田村美容室 〜 真備町で1997年に開業して27年。地域のお客さんがふらっと立ち寄れる美容室

倉敷市真備町の箭田(やた)郵便局の隣にある「田村美容室」は、なんと真備町では半世紀続く美容室なのだとか。

店内に入ると、美容室を経営する田村明美たむら あけみ)さんから「いらっしゃい」の明るい声が響きわたります。

お店は、田村さんが当時従業員として働いていた「田村美容室」を引き継いだそうです。

当時の田村美容室があった隣の土地へ店舗を移転し、27年も1人で経営しています。

お客さんの年層は10代から90代で、先代の頃から利用しているお客さんもいるそうです。

おもに真備町のかたが利用されており、利用者のつながりで来られるかたがほとんどだとか。

なお田村美容室は、平成30年7月豪雨で被災しました。

行き場のない高齢者や真備町のお客さんのために「頑張らんと」と思い、2か月後にお店を再オープンしたそうです。

地域の人が集まる田村美容室の魅力と、田村明美さんの想いについてお聞きしたので紹介します。

田村美容室の概要

田村美容室は、倉敷市真備町にある美容室です。

イオンモール倉敷付近にある倉敷大橋を渡り、車で15分ほどの田園風景が広がる場所にあります。

メニューには、カット・カラー・パーマがあります。

メニューと料金表は、すべて田村さんの頭の中に組み込まれているのだとか。

店舗でヘアのイメージを伝え、田村さんがその都度確認しながら進めます。

田村美容室の内装

田村美容室は、田村さん1人で経営されているため客席は2席。

待合席があるため早く到着したときには、待つこともできます。

この待合席に座っていると田村さんが声をかけてくれるので、待ち時間も退屈しない空間が生まれます。

さらに、お客さん同士で会話が弾むことも。

差し入れをもってきたよ」と、突然お客さんが来店することもあるのだとか。

昔ながらの美容室の雰囲気があり、懐かしい気持ちになります。

地域のかたがふらっと立ち寄る田村美容室のオーナー、田村明美さんにお話をお聞きしました。

地域に根ざす「田村美容室」の田村明美さんにインタビュー

──田村さんは、昔から美容師になりたいと思っていたのでしょうか

田村(敬称略)──

実は、小さい頃からの夢を貫いた感じです。

小さい頃は、人形の髪の毛ばかりを触っていました。

友達の髪の毛をアレンジすることも好きで、よくやっていたんです。

髪の毛に触れることを楽しんでいる姿を見た家族は私に、「あんた、美容師になりね」と伝えていました。

小学生の頃に、授業で「なりたい職業」を書くところがあって、すでに美容師って書いていたような気がします。

中学生になると自分の髪は自分で切っていましたよ。

その頃には、美容師になりたいという気持ちが強くなっていました。

美容師になるまでの道のり

──夢だった美容師になるまではどのような道のりでしたか?

田村──

当時、美容師は美容室で見習いを数年間続けると、美容師免許が取得できる時代でした。

本当は高校に行かずに美容師の見習いとして働きたいと思っていました。

ですが、両親のすすめもあって高校へ進学。

高校卒業後に、美容室に見習いとして働き始め、2年間修業しました。

働きながら経験を積み、当時開催されていた特別講習を受講して夢だった美容師の道をスタートしています。

──見習いのときから田村美容室で働かれていたのでしょうか?

田村──

実は、別の美容室で見習いとして働いていました。

見習い中に主人と出会い結婚したんですが、嫁ぎ先の義母が経営している美容室が田村美容室でした。

義母は大阪府で美容師をしていましたが、地元真備町に戻りお店をオープンしたそうです。

美容師の免許を取得したあとに、田村美容室にパートで働くことになりました。

子育てをしながら仕事をしていたので、自分のペースで働かせてもらっていましたね。

しかしある日、義母が体調を崩したんです。

このままだと、美容室に来ているお客さんの行き場がなくなってしまうと思い、後継者として田村美容室を引き継ぐことになりました。

引き継ぐタイミングで、隣の空き地へ店舗を移転したんです。

店名を考えましたが、田村美容室のままにしようと決意。

理由は、義母へ会いに来ていたお客さんが足を運びやすいようにするためです。

田村美容室の特徴

──お客さんはどのようなかたが利用されるのでしょうか?

田村──

お客さんの年齢層は、50歳以上のかたが多く、ほとんどが真備町にお住まいのかたが利用しています。

ときには、80代や90代のかたも来ます。

義母のお客さんたちがずっと田村美容室に来てくださっているからなんです。

お客さんたちは何歳になってもオシャレがしたい気持ちがあるので、美容師として希望を叶える感じです。

「メニューは何にする?」や「オススメのシャンプーがあるんよ」など、お客さんと話しながら、ヘアカットやヘアセットをします。

若年層のかたも利用されますが、私の知人やつながりでの紹介が多いです。

1人で運営しているのもあって、女性の利用者がほとんど。

男性はときどきですが、おもに息子の友人が利用することがあります。

常連さんの希望に合わせながらヘアセットやヘアケアをすることもありますよ。

地元に根付く田村美容室ならではの出来事

──長い間真備町で美容室をされていらっしゃいますが、地元ならではの出来事はありますか?

