樹木を伐採した後に住民説明会? 明治神宮外苑再開発から考える合意形成の重要性

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜7:00~)。6月30日(金)放送の「HOT Word」のコーナーでは、周辺住民らが疑問と怒りを募らせている“神宮外苑再開発”について取り上げました。

◆神宮外苑再開発に大きな疑問と怒り

神宮球場と秩父宮ラグビー場の場所を入れ替え、新たに高層ビル2棟が建つ予定の明治神宮外苑の再開発。エリア全体で3m以上の木を743本伐採する計画です。

この開発を巡り、6月29日、周辺住民ら約60人が事業を認可した東京都に対し認可取り消しなどを求めた訴訟の第1回口頭弁論が東京地裁で開かれました。

訴状によると、原告は事業者の三井不動産などが都の審議会に提出した環境影響評価書は「抜粋する樹木の数を、低木を含めずに申請するなど不十分な内容で認可の前提事実に誤認がある」と主張。

原告でアメリカ人コンサルタントのロッシェル・カップさんは「都は再開発を強引に進め、大きな疑問と怒りを覚える」と意見陳述。さらには「市民の利益より事業者の利益だけを考えて、つき進めている状況は、本当にそれでいいのか。司法が判断する必要性を感じてこの訴訟を起こした」と訴訟理由に言及。一方、東京都は訴えを退けるよう主張し、取材に対し「法に基づき適切に対応してきた」とコメントしています。

この報道に対し、Health for all.jp代表の茶山美鈴さんは、基本的に再開発とは「都であれば、都の住民が豊かに暮らせるようにするためにやるべきこと」とした上で、事業者、デベロッパーや建設会社にとっては、あくまで民間事業であり、場所も神宮外苑という好立地とあって「お金を稼げるかという事業性の観点からプロジェクトを出すのは、ある程度仕方ない」と慮ります。

しかしながら、国・行政が関わっているのであれば、それらが公平性・公益性を保つための「抑止力にならないといけないことではないか」と意見します。

◆樹木を伐採した後に住民説明会!?

今回の再開発の流れは、今年3月から明治神宮第二球場の解体工事に着工。6月27日からは鉄塔の解体とともに、3m以上の樹木1,904本のうち743本を伐採。そして今夏、三井不動産が再び住民説明会を開く方針だとしています。

その後、2028年までに第二球場が解体され、ラグビー場棟を建設。2032年までに秩父宮ラグビー場を解体し、ホテル併設の野球場棟を建設。さらに2036年までに明治神宮野球場を解体し、中央広場などを整備して完成を目指すということです。

国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんは、「公共空間の再開発は人々がより快適に過ごせるようクオリティ・オブ・ライフを上げることが大義のひとつ」と語り、その例として、東京ミッドタウンを挙げます。その現状は「どう見てもお金持ちにとっての快適な空間」と言い、再開発が裕福な人たちだけのものになっていると私見を述べます。

ジャーナリストの春川正明さん曰く、神宮球場内部はかなり劣化しており、建て替えもやむを得ない状況。そのため、当初はラグビー場ともども新設する計画は良いと思ったものの、その内容を知ったときに「この時代に木を切るんだ!?」と驚いたことを明かします。

明治神宮外苑は歴史ある樹木が多く、それを千本近く伐採して新たに植樹するとしているものの、育つまでに時間がかかるがゆえに「木を切らないやり方があるんじゃないか」と疑問を呈します。さらに「住民説明会が、(すでに着工してしまっている)今年の夏頃というのは、完全に住民をバカにしている」とも。

◆日本人は合意形成が苦手…

キャスターの堀潤は、過去にアメリカ・カリフォルニアで"パブリックミーティング”なる仕組みを取材。そこでは「いろいろなステークホルダー、関係者が集まって、1年間ぐらいかけてそれぞれの立場からファクトを出し合い、検証して、どうやって決めるのかやっていた」と振り返ります。一方で、「(日本には)その機能がない。説明会は一方的なもの」と日本はあらゆる場面において合意形成がなされていないことを指摘。

その打開策として、モーリーさんは「行政や再開発などももっと自分のこととして捉えるべき」と主張します。お金のあるなしに関わらず、投票権のある人は投票することができ、「実は自分の影響力を行使できるという自覚を持つことが大事」とモーリーさん。日本人は傍観者になりがちで、"行政がなんとかしてくれるだろう”と他力本願な人が多く、そうした精神性、あり方に疑問を呈します。

茶山さんは、日本の合意形成のあり方に対し、"デジタルの活用”を提案。「デジタルプラットフォームなど開けた場所を作り、住民や関係者以外の人もそこで意見発信をし、立て付けだけではない議論ができる場が必要」と訴えます。

Twitterの「スペース機能」を使って視聴者に意見を求めてみると「(デジタルの活用法としては)アメリカのホワイトハウスがやっているような"陳情サイト”を活用するのもありかなと思う」、「大事なのは合意形成に関するコンセンサスがどこにあるかで、必ず相手の意見が取り入れられることが合意形成ではない。お互い譲るべきところは譲る、飲んでもらうところは飲んでもらうという形での話し合いをすることが必要」といった意見がありました。

◆地元の議会は機能しているのか?

堀はカリフォルニアでのパブリックミーティング取材時、多くの人がオピニオン(意見)ではなくファクト(事実)を求め、あらゆる部分から検証している姿を目の当たりにし、感情的になると折り合いがつかなくなることを痛感したと回顧。

モーリーさんは民主主義・投票の危うさについて示唆。1970年代、アメリカで固定資産税の大幅カットと引き換えに公務員の給料もカット。そのとき、モーリーさんが当時通っていた公立高校の先生が一斉にストライキを起こしたことがあったそうで、「減税したいという住民の意思が必ずしも合理的でバランス良く、みんなが民主主義で投票したから、それが正義かというとそうではない。暴走する直接投票もあることを、身をもって知っているので、みんながそれぞれ意見を言えたから合意的な最適解が生まれるという保証があるわけではない」と案じます。

春川さんは、パブリックミーティングの重要性を感じつつ、「その前に地元の議会が機能しているのか」と指摘。先日の統一地方選挙も昨年の国政選挙と同様に投票率が下がるなか、「民主主義の学校と言われている地元の選挙で民意を代表して戦い、その上でまず議論するべき」と話します。

茶山さんは、投票率が低い日本で施策を打ち出すごとに投票するのはあまり効果がなくナンセンスとし、「(選挙は)投票する層も決まってきているので、その層に偏った結論が出てきてしまう」と危惧。そして、「パブリックミーティングであれ、投票であれ、国民がその施策について知り、リテラシーを持って考えられるような報道などが必要ではないか」と話していました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:30 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組Twitter:@morning_flag
番組Instagram:@morning_flag

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