地元に分娩する医療機関ないから…総合病院を辞めた女性の決心 福井県勝山市で地域唯一の助産院を開業

奥越地方唯一の助産院を開業した吉田結芳さん=福井県勝山市鹿谷町志田のはるひな助産院

 福井県勝山市の女性助産師が5月、奥越地方唯一となる助産院を地元で開業した。県によると、奥越には分娩を担う医療機関がなく、妊婦健診や産前産後のケアを担う医療機関も二つしかない。地域の産科医療を支えていく重圧を感じながらも「母親や赤ちゃんたちに寄り添ってケアをしたい」と使命感に燃えている。

 この女性は吉田結芳(ゆいか)さん(34)。開業のきっかけは、母乳が出やすくなるようにする乳房ケアの手法「BSケア」を学ぶ研修への挑戦だった。昨年5月から1年間学び、同じ研修を受ける開業助産師の姿に「触発された」と話す。

 奥越には助産院がなく「女性たちが満足するケアを受けるため(助産院が多い)福井市まで出向いたり、分娩した病院まで通ったりしていた」という現状も決意を後押しした。「近くでケアを受けたいという人たちもいる」と一念発起し、勤めていた福井市の総合病院を今年3月に退職。自宅の一室を改装し「はるひな助産院」をオープンした。

 奥越唯一の助産院に「最初はワクワクしたけれど、やはりプレッシャーはある」。その責任感からBSケアだけでなく、妊娠に伴う腰痛などの緩和に役立つヨガなど、学んだことを生かして妊婦や産後の女性のケアに精を出す。分娩について「奥越には施設もないし、医師も不足している今の状況では厳しいが、将来的にはできたらいい」と話す。

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 勝山市と連携し、妊婦やその家族を対象とした教室「パパママさろん」の開催事業にも取り組む。7月に1回目の教室が開かれる予定で、妊婦らからの相談を受けたり、赤ちゃんの沐浴の仕方などをアドバイスしたりするという。

 プライベートでは2歳と5歳の2児の母。自身の子育てもあり、以前は仕事を続けるか悩んだ時期もあったが「命が生まれる現場を支援する助産師の仕事をしていきたいと思い直した」と言う。「奥越が好き。ここで助産師として少しでも地元の役に立てたら」と意気込む。

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