『美少女戦士セーラームーン』の音楽史振り返り!『ムーンライト伝説』が鐘の音ごと華麗に復活

1990年代に社会現象を巻き起こした『美少女戦士セーラームーン』の最新アニメシリーズの最終章が、『劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」』(以下『Cosmos』)として前後編で公開中です。

『Cosmos』の主題歌や挿入歌は、どうやら90年代アニメのファンも絶対押さえておきたいラインナップだとか…?

この記事では、最新作に至るまでの劇場版『美少女戦士セーラームーン』シリーズの音楽の歴史をじっくりと紐解きます!

号泣した人多数、『劇場版美少女戦士セーラームーンR』の『Moon Revenge』

『美少女戦士セーラームーン』の劇場版が初めて製作されたのは、TVアニメ第2シリーズ『美少女戦士セーラームーンR』(1993〜1994年放送)のとき。

1993年12月5日に公開された『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』は、のちに『少女革命ウテナ』でその名を轟かせる幾原邦彦監督にとって初の劇場監督作で、『美少女戦士セーラームーン』ファン以外にも名作映画として語り継がれています。

2020年にNHK BSプレミアムで放送された『全美少女戦士セーラームーンアニメ大投票』では、8万票超の視聴者投票がありましたが、TVシリーズ全200話をしのいで『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』が堂々の1位に輝いていました。ここからもその人気ぶりがうかがえることでしょう。

BiSHが歌う『Moon Revenge』も収録された『美少女戦士セーラームーンTHE 25TH ANNIVERSARY MEMORIAL TRIBUTE』ジャケット。

『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』を名作たらしめているのは、主人公・月野うさぎが「もう誰も1人にしない」という強い思いで、仲間と地球を守るために敵と対峙するクライマックスシーン。

そこで流れるのがエンディングテーマ『Moon Revenge』です。激しい戦いの描写に合わせて丸ごと1曲が使用され、戦いをドラマティックに引き立てます。

うさぎに救われた過去を回想しながらセーラーマーキュリー、セーラーマーズ、セーラージュピター、セーラーヴィーナスの4人が涙を流すシーンに、一緒に号泣した人も少なくないはず。

『Moon Revenge』の歌唱は、声優の三石琴乃さん、久川綾さん、富沢美智恵さん、篠原恵美さん、深見梨加さんがセーラー5戦士として担っています。

ちなみに『Moon Revenge』を作曲したのは、1970年代の大ヒット曲『あなた』で知られる小坂明子さん。

実は小坂さんと『美少女戦士セーラームーン』シリーズの関わりは深く、バンダイ版『美少女戦士セーラームーン』ミュージカルに提供した楽曲はなんと400曲以上! TVシリーズでも『タキシード・ミラージュ』などの人気曲を手がけています。

幕開けは『ムーンライト伝説』が告げる“お約束

そして翌年1994年公開『劇場版 美少女戦士セーラームーンS』のエンディングテーマは『Moonlight Destiny』。

同作ではうさぎのパートナーである黒猫のルナを主人公に、人間の男性への淡い恋が描かれました。

原作者の武内直子先生が書き下ろしたストーリーとなっていて、『Moonlight Destiny』はそんな切ないラブストーリーによくマッチした、ミディアムバラードのナンバーとなっています。

『“らしく”いきましょ』も収録されている、『美少女戦士セーラームーン The 30th Anniversary Memorial Album』ジャケット。

3作目『美少女戦士セーラームーンSuperS セーラー9戦士集結!ブラック・ドリーム・ホールの奇跡』(1995年)のエンディング主題歌は『Morning Moon で会いましょう』。

同時上映の短編『亜美ちゃんの初恋』は水野亜美を主人公としたエピソードで、同作の主題歌『“らしく”いきましょ』では武内先生が作詞を手がけました。

セーラー戦士たちの年頃の女の子としての“戦士ではない”日常が描かれる名曲です。 なお1990年代に公開されたこれら劇場版3作のオープニング主題歌は、いずれもTVシリーズと同じく『ムーンライト伝説』でした。

『美少女戦士セーラームーン』といえば鐘が鳴り響くあのイントロのイメージを持っている人も多いと思いますが、劇場版でも共通した“お約束”として、この曲が物語の始まりを告げる役割を担っていたのです。

28年後の新作で『Moon Revenge』へ向けられたリスペクト

時は流れ、『美少女戦士セーラームーン』の20周年を記念して2014年に新作アニメシリーズ『美少女戦士セーラームーンCrystal』が始動。

原作の第3部までが配信アニメとTVアニメとして展開されたのち、第4部は『劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」』(2021年)として前後編で劇場公開されました。

アニメ「劇場版『美少女戦士セーラームーンEternal』」キービジュアル

『Eternal』の主題歌は3曲あり、前後編共通で使用されているのが、ももいろクローバーZとセーラー5戦士が歌う『月色Chainon』。

ももいろクローバーZは『美少女戦士セーラームーンCrystal』のオープニング主題歌『MOON PRIDE』とエンディング主題歌『月虹』も担当し、『美少女戦士セーラームーン』の新たなアニメシリーズの始まりに花を添えていました。

『月色Chainon』は『月虹』と同じく、作詞に白薔薇sumire、作曲は小坂明子とクレジットされていますが、実は白薔薇sumireとは武内先生のペンネーム!内に秘めた女性らしい強さを描いた、華やかな楽曲に仕上がっています。 残る2曲の主題歌は、《前編》が『私たちになりたくて』、《後編》が『“らしく”いきましょ』。そう、いずれも90年代アニメで使用されていた名曲のカバーです!

