シリア現地リポート:北西部への越境支援の継続を…安保理に決議更新を求める

地震で被災したイドリブ県における移動診療=2023年2月19日 © Omar Haj Kadour

トルコから国境を越えてシリア北西部へ人道援助を届ける国連決議(第2672号)が、7月10日に期限を迎える。これを前に、国境なき医師団(MSF)は国連安全保障理事会(以下、「安保理」)に対し、決議の更新を強く要請している。

シリア北西部の人びとの命を守る援助を届け続けるためには、国境を越えた支援を含めあらゆる手段を通じて、人道アクセスを増やし、拡大し、持続可能なものにすることが不可欠だ。

■人道援助が政治交渉のカードに

シリアでMSFの現地活動責任者を務めるセバスチャン・ゲイはこう話す。「7月10日に行われる決議の採択は、シリア北西部の人びとにとって極めて重要なものです。定期的で持続可能な援助提供手段を確保できなければ、大勢の人びとの生命と健康が危険にさらされます。それにも関わらず、人道援助が政治交渉のカードと化していることに失望しています」

今年2月6日にシリア北西部を襲った壊滅的な地震は、以前から切迫していた人道状況を露呈し、同地域への人道アクセスのもろさと欠陥を明らかにした。この震災は、同地域の支援ニーズに十分に対応できていなかった人道援助の不足と非効率性に注目を集める重要な転換点となった。

ゲイは「地震発生から3日間近く、シリア北西部には追加の国際人道援助が一切届かず、人びとは避難所もないまま氷点下の気温にさらされ、適切な医療も受けられないまま過ごしていました。救命援助の到着の遅れは、シリア北西部の孤立を浮き彫りにしたのです」と言う。

■不可欠な越境支援

MSFは他団体とともに、人道援助のルートが限られているために、緊急事態への対応力が損なわれていると繰り返し警鐘を鳴らしてきた。この震災は、援助ルートの多様化と、それを長期的に使えるようにすることの必要性を明らかにした。適切な人道アクセスがあれば、震災後の多くの死を防げたはずだ。

この最近の経験から、越境支援のための決議更新とシリア北西部での人道援助への持続可能なアクセスが確立できなければ、人びとの心身に甚大な影響をもたらすと考えられる。何年もの間、越境支援の仕組みは、当初認可されていた越境地点が4カ所から1カ所に減らされ、更新の有効期間も1年から6カ月に縮められるなど、大きな後退に直面してきた。

越境地点の使用が更新されなければ、シリア北西部の人びとを対象としたMSFや他団体による救命援助の提供も制限される。現在も不測の事態に備えた計画策定が進められているとはいえ、国連が調整・監視する、人道援助を届けるための越境支援ルートは、MSFにとっては現在も信頼性と費用効果の最も高い選択肢である。MSFが現地で行っている大規模な医療活動の維持と、膨大な医療・人道ニーズへの対応は、サプライチェーンが持続可能であればこそ成り立つ。

さらに、現行わずか6カ月という越境支援の有効期限は、以下のような弊害ももたらしている。

・国際機関やシリア国内団体による緊急事態への準備を阻害

・資金援助のサイクルはこの仕組みと連動しているため、長期的で持続可能なプロジェクトの実施を阻害

MSFは、人びとに不可欠な医療施設に資金不足が及ぼす悪影響を目にしてきた。越境支援の期限が更新されないという脅威が常にあるため、緊急事態への準備のために人道援助団体は物資を過剰に備蓄せざるを得ず、無駄につながっている。
■独立した、公平な人道アクセスを

国連安保理決議の対象外であり、震災後に開放されたバブ・アル・サラムとアッライの越境地点が、人道援助の輸送用に引き続き開放されることは極めて重要である。しかし、これらの越境地点の開放が延長されていることは、越境地点バブ・アル・ハワの利用を可能にしている国連決議を更新しない理由にはならない。バブ・アル・ハワは現在も信頼性、費用対効果、利用の幅広さの点で最も優れているからである。

政府支配地域からシリア北西部へ人道援助を届けるための仕組みである「クロスライン」は、越境支援の仕組みを補うことはできても代用はできない。越境支援ルートに関する議論は、実用性、安全性、効率性、適時性に焦点を当てなくてはならない。

MSFは、国連安保理に対し、越境支援を可能する決議の更新を改めて要請する。ゲイは「シリア北西部への独立した、公平な人道アクセスは、何としても確保する必要があるのです。また、何百万人もの命がこの決議にかかっていることを考え、今後も一切の政治的な介入を受けない状態を保たなければなりません」と語った。

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