社説:公務員65歳定年 民間波及へのモデルに

 60歳で定年を迎えるという、多くの勤労者に一般的だった制度が変わろうとしている。

 国家公務員と地方公務員の定年が段階的に引き上げられる。本年度から61歳とし、その後は2年ごとに1歳ずつ延長し、2031年度に65歳となる。

 急激な少子化で新規就労する若年層が先細りする中、人材を安定して確保する狙いがある。

 年金の支給年齢引き上げを背景に希望者の65歳までの雇用が義務付けられていたが、短時間勤務などの「再任用」が多い。

 民間企業に波及するような定年延長のモデルを示してほしい。

 60歳以降も働き続けるかは本人の判断に基づく。従来通りフルタイムの勤務になるが、月給は60歳を迎えた年度の翌年度から原則7割に引き下げる。民間企業の高齢期雇用の実情を考慮した上で、設定したという。

 人件費の抑制が狙いだろうが、再任用と比べて手取りが減るケースも出てくるとみられる。同じ職場で働くなら、業務内容との整合性に配慮する必要があろう。

 若手らとの世代間のバランスを図ることも大切になる。

 60歳に達した管理職を降格させる「役職定年制」を導入するのは、後進の昇進が滞るのを避けるためである。

 段階的な延長のため、定年退職者は本年度から隔年で出なくなる。その年に新規採用を控えると、年齢構成が不均衡になりかねない。中長期的な定員計画が要る。

 ベテランの経験を生かした配置が実現できなければ、職場の停滞を招く恐れもある。

 定年延長は民間でも進む。昨年6月時点の厚生労働省調査によると、定年を65歳とする企業は約22%だった。地元でも京都信用金庫が本年度から全職員の定年を65歳に引き上げ、村田製作所も同様に24年4月から実施するという。

 さらに25年度から、すべての企業で希望者全員を65歳まで継続雇用することが義務化される。

 生産年齢人口(15~64歳)は昨年10月時点では7420万人と、前年より約30万人減った。この傾向は少子高齢化で加速する。すでに多くの業界や職種で人手不足や採用難が切実となっている。

 先進国の中でも突出して高い日本の高齢者の勤労意欲を生かすことは、人口減少社会に欠かせない。加齢による体力低下などを考慮しつつ、希望する人がやりがいを持ち、無理なく働ける環境を整えていくことが肝要だろう。

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