「大川原化工機」国賠訴訟で捜査員“捏造”認める…公安警察の捜査能力“劣化”も背景に?

精鋭が集まると言われる公安警察だが…(Ystudio / PIXTA)

「まぁ、捏造(ねつぞう)です」――。

会社幹部ら3名が軍事転用が可能な機器を経済産業大臣の許可を得ずに輸出したとして、外為法違反(無許可輸出)等の罪に問われ、逮捕、起訴された横浜市の「大川原化工機」の無許可輸出事件――。

事件はのちに「法規制に該当することの立証が困難と判断された」との理由で起訴が取り消されたが、「警視庁と検察の捜査は違法」などとして大川原化工機の幹部らが国と東京都に対し約5億6500万円の損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論が6月30日、東京地裁にて行われた。

そして、口頭弁論では、冒頭のように事件が”捏造”だったことが捜査員の口から明らかにされた。

「起訴」は取り消しに…

司法担当記者が事件の経緯について説明する。

「この事件では大川原化工機が制作していたコーヒーや粉ミルクなどの製造に使われる噴霧乾燥機が一部の菌を生きたまま粉状に加工できることから、生物兵器などの軍事転用に可能か否かが争点でした。刑事裁判の準備過程で大川工機は、反証のための度重なる実証実験の行いその結果、経産省が省令で定める輸出規制の要件の一つである“定着した状態で減菌または殺菌ができること”に該当しない可能性が浮上、起訴が取り消されていました。6月30日に行われた口頭弁論では、出廷した捜査員が(事件は)捏造ですね、と証言し周囲をあぜんとさせました」

捜査に携わった現職の捜査員自ら事件を捏造だと認めるのは“前代未聞”のことだが、公判では別の捜査員により上司に「捜査を尽くすため追加で実験するべきだ」と進言するも、「事件がつぶれたらどうするんだ」などと言われたことを証言した…。

捜査能力「劣化」のきっかけは北朝鮮への圧力?

当初から“事件ありき”の筋書きで始まったかのように見える今回の無許可輸出“捏造”事件――。

警察の捏造によるこのような事件が起こった要因の一つとして「公安警察の捜査能力の劣化」が関係しているのではないか、と公安関係者は嘆息する。

「大川工機の事件の場合、噴霧乾燥機をドイツ大手化学メーカーの中国子会社に輸出したことが外為法上の輸出規制に当たるとして組み立てられた事件だが、これまでも北朝鮮関係の不正輸出事件では軍事転用に可能な機器だけではなく、壁紙やニット生地などを輸出したとして逮捕したケースもある。

その背景には第1次安倍政権時代、約3年にわたり警察庁長官を務めた漆間巌元長官の号令のもと、北朝鮮に圧力をかけるべく、国連安保理決議に基づきすでに禁止されていた贅沢品などの対北朝鮮輸出品目の取り締まりの幅を広げたことや些末(さまつ)な事件も扱うようになったことが関係している」

そうした些末な事件を摘発することで、押収した資料などから大型事件につながる場合もあるというが、「些末な事件ばかりを追ううちに、きちんとした“事件の筋読み”や“協力者の獲得”といった公安警察として必要な基礎体力が落ちていることは否めない」(同前)という。

ここ数年は「スパイ事件などの摘発もほとんどない」

法廷で現職の捜査員が“捜査を尽くすことを上司に提言するも却下された”“大きな事件を挙げて『上に行きたい』という欲が捜査幹部にあったのだと思う”などとを明らかにしていることを加味すると、今回の無許可輸出(同上)事件が起きてしまった背景には警視庁公安部内部の人間関係などの問題があった可能性も考えられるが、ここ数年は「スパイ事件などの摘発もほとんどない」と警視庁担当記者が指摘する。

「今年4月にアメリカの連邦捜査局(FBI)が米国内の民主活動家らを監視するために中国がニューヨークに拠点を持っていた「警察署」とされる出先機関が摘発されましたが、以前から中国は世界中にそうした拠点を作っていると言われています。

日本国内にも中国がアメリカのような監視や情報収集拠点を持っているのは想像に難くないですが、いまだ日本ではそうした拠点を摘発したケースがないことからも捜査能力が落ちていると言えるかもしれません」

諜報活動を防止する法制度が整っていないことなどから“スパイ天国”と揶揄される日本――。公安警察の失地回復が期待される。

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