突然の「内定取り消し」連絡にブチギレ…就活生“裏切り”企業への反撃法はある?

“無制限”の内定取り消しは認められていない(プラナ/PIXTA)

就職活動中に「内定」を受けた企業から、「内定取り消し」をされたという女性のツイートがSNS上で話題になった。

投稿者は、転職サイトを通じて企業とメッセージをやりとりしていたとみられ、「内定取り消し」のメッセージをスクリーンショットした画像とともに「信じられない」とSNSに投稿した。

メッセージには〈採用の方向性に変更が生じたため〉〈他の候補者の方がより適切にマッチする結果となったため〉と内定を取り消した理由も書かれていた。

内定を取り消した企業に対し、SNS上では「これは酷い」「会社がアウト」「ヤバい会社に入る前に気づけてよかった」など批判の声が集まっている。

そもそも、企業の一方的な内定取り消しには、何らかの法的な問題はないのだろうか。労働問題に多く対応している伊﨑 竜也弁護士に話を聞いた。

「内定取り消し」自体に問題はない!?

──企業が就活生の「内定取り消し」を行うことは、法的に問題ではないのでしょうか?

伊﨑弁護士:「内定」の法的性質は、「解約権留保付始期付労働契約」であると考えられています。つまり、①会社が解約する権利を持っており、②働き出す日が決められている労働契約ということです。「内定」は気軽に行われている印象ですが、実は法律上でれっきとした労働契約が成立しているのです。

そして、「内定取り消し」とは、上記①を会社が行使すること、難しく言うと、「解約権留保付始期付労働契約における解約権の行使」ということになります。そのため、「内定取り消し」自体に法的な問題がある訳ではありません。

ただし、この「解約権の行使」が可能なケースは限定的です。無制限に認められると、内定を取得した就活生の生活設計が破綻してしまう可能性があるからです。

「会社の言い分」通用しないワケ

──「内定取り消し」が可能なケースとは、どのような場合でしょうか?

伊﨑弁護士:〈採用内定時に知ることができず、または知ることが期待できない事実が後に判明し、しかも、その事実によって内定を取り消すことが合理的である場合〉にのみ、「内定取り消し」が可能であると考えられています。

具体的には、内定を出した学生の怠慢により留年してしまった場合や、会社の秩序に影響を及ぼすような重大な犯罪をした場合に、「内定取り消し」が可能であると考えられています。

──今回話題となったSNS上の投稿では、企業側は〈採用の方向性に変更が生じたため〉〈他の候補者の方がより適切にマッチする結果となったため〉に内定取り消しを行ったと説明しているようです。この言い分は「内定取り消し」をするにあたって、通用するのでしょうか?

伊﨑弁護士:今回のケースは、会社にとって〈他の候補者の方がマッチする〉というのは“予測可能”でしたし、そもそも当該学生に何ら非はありませんから、内定を取り消すことが合理的であるともいえません。ですので、このような言い分は通用しません。

内定取り消しが「無効」であることが認められても…

──投稿を行った方は弁護士への無料相談を行うと投稿しています。個別のケースによると思いますが、一般的に弁護士は「内定取り消し」に対してどのような対応ができますか?

伊﨑弁護士:まず「内定取り消しが無効であること」、すなわち「当該就活生が当該企業で働き始める地位にあること」を企業側に主張していきます。そして、企業側がそれを認めない場合には、労働審判や裁判によって、「当該就活生が当該企業で働き始める地位にあること」の確認を求めていきます。この主張が認められると、内定取り消しが無効であることが認められ、当該就活生は、無事に当該企業で働きだすことができます。

しかし、実際のところ、就活生の気持ちとしては、「内定を取り消してくるような会社では働きたくない」と思っているでしょうし、企業としては「内定を取り消した人が入社してくるのは嫌だなぁ」と思っているでしょう。ですので、現実としては、「内定取り消しが無効なので、実際に会社で働き始める」というよりは、「企業が就活生に解決金を支払って解決する」というケースの方が圧倒的に多いです。

「内定取り消しされたから慰謝料を請求したい!」というご相談をいただくことが多いですが、上記のとおり直ちに「内定取り消し=お金で解決」という関係にはならないことを押さえておく必要があります。

「内定取り消し」連絡を受けたらすべきこと

──「内定取り消し」の連絡が来た際に、就活生がまずするべきこと・とるべき行動や用意する物などを教えてください。

伊﨑弁護士:今後の裁判などに備えて、証拠を集めておくことが重要です。

具体的には、①内定を受けたこと、②内定を取り消されたこと、③内定を取り消した理由について、証拠を押さえておく必要があります。企業と電話でやり取りをしていた方は、あえてその後はメールなどでやり取りしたり、電話の内容は録音しておくなど、①~③の証拠をしっかり集めておくべきです。

また、内定を取り消された就活生は、企業に対して「内定の取り消し理由を証明する書面」の発行を請求することができます。これがあれば①~③をすべて証明することができますので、まずは企業に対し、「内定の取り消し理由を証明する書面」を出してもらうようにしましょう。

希望する会社から内定をもらい、将来に期待していた就活生にとって、「内定取り消し」は絶望するような気持ちになると思います。状況は放置していても良くなることはありませんので、まずは弁護士に相談していただければ、お手伝いできることがあるかと思います。

また、「内定取り消し」をしたい企業も、「内定取り消し」をする前に、ぜひ弁護士に相談してください。「内定取り消し」は簡単にできるものではありませんし、気軽にやってしまうと後々大きなトラブルに発展する可能性があります。弁護士にご相談いただければ、企業・就活生の双方がより納得できるような解決策を提案できる可能性があります。

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