福士蒼汰「同じ夢を持つ後輩のためにも」海外初進出『THE HEAD』Season2に単身挑戦し得た財産と新たな希望

福士蒼汰

『THE HEAD』福士蒼汰インタビュー

ドラマの続編が作られるのは、最初の作品の成功あればこそ。Huluオリジナル『THE HEAD』のSeason2が生み出されたのも、まさにそのロジックによる。

心理サバイバル・スリラー『THE HEAD』の醍醐味は、よくあるミステリー作品のように名探偵や警察の介入がなく、逃げ出すことのできない閉ざされた環境で連続殺人事件の真相が暴かれていくところ。Season1が南極の科学研究基地、Season2が太平洋に浮かぶ船上の秘密研究基地と、閉所ではあるが事件が起きる場所のスケールは桁外れにでかい。

“超大型国際連続ドラマ”といわれるように、同シリーズにはさまざまな国と地域の俳優が参加。日本からSeason1に山下智久が、Season2に福士蒼汰が参加したことも話題になっている。そんな期待の国際ドラマの最新シーズンに出演した福士に話を聞いた。

「リアル“デスゲーム”みたいな環境に…」

―まず、福士蒼汰さん演じるユウトというキャラクターについて教えてください。

コンピューターに精通しているユウトは、その技術で大金を稼ぎ、稼いだら休む、といったライフスタイルのキャラクター。そのためにはブラックなものからホワイトな仕事まで厭わず引き受ける。品行方正ではありませんが、ライトで明るい性格。オンラインのサバイバルゲーム好きな一面があるのですが、リアル“デスゲーム”みたいな環境に放り込まれて……という設定を、ホルヘ・ドラド監督と話し合って作りました。

―ユウトのPCの周りには、アニメのフィギュアが飾られ、スクリーンセーバーもそのキャラクター。ユウトはアニメ好きという設定でもありますね。

“日本人はコンピューターが得意でアニメが好き”という、世界から見た日本のイメージが表れているのかもしれません。

「このポジションを山下智久さんから継続できてよかった」

―Season1で脚本家の方々は、国際的なキャラクターたちを学生時代の友人らをモデルに書いたと聞きました。今回の脚本家の方の中にもユウトみたいな友人がいたのかもしれませんね。それ以上にこのシリーズでは、前時代的な表現で恐縮ですが、いわゆる“イケメン枠”に日本人俳優がキャスティングされることに意外性を感じてしまいました。古い例ですが、日本人は『ティファニーで朝食を』のユニオシのように描かれるイメージがありましたから。

たった一人の日本人役を演じることができて光栄でした。このポジションをSeason1の山下智久さんから継続できてよかったです。

―そんな山下さんとは、どんなお話をされましたか?

山下さんからは「いい監督、いいプロデューサーさんなので、安心して飛び込んでいいと思う」とアドバイスをいただき、撮影のお話もいろいろとうかがいました。僕はSeason1の配信当時、山下さんにとっての初の海外作品だと知って「日本人1人で頑張っている。すごいなぁ、いいなぁ」と、視聴者として夢中で観ていました。まさか2年後に自分が出演することになるとは思いもしませんでした。

「日本と海外では“リアリティの求められ方”が違う」

―本作は福士さんにとっても初の海外作品。撮影に入る前、どんな準備を?

最初は、独学の英語が果たしてどこまで通用するのか不安に感じました。でも、やりたいのだからやるしかないという気持ちのほうが強かったんです。

作品に参加する前に、日本と現地それぞれ2人のアクティングコーチのもと、いろいろなことを勉強させていただきました。僕自身、舞台公演中でしたが、舞台終わりや休演の日にセッションをして、英語台詞の一つ一つの発音や抑揚、意味だけではなく、さらにそのキャラクターをどう色づけるか、あるシチュエーションでは気持ちはどう動くかなど、すごく綿密にいろいろなアプローチを学びました。

―具体的にはどんなアプローチだったのでしょう?

例えば、真っ暗な部屋で懐中電灯を使って鍵を見つけるという課題がありました。警備員役の方に絶対に見つかってはいけないという条件のもと、鍵を見つけ出すんです。動きが封じられる恐怖の中、隠れているだけでなく能動的に鍵を探さなければならない。まるで“リアル脱出ゲーム”のようでした。日本では経験したことのないアクティング・レッスンを体験できました。

―演出的に、日本とは決定的に違うと感じたことはありましたか?

