映画『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』- ウクライナ民謡をもとに生まれたクリスマスソングをモチーフに、ウクライナ、ポーランド、ユダヤ人の三家族が戦火のなか子どもたちを守り抜く姿を描く

ウクライナとポーランドの合作、ウクライナ人のオレシア・モルグレッツ=イサイェンコ監督の『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩』。 「キャロル・オブ・ザ・ベル」はウクライナの民謡「シェドリック」をベースに、1916年にウクライナの作曲家マイコラ・レオントーヴィッチュが編曲。クリスマスソングとして広く知られる曲。映画の中で少女たちの澄んだ声でたびたび歌われるこの曲は、少女たちが過酷な運命に立ち向かうための支えとなっていく曲である。少女の時代から、大人になるまでずっと。

映画の舞台はポーランドのスタニスワヴフ(現ウクライナのイバノフランコフスク)、1939年1月から始まる。 ユダヤ人のアパートに、ウクライナ人とポーランド人の家族が引っ越してくる。国が違えば宗教も違う、職業や立場も違う。ぎくしゃくもする。だがそれぞれに娘のいる三家族。仲良くなる娘たちと娘たちが歌声で、家族の距離は近づく。歌の教師であるウクライナ人の母親ソフィアに娘の歌のレッスンを頼む親たち。それぞれの生活、文化を尊重し合い、不穏な時代の空気の中にも穏やかな時間を作っていく。 しかし第二次世界大戦が本格的に始まる。そこは昔から大国が取り合っている土地。映画の始まりの1939年はソ連が侵攻、戦争中はナチス・ドイツが侵攻、終戦直前には再びソ連が侵攻。敵機が爆撃してくる場面も市街戦の場面もない。だが息を潜めて暮らさなければならない。食べていくには仕事もしなければならない。昨日は仕事に行って今日は殺されるかもしれない。生活の中に戦争がある恐怖。 共にアパートに暮らすポーランド人がソ連兵に、そしてユダヤ人がドイツ兵に連れて行かれてしまう。ウクライナ人夫婦に娘を託す親たち。思いを受け、預かった二人の少女と一人の幼女を自分の娘と同じように守る。更に後半にはドイツ人の子どもも預かるのだ。ソフィアは自分の子どもと同じように他人の、他国の子どもも愛せる人なのだ。家族とは、血の繋がりだけではない。血の繋がりなどなくても、国が違っても作っていくことができる。それが家族だ。 アパートで身を寄せ合いながら国境線など関係なく家族になっていくソフィアと子どもたち。しかし、外では国のためという名目で、国境線を取り合う戦争が続いている。ソ連の旗が掲げられていた同じ街角に、ナチス・ドイツの旗が掲げられる。大国の勝手な国境線の取り合いで、そこで暮らす人々を迫害し、多くの人々の人生が犠牲になる。それは今も続いているのだ。

「キャロル・オブ・ザ・ベル」を支えに生き抜こうとしていく少女たち。歌によって勇気を得られた。未来に繋げていけた。 本作はロシアによるウクライナ侵攻が始まる前の2021年に完成した。オレシア・モルグレッツ=イサイェン監督は現在もキーウの自宅で暮らしているという。どのように暮らしているのだろう。生活の中に戦争があるいうことを想像し考えたい。 本作は、監督の平和への願い、未来への想いが込められているのは間違いない。(Text:遠藤妙子)

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