ホンダF1“第5期”に向け変化「活動を続けやすくなる環境を整えた」/渡辺康治HRC社長インタビュー(1)

 ホンダ・レーシング(HRC)の渡辺康治社長が、レッドブルリンクで開催された2023年F1第10戦オーストリアGPを訪れた。今回はグランプリの視察に来た目的や、2026年からのF1復帰に向けた開発状況やHRCの組織のについて語った。

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──今回、オーストリアGPに視察に来た目的を聞かせてください。

渡辺康治HRC社長(以下、渡辺社長):大きくふたつあって、まずひとつは、先月、我々は2026年以降にアストンマーティンにワークス体制でパワーユニットを供給すると発表しましたが、2025年まではレッドブルとともに戦っていきます。来年以降もチャンピオンを獲り続けていくために、これまでと変わらないサポートを2025年末まで継続していくことをお互いに確認するためです。もうひとつは、ドライバー育成システムを今後、どうやっていくのかです。

グリッドで握手をかわす渡辺康治HRC社長とレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表

──これからインタビューをしていくうえで、話を明確にするためにまず伺いたいのですが、2015年から2021年までの活動を「第4期」、2026年からの活動を「第5期」という呼び方をしていいですか。

渡辺社長:はい、そう言っていただいて、かまいません。

──第4期と第5期のF1活動でパワーユニットサプライヤーとしての違いは何かありますか。

渡辺社長:チームとの契約なので、あまり詳しくは話せないのですが、パワーユニットサプライヤーというのは開発や製造による支出はあるのに対して、コンコルド協定などによる分配金がないため、F1からの収入がほとんどない。また、何かF1に関するマーケティング活動においてもF1に参戦しているコンストラクターがチームを運営しているので、我々パワーユニットサプライヤーにはこれまではほとんど権限がありませんでした。その辺の契約を、今回の第5期を始めるにあたっては見直して、我々が発言できる機会を増やしたり、チームと一緒に相談しながらやっていくことで、ホンダとしてF1活動を続けやすくなる環境を整えました。

──わかりやすく言えば、経済的にホンダ・レーシング(HRC)が本社(本田技研工業)に頼らなくても独立採算していきながらF1活動を継続できるようにしたいと?

渡辺社長:将来的には独立採算を目指すべきだし、それに向けた第一歩だと思っていただいて結構です。

──2026年に向けての現在の開発の状況について。

渡辺社長:2022年の11月15日に国際自動車連盟(FIA)にパワーユニットの製造者登録をしてから、エンジン領域、現存領域などいくつか重要な分野に関しては、それぞれ要素研究を進めてきましたが、5月24日に正式に2026年以降の活動継続が決定したので、タイミングがくれば、次の段階へ進めていくという状況です。

──2026年からのアストンマーティンへの供給はワークス体制となっています。通常ワークス体制というのは無償で供給することとなりますが、今回は違うというですか。

渡辺社長:契約のことなので、その中身についてはあまり申し上げられませんが、経済的にある程度の負担はしてもらっています。

──完全無償ではないと?

渡辺社長:はい。ただ、技術的には車体の開発に合わせて最適化するところでのワークス体制はこれまでと同様です。

──2026年に向けて現在のHRCの組織はどのような状況になっているのか、お聞かせください。

渡辺社長:2021年をもって、F1参戦を終了してからは、それまでF1に関わってきた多くのエンジニアをカーボン・ニュートラルを推進させるために別の部署に配置転換させましたので、限られたスタッフで要素研究を行ってきました。それが5月24日に正式に発表したことで、F1部門のスタッフを補強したり、設備を増強することが可能となりました。

──日本のHRC Sakuraで2026年に向けてのスタッフの補強はどのように行おうと考えているのですか。まずは第4期のメンバーを中心に戻すと考えていていいんでしょうか。

渡辺社長:いや、第4期のメンバーで戻る人もいれば、戻らない人もいます。いまはまず、第5期に向けて、どんな分野のスタッフが何人必要かを洗い出しているところです。今年の夏から秋にかけて、必要なメンバーをそろえたいと思っています。

──絶対数はこれまでも教えていただいていないのでわかりませんが、第4期を上回るのか、それとも少ないメンバーで開発していくのか、どちらでしょうか。

渡辺社長:コストキャップもあるので、効率のいいやり方を考えないといけません。ですから、第4期を上回ることはないと思います。

左から渡辺康治HRC社長、湊谷圭祐エンジニア、吉野誠メカニック

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