノ売上がコロナ前の6割水準まで回復することにつながったが、今後は需要の低下と中国から海外へのフライトキャパシティの増加が見込まれ、今年下半期にかけてマカオ旅行ブームが減退する可能性があると指摘している。

補足すると、近年マカオのカジノ市場を取り巻く環境は目まぐるしく変化しており、内外におけるさまざまな規制強化や大手ジャンケット事業者が絡む事件などを経て、VIPからマスへのシフトが急速に進んだ。近年、中国が海外ギャンブルへの誘客等をめぐって規制を強化したのは周知の通り。マカオの場合、人口はわずか68万人に過ぎず、カジノ売上はインバウンド旅客頼りだ。そのインバウンド旅客の約7割を中国本土からの旅客が占め、香港と台湾を合わせたグレーターチャイナエリア合計では9割にも達する。このところマカオ政府は国際旅客の誘致にカジノ運営会社を巻き込むかたちで取り組んでいるものの、目立った成果は出ていない。マカオ当局は新たな観光スポットやノンゲーミングアクティビティを増やす策に打って出たが、かつてマカオのカジノ売上の大半を占めた中国本土のハイローラーを中心とするVIPによるの売上分の減を埋めるだけのマス客、海外客を呼び込めるまでには時間と労力が必要とみられる。参考までに、マカオの年間カジノ売上のピークは2013年で、以降はアップダウンを繰り返し、コロナ禍を迎えて壊滅的な打撃を受けた。今年1~5月累計のカジノ売上はコロナ前2019年同期の51.7%となっている。これがどのくらいのスピードで、どこまで回復するのかが注目されるが、マスに頼らざるを得ない中、ブルームバーグの報道が指摘する通り、楽観視できないだろう。

依然としてマカオが世界最大のカジノ都市であり、IRの数や規模の面でも群を抜いていることは間違いなく、一朝一夕のうちにその地位が脅かされることはないだろうが、経営側の本音としては、以前ほどおいしい商売ができなくなったのかもしれない。潜在力のあるフロンティアを目指すのは上場企業としても当然だ。特に、タイについては、マカオに拠点を置く事業者にとって補完的な市場といえる。

なお、ブルームバーグの報道を受けて、同日午後に香港証券取引所に上場するGEGとMGMチャイナの株が大きく買われ、終値で前日から4.2%、4.4%上昇。マーケットは好意的な反応を示した。今後、マカオの他の事業者の動きも気がかりだ。

「タイ」のイメージ(資料)=筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。

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