無数の土石流で孤立… 今も続く復旧工事 住民は被災前の半分以下に 高齢者中心の山あい集落の5年

24世帯が暮らしていた山あいの小さな集落を襲った無数の土石流は、3人の命を奪いました。道路は寸断され、集落は孤立…。住民が避難できたのは、災害発生から2日後でした。あれから5年…、集落に残ったのは災害発生前の半分以下。そのほとんどが高齢者です。

広島県呉市安浦町市原地区に住む 西本正さん(75)。5年前、集落で被災した1人です。

西本正 さん
「(見える範囲は)わしとそこの家だけよ、住みよるのは。あとはみな出とる。さみしいわいね、そりゃ」

西日本豪雨では県内の都市部から山あいの小さな集落まで広い範囲が被災しました。呉市安浦町市原地区は、相次いだ土石流によって大量の土砂に覆われて孤立しました。5年たった今も復旧作業が続いています。

小林康秀 キャスター(上空から 2018年当時)
「市原地区の周辺の山々。無数の土砂崩れの跡が見えます。その土砂が流れたこの市原地区に大量の土砂が流れ込んできました」

西日本豪雨で県内で最も多くの雨が降った地域の1つ、呉市安浦町の市原地区。周辺の山々では無数の土石流が発生し、大量の土砂や流木が集落を飲み込みました。災害発生から1か月たっても被害の爪痕がハッキリと残ったままでした。

周りを山に囲まれた市原地区へとつながるルートは3つありますが、災害発生直後は、いずれも寸断。集落は孤立し、自宅が被災した住民は一時、地区の集会所に避難しました。土砂は集会所の目の前まで迫ったといいます。

災害発生の翌日、市原地区へ消防のヘリが救助に向かいました。集落の中を走る道路は流れこんだ土砂や流木で埋め尽くされ、行き場を失った住民は、空からの救助を待ちました。

消防隊員(2018年当時)
「それではまず、お子さんからあげていきたいと思います。下、救出準備完了。まずは1歳の子どもからです。だいじょうぶ」

全ての住民が市原地区から避難できたのは、災害発生から2日後でした。西本正 さんも、消防ヘリで救助されました。

西本正 さん
「進んだの思うたら、すぐ降りるような。2~3分で。(ヘリが来るのは)そりゃ遅いわ、年寄りが多いけんの。第一に水がない。水がないと、さえんの。次に食べるもん」

今も続く復旧工事… 過疎化に拍車で地区の世帯は被災前の半分以下に

西本さんの自宅には裏山が崩れて大量の土砂が流れ込みました。孤立した市原地区に災害ボランティアが入れるようになったのは、災害の発生から3週間後でした。

西本さんはしばらく家族だけで作業をしていました。自宅は数年かけて自力で修復したといいます。

災害前には畑があった西本さんの自宅裏では、今は治山ダムが建設されています。ダムから流れ出る土砂がたまらないように水路の整備もことしから始まっています。

西本正 さん
「8割は安心できるんじゃが、50年・100年先まで住めるようにしようと思ったら、もう少し(水路を)かさ上げしてほしい」

西日本豪雨を受けて県は市原地区に19の治山ダムの建設を計画。これまでに13のダムが完成しています。

災害直後から地元の要望を県や市へ伝える中心を担ったのが、市原地区の自治会長・中村正美 さんです。

市原地区自治会長 中村正美 さん
「やっぱり雨音ね。あのザーとかゴーとかいう雨の音ね。あれはやっぱり災害直後に何回も避難指示が出たでしょ、あれを思い出すね。最近、安心できとるのは治山ダムができたけんね。そう意味ではある程度、安心はできとるね」

大量の土砂が流れ込み、壊滅的な被害を受けた田畑も少しずつ戻りつつあります。呉市は、2億円の予算をかけて市原地区の農地整備を進めています。ようやくことし、コメ作りができるようになった田んぼもあります。

市原地区自治会長 中村正美 さん
「5年ぶりで初めての田植え。やっぱり気持ちがいいし、これ見よると安心できるよね」

一方で、災害は集落の過疎化に拍車をかけました。5年前に24世帯だった住民のうち残ったのは半分以下の11世帯でした。

市原地区で生まれ育ち、今は集落を離れている 河原洋治 さん夫婦です。7月4日、所有する田んぼの様子を見に帰ってきていました。河原さんは、5年前の土砂災害で実家にいる母親を亡くしました。

河原洋治 さん
「(市原を継ぐ)次の人がいないんですよね。これからどうなるんか…。5年・10年後はどうなるかね。息子らが帰ってやりゃいいんじゃろうけど厳しいんじゃないかなと思いますよね」

今も自宅裏の復旧工事が続く西本正さん。不安があると言いながら、市原地区を離れる気はありません。

西本正 さん
「人はそりゃ多いほどええわの。少ないほどさみしい。できりゃ、ここへ住んでもらいたいわ。ここへ住んどった者はの。でも無理もないわ、あれだけ怖い目にあったら。それぞれ思いはあるけん」

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