「研修打ち切りは残念でたまらない」厳しすぎると指摘あった「伝承者」の認定条件緩和へ 原爆体験 語り継ぐために

78年前の原爆の体験を、被爆者本人に代わって語りつぐ「伝承者」という制度があります。この「伝承者」になるための認定条件が「厳しすぎる」という指摘が上がっていたため、広島市は5日付けで制度の一部を緩和しました。

家族伝承者 細川洋 さん(64)
「始業直後の8時15分、何の前触れもなく突然、強烈な閃光と、シーッという変な音に襲われ、父は体ごと吹き飛ばされました」

細川洋さん、「家族伝承者」の1期生です。

家族伝承者とは、被爆者の子や孫といった ”家族” が、原爆の体験を語り継ぐため、広島市が新たに始めた制度です。

1年間の研修を終え、伝承者に認定された細川さん。先月20日、初めての講話をしました。

語り継ぐのは、95歳になった父親の被爆体験です。原爆で大切な妹を亡くした父の悲しみを直接、聞き取り、原稿にして日記や歌を交えて伝えました。

家族伝承者 細川洋 さん(64)
「父も入退院を繰り返して、これは一刻も早く仕上げて、早く資格だけはとりたいと。(体験を引き継ぐ被爆者が)亡くなられて、あきらめたという方の話も聞いていますので」

現在、広島市には「家族伝承者」のほかにも、家族以外でもなれる「被爆体験伝承者」の2種類があります。

どちらも「認定」を受けるには講話原稿に書いた内容が間違いないか、被爆者本人に確認してもらう必要があります。ただ、研修の途中で被爆者が亡くなって原稿の確認ができない場合、研修は打ち切りとなります。

研修中に亡くなった被爆者はこれまで18人。原稿確認ができず、打ち切りとなった研修生は、100人以上に上ります。

多くが体験を受け継ぐ被爆者を別の人に変更して研修を続けましたが、研修そのものをやめた人も20人いるということです。

細川さんの講話を聞いた人
「一生懸命勉強して伝承者になろうとしても、ある日突然(被爆者が)亡くなられたら、そこで終わってしまうんですよね。それはちょっとないんじゃないかな。残念でたまりません」

こうした現状を受けて広島市は、5日付けで制度を緩和しました。今後は途中で研修を打ち切ることなく、広島市が亡くなった被爆者に代わって、体験記などから原稿の内容確認ができるよう変更しました。

この緩和策は過去に研修が打ち切られた人にも、さかのぼって適用されるということで、「伝承者」の増加につながりそうです。

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