リアリティの求められ方が違うように感じました。日本ではリアリティよりも観る方にわかりやすいお芝居を求められることがありますが、『THE HEAD』の演技では嘘のないように演じないといけない。そこがすごく難しかったです。例えば、先ほどのように鍵を探すお芝居なら、懐中電灯で左右をなんとなく照らして“探しているポーズ”をしてしまいがちですが、実際にそういう状況になればじっくり隅々まで探しますよね。お芝居にリアルを追求するというところは、今回新たに学ぶことができました。

「日本生まれ日本育ちな若造でも海外でやれるんだという実績を」

―20代のうちに海外作品に出たい、という希望を持っていらっしゃったと聞きました。

撮影のためにスペインへ向かった5月30日は、僕の29歳の誕生日でした。そのタイミングになにか運命的なものを感じながら夢に向かって踏み出せたことは、とても感慨深かったです。

“20代で海外に挑戦したい”という夢を持った理由のひとつに、日本生まれ日本育ちでも、努力を惜しまなければ20代で海外に挑戦できるんだというところを示せたらいいなという思いがありました。僕を見て、まだ若い後輩たちが同じように目指すきっかけになれたらいいなと。

今回、その第一歩を踏み出すことができたので、この道をもっと整えられるように頑張りたいと思います。

「カンヌが一番楽しく自由に過ごせたかも(笑)」

―撮影は、モロッコに近いスペイン領のテネリフェ島とマドリードで行われたそうですね。前作でも使われたテネリフェ島のスタジオは、かつてメルセデスの倉庫だった約2044平方メートルの場所と、長さ144メートル、幅22メートル、1万2000トンの巨大船アレクサンドリア号、そしてマドリードのスタジオではその船のキャビン、廊下、巨大水槽のある豪華な研究室などのシーンを撮影されたとか。大規模ですね。

2ヶ月の撮影期間でしたが、前半はテネリフェ島、後半はマドリードで過ごしました。最初は慣れない環境でホームシックにもなり、家族や友達に電話することもありましたが、マドリードでは現地での生活をより楽しむことができたと思います。

実は一番苦労したのは、演技よりもプライベートで周りになじむことだったんです。お芝居しているときはユウトという居場所があるので大丈夫だったのですが、プライベートになった瞬間、ちょっとふわふわして、どこに居ていいかわからなくなってしまう。泊まっているホテルのプールやジムに行くと、キャストの誰かがいて「ハーイ、ソウタ、カムヒアー」と声を掛けてくれるのですが、戸惑ってしまって(笑)。

一番みんなと打ち解けたのは、実はカンヌで行われた<MIPCOM CANNES 2022(国際映像コンテンツ見本市)>の会見のとき。撮影が終了してから1~2カ月経って、久々のリユニオンでみんなテンションが上がっていました。2晩しかありませんでしたが、みんなで食事に行くこともできました。カンヌが一番楽しく自由に過ごせたかも(笑)。

「相手を“知ること”こそコミュニケーション」

―『THE HEAD』では、よく知っているつもりでも心の中まで理解できているとは限らない、ということが物語のキーになっていると思います。これは私たちも日常的に直面することで、作品を観ながら人とのコミュニケーションの大切さを実感しました。

コミュニケーションは本当に大切だと思います。作品の中の話ではありませんが、今回、撮影中にみんなの優しさを実感することが多々ありました。たぶん、相手を知ろうとする彼らの姿勢にそれを感じたのだと思います。自分が主張するより、相手に主張させる。一番重要なコミュニケーション能力とは、相手に話してもらえるよう導けることだと思いました。

今回は俳優それぞれ出身国が違ったので、「君の国では、どう言うの?」などとよく話し合いました。言語が違えど、相手を知ることこそコミュニケーション。作品からもそう感じてもらえて嬉しいです。

―劇中で起こる事件のきっかけは、完成すれば気候変動を止められるであろう世紀の発明となる、アーサー・ワイルド博士(ジョン・リンチ)の微生物研究です。真相は、事件のサバイバー(生き残った人々)の発言によってかく乱され、やぶの中。意外な展開からのユウトのアクションシーンにも、はらはらさせられました。

一緒のシーンが多かったのは、アーサー役のジョン・リンチと、グロリア役のノラ・リオス、そしてエイミー役のジョゼフィン・ネルデンでした。特にジョゼフィンとのアクションシーンは、かなり激しくて。ジョゼフィンはノリが良い人。みんなで食事をしているときに、ほかのキャストからアクションシーンを見たいと言われて、その場で一緒に再現したこともありました(笑)。

―人類を生かす研究で人が死んでいくという皮肉は、ミステリーとはそもそも人間の根深さを描くものなのだと教えてくれる、興味深いエンターテインメント大作。ハラハラさせられながら考えさせられるいいドラマでした。20代のうちに海外作品に出るという目標を見事達成された福士さん。次なる目標が気になります。

自分では20代で、こんなにたくさんの作品をやらせていただけるとは思っていませんでした。すべての経験が今の僕を作っていると思うので、とても幸せに思います。30代では、自分のやりたいことと求めていただいていることをバランスよくできるような力をつけていきたいと思っています。

取材・文:関口裕子

撮影:落合由夏

Huluオリジナル『THE HEAD』Season1・Season2はHuluにて全話独占配信中(各シーズン 全6話)

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