田村──

常連のお客さんがふらっと来ることですね。

ぶどうを持ってくるかたもいれば、「タケノコを炊いたの食べる?」と持ってくるかたもいます。

お客さんが「私は本を読んで帰るけん」と言い、本を読みながら過ごしているなかで、お客さん同士のお話が始まったりすることもありました。

高齢者も利用されるので、昔ながらの食事の調理方法や味付けの工夫を教えてくれることもあります。

あとは、農作業のあとに長靴を履いたまま「予約時間に来たよ」と来られるかたもいるのは地元ならではの出来事です。

実は、田村美容室は平成30年7月豪雨後に、高齢者のお客さんが増えました。

行き場のない高齢者の声を聞き、がむしゃらに頑張っていた時期です。

私には何もできないかもしれないけど、お客さんの話を聞くことはできる

常連のお客さんには、思ったことや感じたことをしゃべられるように場を設定しました。

──がむしゃらに頑張っていた4年間だったのですね。田村さんの経験談をお話してもらえますか。

田村──

そのときは大変だったけど、思い起こせばやり切った。

火事場の馬鹿力のような感じです。

田村美容室と自宅は被災を経験しています。

幸い、息子の友人たちがボランティアで来てくれたこともあって、お店は平成30年11月にオープンできる状態でした。

でも、常連のお客さんから「真備町からよそに行くことができん」、「いつ美容室は開けてくれる?」と言われたんです。

お客さんの声がきっかけでハッとしました。

急いで大工さんへ「自宅はあとからでええから、店舗は最短で何月に再完成しますか?」と相談しました。

大工さんから早くて9月と回答があったので、お店の再オープンを平成30年9月にすることへ決定。

そのときは無我夢中でしたが、なんとか9月に再オープンしたんです。

店舗の内装を決めているときに、お客さんに必要なものを置きたいと思いました。

美容室といえば音楽が流れているイメージがあると思いますが、田村美容室には置き型テレビを設置したんです。

お客さんたちのなかにはテレビもない状態で、スマートフォンの使い方もわからず必要な情報が手に入れられない状態でした。

今必要なことは、お客さんが情報入手できる手段と思ったんです。

何もないときは、みなし仮設へ出張美容室をしていました。

真備町に行き場のない高齢者がおる。お客さんも待っとる。どうにかせんといけん」と思っていました。

お客さんにとってできることは何かを考えて行動していたのかもしれません。

被災を経験しましたが、平成30年7月豪雨をきっかけに田村美容室を利用してくれるかたがいます。

新しい出会いがあったような気がします。

逆境を経験しながらも美容室を続けてきた田村さん

──どのような瞬間が美容師として楽しいと感じますか?

田村──

美容師という仕事が好きなので、お客さんがきれいになることお客さんに会えることが楽しいと感じます。

美容師は少しでも仕事から離れると、手が動かなくなります。

また、世の中の商品の移り変わりも早いためすぐに新商品が開発されるんです。

きれいになりたいお客さんがいるからこそ、美容師としての手の感覚が研ぎ澄ましたり、商品を調べたりできます。

また、お客さんから予約の電話があると、ワクワクします。

明日は忙しいな!」とか「常連のお客さんが来る」など、考えてしまうんです。

美容師としてお客さんがきれいになっていく姿を見るのは楽しいです。

──改めて美容師として働いてきた人生をどう思いますか?

田村──

昔からなりたかった美容師。

美容師としてのやりがいもあるけども、お客さんと話すことも楽しい毎日です。

田村美容室に真備町の人たちが来てくれるのがうれしい。

4年間走りきってきたからこそ、ちょっと休憩を挟みながら、これからも美容師を楽しみたいですね。

田村美容室の物語

倉敷市真備町で半世紀も続く田村美容室。

小さい頃からなりたかった美容師の夢が叶い、楽しく仕事をしている田村さん。

何歳になってもきれいでいたい、オシャレをしたいお客さんの希望を叶える田村美容室。

楽しく仕事を続けている最中で、平成30年7月豪雨を経験し、そのあとも自分にできることをたゆまず行動し続けていました。

「思い起こせば大変だったけどやりきった」と取材時にお話しされた田村さんの、その言葉がとても印象的でした。

どんなときでも田村さんの脳裏には、田村美容室に来ているお客さんたちがいる。

真備町に来た際は、ぜひ田村美容室の看板を探してみてくださいね。

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