『私たちになりたくて』を歌うのは、多くのアニソンランキングで常に上位に入る人気曲『乙女のポリシー』の石田燿子さん。そして『“らしく”いきましょ』は、バンダイ版ミュージカルで初代セーラームーン役を演じていたANZAさんがカバーしました。

いずれも作品との関わりが強いアーティストが関わっており、往年のファンの心もくすぐられます。 『Eternal』で特筆すべきは、劇中歌『Moon Effect』の存在です。

『Eternal』の今千秋監督は、『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』の『Moon Revenge』が自身の原点にあると語り、「『Moon Revenge』のようにシーンを熱く盛り上げる楽曲が欲しい」と、作曲担当の月蝕會議にリクエストしたといいます。

実際、『Eternal』の最終決戦のシーンでは『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』における『Moon Revenge』のように『Moon Effect』が1曲丸ごと使用されており、女王ネヘレニアとの激しい戦いを盛り上げました。

『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』に感動した人には、必ずチェックしてほしいシーンです。

令和の『流れ星へ』はアップテンポに

そして現在公開中の最新作、劇場版『美少女戦士セーラームーンCosmos』。

原作の第5部にあたる<シャドウ・ギャラクティカ>編のストーリーが展開され、シャドウ・ギャラクティカに仲間を次々と狙われて絶望的な状況に陥ったセーラームーンが、愛する人たちを守るために戦いに身を投じていきます。

星野光、大気光、夜天光からなるアイドルグループ・スリーライツが変身するセーラースターライツの3人ももちろん登場。

はたして彼らはセーラームーンの敵なのか味方なのか?謎めいたムードを醸しながら、緊迫した物語の鍵を握る存在です。

『劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」』より。スリーライツの3人。 ©武内直子・PNP/劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」製作委員会

なんと『Cosmos』《前編》のオープニングテーマソングは『ムーンライト伝説』!実は『美少女戦士セーラームーンCrystal』から新作アニメが制作されてきた中で、これまで『ムーンライト伝説』がテーマソングとして使用されたことはなかったんです。

公開中の《前編》を劇場で観て、“お約束”の満を持しての復活に胸を熱くした人も多いかもしれません。歌唱はエターナルセーラー5戦士が担当しています。

しかも「劇場版『美少女戦士セーラームーンCosmos』テーマソング・コレクション」収録の音源は、あの鐘の音入り!実はこれまで発表されてきた『ムーンライト伝説』の音源には鐘の音が入ったバージョンのものはなかったので、これは密かなビッグニュースなのです。

そして『Cosmos』《後編》のオープニングテーマソングは『セーラースターソング』。

90年代アニメでは第1期から第4期まで『ムーンライト伝説』がオープニングを飾っていましたが、第5期『美少女戦士セーラームーン セーラースターズ』だけは、最終決戦を彩るように勇壮な『セーラースターソング』が使用されていました。

『Cosmos』ではこの曲を、セーラー火球とセーラースターライツの3人が歌っています。導入のセーラー火球演じる水樹奈々さんのさすがのハイトーンボイスは圧巻!

そしてそんなセーラー火球を守護するように、セーラースターライツの3人が堂々と歌い上げていきます。

火球皇女とスリーライツ。『劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」』より。 ©武内直子・PNP/劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」製作委員会

第5期といえば、スリーライツの存在が大きいことは言わずもがな。

人気アイドルグループのスリーライツが歌う『流れ星へ』は、90年代ではスローバラードでしたが『Cosmos』では原作準拠のアップテンポになっています。

劇中ではこの曲をライブで大歓声を浴びながらスリーライツが歌い上げる場面も。切ない歌詞にも注目してください。

そして挿入歌の『Happy Marriage Song』。

『美少女戦士セーラームーン』の原作のラストシーンで描かれるのは、あの2人の結婚式。激しい戦いが終わったあとに訪れた平穏の時間、誰もが待ち望んだ瞬間を祝福するように、うさぎと9人の仲間たち、そして地場衛が優しい歌声で歌っています。

主題歌はDaoko『月の花』。

ダンサブルなビートに乗ったドリーミーな歌声がエンドロールを彩ります。

うさぎと衛。『劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」』より。 ©武内直子・PNP/劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」製作委員会

今回は劇場版の音楽を軸に解説しましたが、このように90年代アニメを観ていた人たちにも見逃せない要素が、『Cosmos』には詰まっています。

紹介してきた『Cosmos』の楽曲5曲は、6月30日にリリースされた「劇場版『美少女戦士セーラームーンCosmos』テーマソング・コレクション」にすべて収められているので、ぜひそちらでまとめて聴いて、完結を迎えた『美少女戦士セーラームーン』ワールドに浸ってみてください!

(Medery. Character's/ 岸野 恵加)

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