公開討論会の質問、ChatGPTで作ってみた (原口和徳)

埼玉県知事選挙(8月6日)に向けた公開討論会が7月10日に開催されます。(主催:公益社団法人日本青年会議所関東地区埼玉ブロック協議会)
筆者は、当日コーディネーターを務める予定ですが、その質問案をChatGPTを使って作ってみました。
その結果や、いかに。(注:本記事では、無償版のライセンスを用いて質問案作りを行っています)

ChatCPTの実力は?

まずはシンプルに尋ねてみます。

質問:埼玉県知事選挙の公開討論会で立候補表明者に質問します。300文字程度で質問を考えてください。

回答:「埼玉県内の高齢者の医療や福祉について、具体的な改善策をお聞かせください。また、それを実現するための財源や具体的な取り組みについても教えてください。」

概ね1分程度の質問を想定して、300文字程度という条件を付けてみたのに対して73文字と少ない文字数で返ってきたところがきになるものの、質問文の内容自体はまとまっており、このまま投げかけたとしても一定の回答はもらえそうです。

でも、埼玉県政には様々な課題があるはずです。
なぜ、このテーマが選ばれているのでしょうか。その問題意識も伝えないと、より具体的な回答をもらうことはできません。

ということで、さらに条件を追加してみます。

条件設定が大切というけれど…

再質問:そのテーマを選んだ理由を盛り込んで、もう一度質問文案を作ってください。

回答:「埼玉県内の高齢者の医療や福祉が改善されることは、私たちの社会の責任です。埼玉県知事選挙に立候補される皆様にお尋ねします。高齢者支援に関して、具体的な改善策とそれを実現するための財源・取り組みについて、どのような計画をお持ちですか?」

まだ、質問の背景がはっきりしません。
そこで、再度聞いてみます。

再々質問:埼玉県の現状、データも含めて、もう一度質問文を作ってください。

回答:「埼玉県は高齢者人口の増加が進み、高齢者の医療や福祉のニーズも高まっています。具体的なデータに基づき、埼玉県知事選挙に立候補される皆様にお尋ねします。現在の埼玉県における高齢者の医療・福祉状況や課題、特に人口の高齢化が進む地域における具体的な課題について、ご存知ですか?また、それに対する改善策と、その実現のために必要な財源や具体的な取り組みについて教えていただけますか?」

高齢者人口が増加し、高齢者の医療や福祉のニーズが高まっていることなど、質問の背景になる部分が盛り込まれてきました。
では、医療や福祉のニーズは、現在の埼玉県のリソースでは対応できない状況にあるのでしょうか。公開討論会で質問する上では、これらの根拠を抑えたうえで訊ねる必要があるのですが、ChatGPTの答えはどうでしょうか。(すこしやり取りをしたうえでの回答を引用します。)

ChatGPTの回答の根拠

質問:埼玉県では、何名ほど医師や看護師、介護士が不足しているのですか。また、それはいつのデータですか。

回答:申し訳ありませんが、私の知識は2021年9月までのものであり、最新の統計データや具体的な人数の不足状況については提供できません。埼玉県における医師や看護師、介護士の不足状況は時期や地域によって変動する可能性があります。最新のデータや具体的な人数については、埼玉県や関連する公的機関、厚生労働省などの公表情報や統計をご参照いただくことをおすすめします。そちらから詳細な情報を入手することができます。

しばしば報じられているように、ChatGPTは一定期間の学習データを基に回答しています。そのため、最新の情報を踏まえた回答をすることはできません。また、それらしいことを回答してくれるのですが、本当にそうなっているのかどうかは、ChatGPTを使用する側で事実を確認し、採用するかどうかを判断する必要があります。
ChatGPT自身も回答しているように、私が使用した無償版ライセンスでは2021年9月までの情報しか取り込まれていないようです。
例えば、埼玉県の保育所等の待機児童数は各年4月1日時点で、2019年1,208人、2020年1,083人、2021年388人、2022年296人と、2021年に大きく減少しました。このようにある時点で大きな変化が生じている情報などは、変化が起きる前の情報から回答が作成されていないかを確認する必要があります。

結局、質問を採用するの?

結論から言うと、公開討論会でChatGPTを使って作った質問をすることは見送りました。
しばらくChatGPTとの対話を続けてみましたが、何を根拠に、どういった判断で質問の対象を選んでいるのかがわからなかったため、そのことを取り上げることが妥当なのかどうかについて判断がつかなかったためです。

図1は、私が学生や市民の方に向けた質問づくりのワークショップを行う際に提示するワークシートの記入ガイドです。

図1_質問づくりワークシート

ワークショップでの質問づくりにおいては、自分を起点として問題をみつけ、その問題が「自分だけの問題ではなく、みんなの問題であり、政治が取り上げるべきものなのか」を考えていきます。その時に、質問に共感性や説得力を持たせるのが、「事実」の存在です。
出発点となる「自分が困った」という事実や、「みんなが困っている」という事実と、そのことを証明するデータが必要になります。

埼玉県には720万人を超える人が住み、県の年間予算も2兆円を超えています。
これだけの人が暮らし、生活に関わる様々な分野で県の事業が行われているとなると、住民が県政に求めるものは多様になります。そこでは、特定のテーマを取り上げる際に「他のテーマを選ばない」という選択が生じることになるからこそ、その理由が重要になってきます。
この部分を、ChatGPTとの対話の中では乗り越えることができませんでした。

とはいえ、ChatGPTは若者の参加の障壁を下げる可能性も十分あります

ChatGPTと対話をすると、「そんな切り口、観点があるのか」「その根拠を調べてみたら面白いな」と気づかされることが多々ありました。
ほかにも、「なにから考えていいのかわからない」、「自分の問題意識が一般的なものなのかどうかを検証するためにどんなデータをみればいいのかわからない」といったときにもChatGPTはなんらかのアドバイスをくれそうです
実はこの「何から考えていいのかわからない」「どんなデータがあるのかわからない」といったことは、質問づくりのワークショップなどで参加者の方から悩み事として質問されることとも重なっています。

生成AIの特性も踏まえてうまく使うことさえできれば、参加者の方の悩みごとの解決を図ることができそうですし、そのことは他の年代に比べて政治参加のためのリテラシーやリソースが少ないといわれる若い世代の参加の障壁を下げる際にも役立てることができそうです。

先日、文部科学省は「初等中等教育段階における生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン」を公表しました。今後、主権者教育の分野でもChatGPTなどの生成AIを用いた取組みが行われ、活用に向けた知見が蓄積されていくことが期待されます。

と、まとめっぽいことを書いてみて思うのですが、まずは公開討論会においてChatGPTを超える質問をしなければ! 頑張ります。

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